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NPOフェローはいま
「母子家庭の子どもの貧困の世襲を断ち切るために」

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「母子家庭の子どもの貧困の世襲を断ち切るために」

あしなが育英会理事
神戸レインボーハウス館長・学生寮「虹の心塾」塾頭
 小河 光治
第3期(2002年度)NPOフェロー

私は、日本初の遺児の心のケアセンター「あしなが育英会・神戸レインボーハウス(虹の家)」の館長を務めさせていただいています。虹の家は、阪神・淡路大震災で親を亡くした573人の遺児の心のケアのために1999年に建てられ、10年が経ちました。現在は、震災遺児のみならず、JR福知山線事故の遺児や近隣の病気や自殺などで親を亡くした遺児らのケア活動もしています。また、虹の家には遺児の負担が月1万円で生活保護家庭の遺児でも大学進学ができるための学生寮も併設しています。この学生寮「虹の心塾」塾頭も兼務し、全国各地から関西の大学に通う遺児40人と生活しています。

アメリカ孤児財団訪問の写真
アメリカ孤児財団訪問

私は、NPOフェロー第3期生として、2002年11月からワシントンDC近郊のヴァージニア州アレキサンドリア市にある全米ホスピス・緩和ケア協会(The National Hospice and Palliative Care Organization, 以下NHPCO)を拠点に1年間の研修をさせていただきました。

私がこの研修への応募を決意させたのは、自殺で親を亡くした自死遺児の学生たちでした。彼らは「お父さん死なないで」と働き盛りの父親の自殺を少しでも少なくしたいと願い、遺された自死遺児が「自殺って言えない」など、さまざまな苦しみにあえぐ人々のことを思い、自らの悲痛な体験を公表して、小泉首相(当時)に面会し自殺対策を直訴したり、自死遺児の文集を発行するなど全身全霊を注いで活動していました。彼らの傍らでこの運動に携わっていた私は、「いま遺児のために何が求められていて、何をしなくてはならないか」という問題を突きつけられたように感じました。当時、全米には数百か所もの遺児の心のケアの拠点があるのに、日本は神戸に1カ所だけ。また貧困にあえぐ遺児が貧困から脱出するには教育こそ大切ですが、経済的な事情で大学進学を断念する遺児が続出していました。

あしなが育英会は「東京にも遺児の心のケアセンターと大規模な学生寮が必要だ」という認識で新たなプロジェクトが始動し、私はそのメンバーになりました。日本には本会以外に前例がほとんどないプロジェクトです。アメリカで心のケアや教育のノウハウだけに止まらず、NPOの統治や運営方法、ボランティアの力など幅広く学びたいと考えました。

NHPCOは、全米のホスピスの8割が加盟している全米最大、最も歴史のある協会で、私の研修の目的に最も適した団体でした。アメリカに約4,000あるホスピスのほとんどが患者の死後2年間、その遺族のケアに携わっていて、遺児を含めた遺族ケアの拠点になっています。また、あるホスピスでは有給役職員数300人に対してボランティア数は400人であるなど、大組織の運営についても学ぶ機会をいただきました。

アメリカでの生活者の視点から数多くの学びもありました。私が生活したアレキサンドリアは、建国前にポトマック川の港町として開けた古都で、美しい街並みが保存されています。また、全米最大の募金団体「ユナイテッド・ウェイ」本部をはじめ、NPOの本部が数多くある町で地域社会とNPOを肌で知ることができました。とくに、短期間でしたが当時小学4年生だった息子が、日本人の先生・生徒ゼロ(本人以外)、アフリカ系児童が約7割の現地校に通学したため、PTA活動などで得た経験も貴重でした。

帰国後すぐに、新設する心のケアセンター・学生寮のプロジェクトメンバーに復帰し、土地探しや設計、建設期間中の仮学生寮の運営などに携わりました。06年春に東京・日野市に「あしなが心塾レインボーハウス」が完成し、全国の遺児の心のケアと180人収容の学生寮がスタートしました。

いま私は、遺児学生とともに、「遺児ら貧困にあえぐ子どもたちの貧困の世襲をいかに断ち切るか」という問題に取り組んでいます。アメリカの抱える貧困問題がいずれ日本でも大きな問題になるだろうと予測していましたが、こんなにも早く日本で深刻化するとは思ってもみませんでした。

