本文へ 日米センター(CGP)は日本とアメリカにて、助成、フェローシップ、ボランティア、人物交流、情報発信を行なっています。
国際交流基金 日米センター
CGP NY | 国際交流基金 | English | サイトマップ
トップページ
日米センターとは
公開イベント
団体で助成金をお探しの方へ
公募助成プログラム
申請に関するQ&A
採用後の手続きの流れ
助成事業紹介レポート
助成データベース
個人向け支援・ボランティアの機会をお探しの方へ
CGPの人物交流事業
情報室(刊行物、寄稿など)
アクセス
お問合せ
FAQ
更新履歴
日米センター公募助成プログラム
CULCON(カルコン) 日米文化教育交流会
日米草の根交流コーディネーター派遣プログラム
メール配信サービス
コラムス
団体で助成金をお探しの方へ

 

日米センター 地域・草の根交流プロジェクトレポート Vol.12

地域・草の根交流プロジェクトレポート一覧

アラスカ先住民招へいプロジェクト:「地域に根ざした教育」を考える

特定非営利活動法人ECOPLUS 代表理事 高野孝子

 
高野孝子氏の写真
高野孝子氏
「地域のお年寄りから、生き方や生きる上で必要な姿勢や知識を学んでください。人が亡くなると、その人の知識ごとそっくりなくなってしまいます。今残っている貴重な自然を大切にしてください。それはみなさんの生存基盤です。そして地域の未来は、子どもからお年寄りまで、すべての層と一緒に創造していくことを心がけてください」。

新潟県でのワークショップで、「みなさんへ何かメッセージは?」と聞かれ、ダチュックさん(注:シシリア・マーツ氏の民族名)はこう答えた。ダチュックさんはアラスカ州ベセルに暮らす、チュピック民族の長老だ。大学を退職し、近年はチュピック文化に調和した教育プログラムの開発に力を注いでいる。

2006年11月23日から13日間、アラスカから招いた3名の教育者を中心に、日本各地で「地域に根ざした教育」(Place-based education: PBE)プロジェクトを行った。国際交流基金日米センターの支援を受けて、アラスカ先住民族の自然観をもとに「学び」をもう一度見直すことが目的だった。

今回来日したのは、ダチュックさんの他、アラスカ大学多文化スタディのバーンハート教授、ベセル放送局シニアプロデューサーのマイク・マーツさん。

新潟・栃窪でのグループワークの写真
新潟・栃窪でのグループワーク
PBEとは、地理や気候、伝統文化などを含め、その地域にある知識を重視する教育だ。地域社会とも密接に関わる。全人的な教育のためには、学校教育で求めてきた広く一般的な学習だけでは十分ではなく、地域の人々や先祖らとつながり、そこの自然と関わることで生まれる絆は、個人のアイデンティティや健康・幸福感に大きく関与するとされる。地域への深い理解、地域との絆が、広い世界で活動するための扉だとする考え方だ。

明治維新以降、日本は教育を欧米からの枠組みで進めてきた。しかし、日本の世界観や文化は、北米をはじめとするいくつかの場所の先住民族と近い点がある。北米、特にアラスカにおいてPBEは、白人アメリカ人とは文化を異にする先住民族たちが、自分たちに適した教育を求める動きと重なっている。
北米先住民族の世界観や歴史と近年の取り組みから、私達は多くを学び、自分たちが来た道を見つめ直すことができる。

また、PBEは21世紀の重要な課題である「持続可能な社会作り」の視点からも注目されている。それぞれの土地で幾世代も続く暮らしがあり、自然環境と共存するための智恵や手法があった。それらを学ぶ中に、持続可能な社会を目指すヒントがあるだろうということだ。

私たちは、PBEの議論を各地で深めるため、そしてこの貴重な機会を地域の人々と分かち合うため、アラスカからの教育者らと共にワークショップを実施する団体を公募した。
新潟、静岡、北海道3地域でのワークショップはそれぞれ特徴ある、かつパワフルなものだった。

ダチュック氏の写真1
北海道ワークショップで
アイヌ料理についての解説を聞く
ダチュックさん
北海道では、アラスカからの教育者に加え、アイヌ研究に携わっている人たち、アイヌ文化の普及に貢献しているアイヌの人たちが講師となり、さまざまな立場や職業の人たちが二日間に渡ってのべ120名ほど参加した。

初日はアイヌの音楽家である小川基さんのトンコリ演奏から入り、チュピック民族の精神文化や、アイヌの精神をアートから探る研究発表、アイヌの輪踊り、最後にはアイヌの料理と、学生がお年寄りから習って作った地元の料理を囲んでの懇親会となった。

