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【安倍フェローによる出版図書のお知らせ】
「日本の人事部・アメリカの人事部 日米のコーポレートガバナンスと雇用関係」

日本の人事部・アメリカの人事部 日米のコーポレートガバナンスと雇用関係

サンフォード・M・ジャコビ
カリフォルニア大学ロスアンジェルス校
アンダーソン経営大学院教授(1999年度安倍フェロー)
鈴木良始/伊藤健市/堀龍二 訳 東洋経済新報社 
2005年11月新刊 2800円+税
ISBN4-492-26077-3

 

サンフォード・ジャコビ氏は、1999年度安倍フェローとしてカリフォルニア大学ロサンゼルス校 アンダーソン・スクールから来日し、「人事担当マネージャーとポストモダン時代の職場—日米の比較研究」を研究しました。本書は、当時の研究の成果を数年かけてまとめあげ、日米の大企業におけるコーポレートガバナンスと雇用との関係を読み解き、日米トップレベルの経営者に対して行なった大規模な調査結果も紹介するものです。

第1章 企業経営と資本主義の多様性・・・日本/アメリカ/収斂と国別モデル/展望
第2章 巨大日本企業の人事部—これまでの実態・・・組織志向/戦略と組織構造/影の実力者/組合/人事部でのキャリア/コーポレート・ガバナンス/変化を求める圧力
第3章 現代日本企業の内実・・・各企業概観/挑戦と変化/変化の中の安定/結論
第4章 アメリカにおける人的資源管理の展開・・・初期/ウェルフェア・キャピタリズム/激動/全盛期/70年代/危機——80年代と90年代/新たな可能性
第5章 現代アメリカ企業の内実・・・諸会社/結論
第6章 調査データの比較・・・回答者の概観/傾向と比較
第7章 評価と展望・・・アメリカの将来は/曲がり角に立つ日本

 

■著者による本書籍の紹介文■
 byサンフォード・ジャコビ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)

《概要について》

拙著『日本の人事部・アメリカの人事部』(原題:The Embedded Corporation)は、企業の本社人事部を対象とする、歴史的視点を取り入れた日米比較研究である。難解なテーマと思われるかもしれない。しかし、この企業の本社人事部の研究によって、通常、実証的というよりは概念的に語られることの多いさまざまなテーマをも、扱うことが可能となるのである。こうしたテーマには、マクロからミクロまでさまざまな領域を含む。たとえば、日本および米国に存在するさまざまな形態の「資本主義」、コーポレート・ガバナンスと事業戦略と雇用との関係、経営トップ内部の力関係、また、雇用関係の構築における市場志向主義への移行等である。
本書は内容的に以下の2つの部分から成り立っている。

(1) 日本に焦点を当てた部分。日本企業を歴史的に考察した章(第2章)、および日本企業7社(社名非公開)でのインタビューをもとにした実証主義的な考察の章(第3章)からなる。
(2) アメリカに焦点を当てた部分。同じく歴史的考察を行った章(第4章)、および上記日本企業と同業界の5社でのインタビューに基づく実証主義的な章(第5章)からなる。

そして両国を比較する章(第6章)では、日米の大企業において経営陣を対象に行なった二国間調査のデータを分析する。調査は東京大学教授佐口和郎氏と共同で行なった。

《研究から導き出された結論:典型的パターン、多様性、そして日米の類似点・相違点》

本書で導かれた主な結論のひとつとして、どちらの国にも典型的なパターン(人事部の機能および雇用方針を形成する主流のやり方)がある一方で、そのバリエーションは幅広いということがある。

日本企業の中には、本社人事部の力が弱く、株主を重視したコーポレート・ガバナンスを行い、比較的市場を重視した雇用原則(例えば、中途採用や能力給の幅広い導入)を採用しているかなり市場志向型の企業もある。ただし、このパターンはアメリカでは主流であっても、日本の典型というわけではない。日本では、平均的に見ると、本社人事部が比較的強い力を持ちコーポレート・ガバナンスにおいて大きな役割を担うとともに、ステークホルダーが共有するコーポレート・ガバナンスの気風を維持し、終身雇用や企業内組合といった組織志向の慣行を支えている。

