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9月11日衆議院総選挙に関するあるアメリカ人の視点 ―小泉首相の勝利と、今後の日本の民主主義―

各界で活躍する安倍フェローによって書かれた、日米関係や現代政治・社会のトピックに関する寄稿文を掲載するコーナーです。本コーナーのための書き下ろしです。

9月11日衆議院総選挙に関するアメリカ人の視点 Mr.CharlesBurress
チャールズ・バレスの画像
サンフランシスコ・クロニクル記者(1998年度安倍フェロー)
 
先般の日本の総選挙は、戦後もっとも盛り上がった選挙のひとつであったとも言えるが、同時に日本の民主主義の健全性について疑念を生じさせるものでもあった。日本で本当の意味の野党に一番近い存在である民主党は、今回の衆議院議員総選挙における自民党の地すべり的勝利が残した瓦礫の中で、壊滅的な状態に陥っているように見える。
ニューヨーク・タイムズは、「日本が一党支配に満足しているように見える理由(“Why Japan Seems Content to Be Run by One Party”)」という見出しの記事の中で、日本の民主主義は有効な二大政党制または複数政党制が確立されていないことで、発育不全と未成熟の状態にあると診断した。しかし、民主主義のもっとも基本的な要素である市民の投票行為については、ニューヨーク・タイムズの本国である米国より、日本の方が広く行き渡っているようである。国際民主化選挙支援機構(the International Institute for Democracy and Electoral Assistance)によると、日本の投票率の平均は米国をはるかに上回っている。9月11日総選挙の投票率は、2003年に行なわれた総選挙のときより8ポイント近く増えて67.5%に達した。民主主義は人間と同じようなもので、未成熟なときの方がより活気があるものなのかもしれない。
 
多くの選挙専門家は、自民党の勝因は、有権者が自民党を支持したからではなく、小泉首相の存在にあったと見ている。去る10月31日、カリフォルニア大学バークレー校で行なわれた講演で、日本政治研究では米国有数の専門家の一人であるコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授は、「選挙に勝ったのは自民党ではなく、小泉首相である」と断言した。同教授の見解は、今回の総選挙で見られた投票パターンの劇的な変化によって裏付けられている。自民党は、これまで弱かった都市部を含むすべての地域で、有権者から強い支持を受けて大勝した。
カリフォルニア大学デービス校の政治学者で、新著「競争なき日本の民主主義(“Democracy Without Competition in Japan”)」を最近上梓したイーサン・シェイナー氏は、300の小選挙区について、今回の総選挙と過去3回の総選挙の結果の比較調査を行なった。今回の総選挙でも、自民党は予想通り、伝統的に強いとされている農山村部で定数の約72%に当たる議席を獲得しており、これは過去3回の総選挙の約75%とほぼ同様の数字である。しかし、2003年の総選挙で自民党が33%の議席しか獲得できなかった都市部において、今回は72%が自民党のものになった。
 
なぜ小泉首相はこれほど人気を集めたのだろうか?彼は政治家としてもはや新鮮な存在ではなかった。実際のところ、この夏、小泉首相の郵政改革法案が度重なる抵抗にあったとき、評論家の多くは首相の政治的死亡記事を書こうとしているように見えたほどである。
私は、今回の選挙戦の盛り上がりを東京で直接目の当たりにした。その光景は、2003年、テキサス州クロフォードのブッシュ大統領の牧場で、イラクでの勝利を宣言したばかりの大統領と会談したときの小泉首相の言葉を思い出させた。首相はその席で、自身のお気に入りと言われる映画を引き合いに出して、「ハイ・ヌーン」と言ったのである。「ハイ・ヌーン」は、ゲイリー・クーパー扮する保安官が、真昼の決闘で悪党と対決して町を救うという西部劇映画である。この映画のヒーローである孤独なカウボーイと同様に、小泉首相は独特のスタイルと強い指導力で霞ヶ関に乗り込み、不安な思いをしている町の住民たちを救うというイメージを作り出した。小泉首相は、日本の変革の本丸として掲げた「郵政民営化」をただ一つの争点に、勝利かもしくは死か、というドラマチックな対決にすべてを賭けることで、世間の関心を駆り立てたのである。
 