ダチュックさんは二日間を通して、アラスカ先住民族が経験した同化政策や現在の状況、チュピックの世界観や教育など、自分の経験を例に上げながら語った。アイヌの人たちにとっては自らの体験と重なることも多くあったはずだ。

ダチュック氏の写真2
北海道ワークショップで
話をするダチュックさん
同時に、ダチュックさん自身もアラスカ先住民族とアイヌ民族共通の課題に気づいた。
例えば、アイヌ言語継続の課題、本質的なアイヌ民俗舞踊が継承されていない課題などに関して、アラスカでも母国語を話せる人や正しく踊れる人は少なくなっていると応じた。多くの人たちが、外見がチュピックでも中身は空っぽ、つまり文化的にチュピックでないと言う。これはアイデンティティに関して多くの日本人が抱える戸惑いと共通するかもしれない。

ダチュックさんは、「私は小さい時から親元を離れ、寄宿舎から学校に通いました。英語は自分たちの言葉ではなく、まったく話せませんでしたが、白人の先生たちは英語しか使えませんでした」と語り、「大学の教職課程で、これは欧米人になるための教育、『私』ではないものになる教育だと気づいた」と言った。
自分たちの文化に根ざした教育の大切さを悟り、そこから開発した、地域の長老たちから「ひと」として必要な知識や考え方を教えてもらう教育プログラムを紹介してくれた。

その中には、長老の持っている、自然や動物に対する深く広い知識や世界観、価値観が織り込まれていた。人は独立した存在ではなく、家族や地域、すべてとつながっている存在であること、あざらしや空、風といった自然のすべてのものを敬うというアラスカ先住民の精神世界に基づいたものだった。

それぞれの発表と議論、音楽、踊り、食べ物などが結びつき、会場では言葉に言い表せないエネルギーの高まりがあった。背景には、アイヌ民族と和人の重い歴史と今がある。アイヌ音楽家である小川さんは自らが通ってきた苦しみや差別を語りながら、講師の依頼に訪れてきた学生たちに対して、「アイヌと何をしたいんだ。それが伝わってこなければ俺はやらないぞ」と問い詰めたという。
アイヌの若者たちが置かれている立場、そしてアイヌの人がアイヌの音楽を日本人社会の中で演奏することの意味を、学生たちは理解していく。ワークショップを準備する過程ですでに、深い気づきや相互理解が芽生えていた。

新潟ワークショップの写真
新潟ワークショップ参加者との大根引き
ほかにも群馬県や東京都で、地域に焦点をあてた教育 の試みに触れ、意見を交換することができた。行政・NPO・地域が一緒に環境保全に取り組んでいるケース(群馬県)や、地元の自然との触れ合いを大切にする保育園(東京都)、地域のこれからを考える若手経営者らグループ(新潟県)などの情熱は、アラスカ勢の胸を打った。

そして日本の地域が抱える課題などについても深い理解につながった。東京の講演会を合わせて、のべ600名ほどが、ダチュックさんらと議論し、交流したことになる。関わった人たちの多くは、地域固有の学びの大切さに気づくことがあったように思う。関わった団体は、それぞれの地域とのつながりをいっそう強くした。

どちらかが一方的に話しを聞くのではなく、語り合い、一緒に踊り、ともに大根を収穫し、同じ料理を食べたことで、より深い理解や絆を育むことができたのではないだろうか。

質疑の時間がなかった東京講演会では、講演直後に実施したアンケートに質問を書いてもらった。それに対してアラスカ勢が帰国後返答し、10数項目にわたる回答をECOPLUSWebサイトに掲載した。参加者の一人からは「その後の回答までいただけるとは思ってもいませんでしたので感激です」と、すぐに連絡が入った。

同じアンケートでは50名以上が、今後、地域に根ざした教育に関心のある人たちのネットワーク作りに興味があるとした。「学び」を自然や地域、社会と有機的に結びつけて考える、小さいけれど力強い芽が生まれてきたように思う。ECOPLUSはこの芽を大切に育て、各地の団体と共に平和で豊かな社会を目指し、地域に根ざした教育の議論と実践の広がりをサポートしていきたいと考える。アラスカからも、これからの連携に関して具体的な提案が届いている。ご賛同、ご協力をいただいた多くの方々に改めて感謝したい。

2007年2月

Top

TOKYO OFFICE
国際交流基金(ジャパンファウンデーション) 日米センター
160-0004 東京都新宿区四谷4-16-3
Tel (03)5369-6072 Fax (03)5369-6042
NEWYORK OFFICE
The Japan Foundation Center for Global Partnership, N.Y.
1700 Broadway, 15F, New York, NY 10019, U.S.A
Tel (212)489-1255 Fax (212)489-1344