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日米センター 知的交流プロジェクトレポート Vol.16

知的交流プロジェクトレポート一覧

「ドメスティック・バイオレンス克服に向けての『共感』の促進:
市民社会における安全な生活の希求」プロジェクトから見えてきたこと

吉備国際大学大学院(通信制)国際協力研究科長
高橋睦子


筆者をこのプロジェクトへと導いたのは偶然の出会いの連鎖である。元ニューヨーク州最高裁判所判事長マージョリー・D・フィールズ氏の島根県での講演会(2002年11月、松江市)で通訳をさせていただいたことが大きな転機となった。同氏との会話で強く印象に残った「empathy(共感)」という言葉は、他者/相手の被害・痛手と傷つきやすさ(バルネラビリティ)についての関心と想像力だと筆者は理解している。

プロジェクトの立ち上げは手探りの連続でかなり無謀な挑戦にも思われた。それまで主にフィンランドの福祉政策を主な研究テーマにしてきた筆者は、米国との関わりは少なく、この暴力問題のエキスパートでも活動家でもない。けれども幸い多くの方の善意に支えられ、強力なコア・メンバーを得ることができた。NPO法人レジリエンス代表・中島幸子氏、アウェア(DV加害者プログラムとデートDV予防教育を行なっている民間団体, )代表の山口のり子氏、弁護士・長谷川京子氏(日本DV予防・情報センター)らの助言は常に的確であった。

DV・虐待 加害者の実体を知るの表紙画像

このプロジェクトのねらいは、(1)親密な関係での暴力について理解を深めること、(2)実際の問題への対応でのポイントを把握することである。主な事業の内容は、ニューヨーク・ボストン視察、ランディ・バンクロフトの著書『Why Does He Do That? Inside the Minds of Angry and Controlling Men』の翻訳出版、そして、米国から研究者や専門家を招へいしての講演・研修会の実施であった。

暴力の形態は多様であるが、親密な関係での暴力は、究極には被害者に対する加害者のパワーとコントロールである。上述の著書の日本語版『DV・虐待 加害者の実体を知る—あなた自身の人生を取り戻すためのガイド』(明石書店、2008年)は、「加害者についてのミステリーと誤解」の謎解きを一般向けにわかりやすく語っている。

知的交流プロジェクトの様子の写真1
V.K.カヌハさん
(岡山, 2007年11月21日)
知的交流プロジェクトの様子の写真2
N.ティンバングさん
(松江, 2008年1月20日)
知的交流プロジェクトの様子の写真3
E.ミラーさん, J.ブレスロウさん
(東京, 2008年12月24日)

招へい事業では、V. K. カヌハ(ハワイ大学・ソーシャルワーク/社会学)、N. ティンバング(シアトル・政策評価シンクタンク)、E. ミラー(カリフォルニア大学・小児科医)およびJ. ブレスロウ(カリフォルニア大学・公衆衛生学)の4名が来日した(敬称略)。2007年11月から2008年12月の間に、東京、横浜、大阪、神戸、岡山、福岡、および島根の各地で、民間団体、地方自治体および大学との連携による講演・研修会を計14回実施した。米国の専門家たちからの提案は、具体的には次のようにまとめることができる。

  • 被害当事者の安全と自己決定の確保
    被害当事者(子どもや家族を含む)の安全と安全を最優先し、時間のかかることではあっても被害者の自己決定を中心に据えて支援が行なわれなければならない。あまりに自明のことのように聞こえるが、この点は加害者プログラムとの関連でとくに留意されなければならない。

  • クロス・トレーニング(cross-training:異職種間の合同研修)
    カップル間の暴力問題はその家庭での子ども虐待の問題との接点が多いにもかかわらず看過されがちである。縦割りや専門性の壁は米国でも長期的な課題である。日本でいえば、女性相談センターと児童相談所といった福祉セクター、医療、教育(学校)、警察、司法(裁判所)、大学(研究)といった各部門の連携は進んでいない。形式的な連絡調整の組織図ではなく、専門の異なる担当者・責任者たちが実際に集いともに学習する機会を作ることが第一歩だ。

  • 早期介入
    とくに若者たちの恋愛・交際関係に絡む暴力問題には早期介入が必要である。学校のほかにも、例えば、医療関係者の暴力スクリーニング技能は早期介入への手掛かりとして重要である。外来・クリニックで、暴力問題について若者たちにさりげなく情報を提供できれば、暴力の深刻化に対する歯止めのきっかけができる。日本でも医療・保健関係者向けに若者の暴力問題についての実用的なチェックリストが作られている(日本DV予防・情報センター )。

  • ナチュラル・ヘルパー(natural helpers
    被害者が相談窓口に繋がってこない場合には支援サービスそのもののミスマッチが危惧される。被害者にとっては、身近なところから理解や情報をどの程度得られるかということが決定的な意味をもつ。周囲が、被害者を否定せず、暴力を容認せず、自己決定を急がせずに接することができるなら、時間がかかっても、被害者の気持ちや状況に少しずつ希望がでてくるかもしれない。ただ、専門家でない以上は自分の限界を認識し、自身の安全とセルフケアにも配慮しなければならない。

  • 若者へのアウトリーチ支援
    10代や20代などの若者は、親や専門家など大人たちには相談したがらない。若者にとっては同年代の仲間・友人の存在とネットワークが大きな意義をもつ。米国では、(男子)大学生グループが自主的に同年代の若者たちに非暴力のメッセージを伝えるイベント企画も珍しくはない。少年たちの指導にあたるスポーツコーチに、より健全で非暴力の男性ロールモデルの研修をするという手法もある。若い世代への啓発や情報提供の機会は少なくない。若い女性たちがよく利用する場所—例えば、ネイルサロン—にコンパクトな啓発パンフレットや暴力相談ホットラインの連絡カードを置けば、さりげなく情報提供ができる。

  • マイノリティへの配慮
    この種の暴力問題の議論で存在そのものが忘れられがちな人々もいる。同性愛などセクシュアリティ(性的指向)によるマイノリティたち(LGBTQ)や移民・外国人たちは、親密な関係での暴力問題に加えさらにその他の社会的な偏見や差別といった二重、三重の困難に陥るリスクがある。こうした人たちが安心して支援を求めることができるよう専門家たちも地域社会も、さまざまな人たちのバルネラビリティ(傷つきやすさ)への感度を高める必要がある。

親密な関係における暴力についての問題意識は国際社会でも高まっている。日本の法制度では「親密な関係における暴力」の一部を切り取る形で、配偶者暴力防止法が制定され改正も重ねられている。しかし、この法律の枠外には、若者たちをはじめとしてまだ多くの恋愛・カップル関係での暴力問題が取り残され、子どもたちの安全も必ずしも確保されていない。一体何が起きていて、その暴力が誰にどのような影響をもたらすのか。親密な関係での暴力について理解が共有されることで、暴力の脅威と問題への無関心(実質的な共謀)を脱して、暴力問題への効果的な対応への道筋がみえてくるであろう。


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