同様に、日本で最も多く見られるこのパターンは、一部のアメリカ企業にも見受けられる。ただし、アメリカでは少数派であり、事業戦略において雇用を重視する傾向の強い企業か、株主から身を守るための何らかの「緩衝材」を持っている企業でのことである。

以上を一言で表現すると、日米両国が進んでいる方向は、人事部の弱体化と株主志向のガバナンスであり、また雇用の不安定化、従業員が手にする「結果」の非標準化につながる市場志向型雇用慣行である。ただ、アメリカ企業のほうが日本企業よりかなり先を進んでおり、そのスピードも速い。こうして、日米それぞれの典型的パターンの隔たりは時間の経過とともに拡大してきた。だが重なり合う部分もある。つまり、日本的なアメリカ企業もあるし、アメリカ的な日本企業も存在するのである。

《日本企業の今後の経営課題》

先進国が英米型資本主義と異なる形態の資本主義を維持することは可能なのか。今日の日本では、ヨーロッパ諸国と同様に、この疑問への関心が高い。この問題は、2つの重要な背景要素に照らして議論されている。1つめの背景要素とは、その国のマクロ経済の状況、そして世界金融市場への統合の度合である。日本経済が低迷しアメリカ経済が比較的堅調であった1990年代、大企業における日本的な組織づくりはやがて行き詰まる、と主張することは容易であった。しかし日本経済の回復が始まった2002年以降、日本企業がグローバル経済の中で国際競争力を強めるためにはアメリカ企業に倣うべきという主張は影を潜めた。トヨタ自動車の奥田氏、キヤノンの御手洗氏ほか一部の日本企業エグゼクティブは、日本の大企業は他と違うからこそ強いと主張し、比較優位性を保つためにもその違いを維持すべきだとまで発言している。ゼネラルモーターズ対トヨタの例で考えれば、この見解は分かりやすいだろう。

もう1つの背景要素は、国際資本市場に関連する問題である。アメリカ企業を市場志向型へと駆り立てる大きな原動力の一つは、コーポレート・ガバナンスにおける株主至上主義の高まりである。こうした傾向は1980年代初め頃から見られるようになった。この理念のもと、経営者の仕事は株主価値を最大にすることである。従業員など利害関係者集団は企業の資源を要求する特別な権利を持たない、とされている。アメリカ企業においては、これが、従業員より株主を優遇する資源再分配や、企業財政重視の経営アプローチにつながっていった。

株主至上主義は日本でも見られるようになり、特に、外国人株主の比率の高い企業で顕著になっている。現在では、東京株式市場に上場している企業の株の約25%が外国人株主によって保有されており、過去15年の間に大幅に増加した。さらに、未公開株式の国内外投資家が日本市場に目をつけ、経営面への間接的圧力もしくは敵対的買収によって、日本企業からより大きな利益を引き出そうとしている。日本企業に対して株主価値を重視した経営を導入させようとするプレッシャーは非常に強い。先頃行われた法改正により敵対的M&Aが行われやすくなったため、今後もさらに強まって行くだろう。

こう考えてくると、日本の企業運営は未だに独自であるという考え方の将来は、ふたつの相反するプレッシャーの解決にかかっていると言うことができる。プレッシャーの1つは、社内資源に大いに投資することにより競争力をつけるべきとするものであり、もう一つは、企業は従業員よりも株主の利益を考えて優先順位を見直すべきとする国際資本市場からのプレッシャーなのである。

2006年6月

 

Profile

サンフォード・M・ジャコビ Sanford.M.Jacoby

カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院教授。経営、労働、歴史、政策研究を専門とする。1999年度安倍フェロー。

1953年生まれニューヨーク出身。ペンシルヴァニア大学経済学部を卒業後、カリフォルニア大学バークリー校で経済学の博士号を取得。1980年より一貫してUCLAの学部及びアンダーソン経営大学院で教鞭をとる。学会活動以外にもComparative Labor Law and Policy Journal の共同編集、California Management Review等の編集委員を歴任。安倍フェロ—シップにて、「人事担当マネージャーとポストモダン時代の職場—日米の比較研究」を上梓。これが本書のもととなる。

 

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