弾丸の替わりに首相が放ったのは、痛烈で攻撃的な言葉であった。「小泉劇場」とも呼ばれる小泉映画スタジオが書いたシナリオで、悪役となるのは、その理知的な討論姿勢が首相との決闘を受けて立つには弱すぎることが露呈してしまった哀れな民主党・岡田代表、派閥の殻で覆われた自民党守旧派、苦しむ納税者に寄生する肥大化した官僚機構、そしてもちろん、経済の万能薬として何よりも必要な資金を、大量にため込むばかりで活用しようとしない郵政制度であった。小泉首相のやり方は期待を上回る成功を収め、今後の選挙運動の進め方にも影響を与えることになりそうである。「イメージ政治の利用が増えつつある」とカーティス教授は指摘した。
 
総選挙から数週間たった今も、その余韻を奏でるサウンドトラックが勝利ムードの中に流れ、日本経済は活況を呈し、響き渡る国民の小泉賛美が霞ヶ関と永田町に大きくこだましている。
 
日本国内の論評や解説には、今回の総選挙を画期的あるいは歴史的だったと断定的に述べるものが多かったが、米国ではそうした印象はむしろ希薄であった。そのことはニュース報道を見れば明らかである。日本と違って、米国の新聞は特定の地方、都市圏あるいは地域を対象とするものの割合が高い。私自身が籍を置くサンフランシスコ・クロニクルを含めて、米国のいくつかの比較的大きな都市の新聞でさえ、今回の総選挙に対してはほとんど、あるいはまったくと言っていいほど、関心を示さなかった。
しかし、全国紙は今回の総選挙にかなりのページを割いた。小泉首相が国会解散、総選挙を宣言した8月8日から10月の終わりまでの間に、ウォール・ストリート・ジャーナルは15本のニュース記事と選挙結果がもたらす影響についての社説を1本掲載した。ニューヨーク・タイムズは9本の記事と1本の社説、ワシントン・ポストは6本の記事を3本の社説を掲載した。その一方で、米国の地理的な中心地の近くに本拠を置くカンザス・シティ・スターは、この選挙に関しての社説や長文記事はなく、短い記事を3本載せただけであった。
 

米国の新聞報道は、今回の総選挙が果たして本当の意味での変革を意味しているのかどうかという点に関しては慎重な見方を示し、特に郵政制度あるいは日本の政治自体の改革については明らかに懐疑的な表現を使った。ニューヨーク・タイムズの分析によれば、「郵政事業の真の改革、またそれ以外の改革も、未解決の問題として残されている」。ロサンゼルス・タイムズにおける論評で、環太平洋研究所代表のフランク・ギブニー氏は、「改革はこれまで以上にとらえどころのないものになるかもしれない。彼(小泉首相)が、50年もの間続いた既得権益を一掃するため、容赦ない超人的努力をする覚悟がなければ、彼の改革は妨害を受けるであろうし、葬り去られてしまうことさえあり得る」と書いた。

 

しかし、カーティス教授は、少なくとも政治システムに関しては、これと反対の意見を述べている。同教授によると、日本は米軍による占領時代以降、今回のような政治家の追放を経験したことは一度もなかった。小泉首相は今回の勝利によって、自民党の派閥の最も重要な部分を破壊し、自民党組織から首相官邸への政策決定権の移行を一段と強化した、とカーティス教授は述べた。「私は、根本的に変ったと思う。ハンプティ・ダンプティ(一度壊れたもの)を元に戻すことは出来ないし、派閥システムも作り直すことは出来ない」。

 

新しい自民党が、小泉首相という強烈なカリスマによる活気づけがなくなった後、また旧来のやり方に戻っていくのかどうかは分からない。しかし、私が気がかりなのは、今回の総選挙のもう一つの結果である。日本は今後、米国で成功しているような、言い逃れの多い、単一争点の、スローガン型政治を採り入れていくのであろうか?今回の総選挙は、日本が直面している外交問題や国内の社会悪を、見て見ないふりをしてやり過ごした。民主主義の成熟度は、政治的対話の本質的な内容によっても計られるべきではないであろうか。

 
2005年11月2日
*原文は英語
Profile

チャールズ・バレス
サンフランシスコ・クロニクル新聞記者、フリーランス・ライター。ハーバード大学(政治哲学専攻)卒業後、カリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズムの修士号を取得。1996-97年フルブライト・フェローとして日本滞在。1998年安倍フェローに採用され、1999-2000年に「米国メディアの日本報道:色眼鏡はかかっているのか?」のテーマで研究。2005年夏および2006年夏に、2度目のフルブライト・フェローとして研究。


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