あしなが育英会は、母親の年間勤労所得額の平均額を毎年調査しています。その推移を見ると、98年には200万円(国税庁統計・一般勤労者所得比43%)だった母親の所得が年々減少し、06年は137万円(一般の32%)まで落ち込みました。08年9月に本会が実施した「遺児母子家庭緊急調査」では、この半年間に物価高などで母子家庭の生活が「苦しくなった」が9割、母の月給は4人に1人が「下がった」と回答しました。「肉が買えない。子どもにお肉を思いっきり食べさせたい」(大阪・44歳)、「食材の安全性を考慮しなくなった。体に悪いものも食べなくては生きていけない」(千葉・51歳)、「風呂の残り湯は、洗濯だけじゃなくトイレにも利用している」(佐賀・55歳)などの極貧生活を強いられています。

あしなが育英会では現在、全国の約5,500人の遺児高校生、大学生らに奨学金を貸与していますが、奨学金で進学できても卒業後に正社員として働くことが年々厳しくなっているのが現状です。貧困家庭の遺児は学習塾にも通えず小中学生の段階でドロップアウトしてしまう子どもも少なくありません。「どうせ、がんばっても仕方がない」と意欲まで奪ってしまう貧困の現実。厚生労働省の調査(03年)では、母子家庭は122万5千世帯で、その子どもの数は194万人にのぼります。

遺児と母親の全国大会の写真
遺児と母親の全国大会

「母子家庭の親を支援し、遺児らに教育を受ける機会を与え、子どもを立派に成長させ、次世代への貧困の世襲を断ち切らなければ」と08年10月、遺児学生が「遺児と母親の全国大会」を東京で17年ぶりに開きました。全国から遺児母子400人が集まり集会の後、銀座をむしろ旗を掲げてデモ行進しました。

私はこの問題の解決には、イギリスのブレア・ブラウン政権が最重要課題として推し進め、効果をあげている教育改革を日本の政策にも取り込むなど政治が動くこと、そしてアメリカで学んだNPOを核として地域社会と連携するなど社会が動くことが必要だと考えています。

日本の教育予算の国内総生産に占める割合は年々減少し3.4%で、経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development, OECD)加盟の28カ国中、最下位に転落しました。イギリスのような国をあげて抜本的な就労支援も含めた教育改革が急務です。

アメリカでは97年、クリントン大統領(当時)の呼びかけで歴代米国大統領サミットが開かれ、「将来を担う青少年の育成こそが21世紀におけるアメリカの最大課題」と位置づけ、そのために全米の市民一人ひとりが具体的に行動することを呼びかける「アメリカの約束(America's Promise)」という宣言を発表し、この宣言を推し進めるためにNPOAmerica's Promise」が設立されました。「青少年の犯罪や麻薬などの問題が年々深刻化している。そのまま成人になれば、その街の治安はますます悪くなり、地域の経済にも大きな悪影響を及ぼす。とくに放課後の子どもたちを地域全体で面倒みるためにさまざまな活動をしている」とその本部を訪問し担当者から聞きました。私がアメリカのホスピスで出会ったボランティアからいつも感じたのは彼女たちの「ホスピタリティ」でした。あしなが育英会を支えてくださっている街頭募金や継続支援「あしながさん」もやはり「温かい心」のこもったご寄付です。子どもたちを育むために一番大切なのは愛情であり、「民」の力もとても大切だと思います。

学生寮での書き初めの写真
学生寮での書き初め

最近、電車の中の広告で「子どもはみんなの子ども」という言葉に出会いました。少子高齢化の進む日本。遺児などの母子家庭、障害者家庭などさまざまな事情で貧困にあえいでいる子どもたちを社会全体で育てていかなくては、日本の将来に希望はありません。虐げられている人々が連帯して社会や政治に訴える運動が今後もさらに盛んになり、社会や政治を動かすまでの力に発展するために、今後も遺児学生たちと奮闘します。


※本報告内容は、執筆者の見解によるもので、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)の公式見解とは必ずしも一致するものではありません。

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