本文へ 日米センター(CGP)は日本とアメリカにて、助成、フェローシップ、ボランティア、人物交流、情報発信を行なっています。
国際交流基金 日米センター
CGP NY | 国際交流基金 | English | サイトマップ
トップページ
日米センターとは
公開イベント
団体で助成金をお探しの方へ
個人向け支援・ボランティアの機会をお探しの方へ
CGPの主要事業
情報室(刊行物、寄稿など)
Newsletter Eメール配信
コラムス
特別寄稿
スタッフ通信
書籍・報告書
アクセス
お問合せ
FAQ
更新履歴
日米センター公募助成プログラム
CULCON(カルコン) 日米文化教育交流会
メール配信サービス
コラムス
情報室(刊行物、寄稿など)

民主政治市場の変化・深化・評価


各界で活躍する安倍フェローによって書かれた、日米関係や現代政治・社会のトピックに関する寄稿文を掲載するコーナーです。本コーナーのための書き下ろしです。

樋渡展洋氏の写真
民主政治市場の変化・進化・評価

樋渡展洋(1993年安倍フェロー)

現在、筆者はアメリカ外交政策、特に「対中外交への議会の影響の実証研究」のためハーバード大学に滞在している。日本の対外経済・防衛政策の選択肢は、対米協調・対立の可能性に依拠するが、アメリカの外交政策を理解するには、大統領や議会の政策が国内の対立をどのように代表・反映しているかを理解する必要があると思われたからである。このテーマで研究を行なうためには、改めてアメリカ議会や大統領・議会関係の最新の研究成果を修得する必要があり、この点にはかなりの労力を要している。

さて、現地でアメリカ政治理解と格闘していると、民主政治の評価には、その変化や深化を理解する必要があり、その際、「政治市場(political marketplace)」が重要なのではないかと考えるに至った。この米国の「政治市場」の変化、進化、そして評価について、考察を試みたい。

民主政治市場の変化
現在のアメリカ政治分析は、現実の趨勢を反映して、論点が変化し、高度に実証的になっている。このような趨勢を担保しているのが、民主政治の実践および分析における高度の政治情報の開示と流通であろう。

 

ここ四半世紀、アメリカ政治の党派性とイデオロギー対立が進展していることには異論がない。公民権運動後、民主党の南部支配の融解により、70年代に大量当選した民主党進歩派新人が、委員長主導の長老保守議員支配に代り、議会党幹部への統制強化と党幹部の委員会に対する権限強化を実施した。また、共和党でも同様の対応が行なわれ、現在は、民主・共和両党とも党内イデオロギーの均質性と政党間イデオロギー対立が鮮明になり、議会党内規律が強化された。その結果、議会の分権的委員会割拠と年功序列昇進の慣習−詳細な参与観察から導出され、数理モデルで演繹的に基礎づけられた知見−が衰退した。

 

そこで、現在の実証分析の論点は議会政党の強化や政策・イデオロギー対立の政策への影響である。そこでは、委員会や本会議の政策決定が、多数党の選好ではなく、議会の多数選好を反映すると主張するケベル(Krehbiel)と、院内総務や幹事の委員人事権限強化と多数党による議事運営・議事設定力を根拠に議会決定の党派性を主張するローディ(Rhode)やオルドリッチ(Aldrich)、コックス&マッカビンス(Cox & McCubbins)などが対立する。更に、党派的対立の先鋭化を背景に、大統領と議会多数党、上院と下院の多数党が違う場合(「分割政府」)議会の立法生産性の低下や現状維持の強化についてもコックス・マッカビンス、ケベル、ブレィデー(Brady)、メイヒュー(Mayhew)らの論争があり、こと外交では、大統領が超党派的支持を受けるとする議論(「2つの大統領論」)は70年代までの現象であったと理解されてきている。

実証的証拠に基づいた論争を行なう際に重要なこととして、個別議員全員のイデオロギー保守・進歩度や個々の法案や動議への投票内容が記録・開示されている必要がある。実際、議会に関しては提出の法案、決議案、動議、修正案の内容、委員会報告、委員会や本会議の討論発言と採決の可否、(電子化以来、件数が飛躍的に増大している)採決の賛成・反対・棄権者名がすべて開示されているだけではなく、第一議会以来の全議員のイデオロギースコアが(プール&ローゼンタール(Poole & Rosenthal)の画期的貢献により)算出・公開されている。更に、各議員がどのような発言をし、どういう団体の支持を受け、どのくらいの政治資金を集めたかもすべて公開されている。こうした情報公開による透明性は、アメリカ政治の実証的研究を飛躍的に向上させただけでなく、アメリカの民主政治をも深化させていると思われる。

 

民主政治市場の深化
アメリカの個々の議員とその所属政党に関する情報が豊富なのは研究者の便宜のためではなく、それが有権者の選択に影響を与えるからである。多くの市民・利益団体−人権団体、労働団体、業界団体、宗教団体、納税者団体−は、上記の情報をつかって自分たちに関係の深い争点や法案に対して、各議員の発言を評価し、その投票を評点化し、広く宣伝することで、政治献金や選挙活動とともに、支援候補の加勢と対立候補の攻撃に使うのである。選挙時になると、各候補の公約だけでなく、それまでの政治活動や発言内容が、相手候補や支援団体から精査され攻撃される。候補者自身による人品や公約の開示では不十分で、相手の攻撃に対して自己の政策や立場、言動を説明し、反撃する必要に迫られる。

 
実際、政治家の活動に関する情報公開とそのマスコミやインターネットでの対立・競争的流通の点ではアメリカは発達している。何か政治問題が発生すると必ず議会公聴会が開かれ、両党の関係委員会議員や幹部がインタビューされ、(従って必ず鼎談として)専門的意見が聴取される。公聴会や報道番組での質疑で興味深いのは、証人や出演者の専門性の高さだけではなく、質問する議員やキャスターの政策やイデオロギー指向も開示されることである。つまり、有名記者や有名キャスターは進歩・保守に色分けでき、進歩的メディアはブッシュ政権や議会共和党、保守団体の痛手になるニュースを中心に詳細に披露・報道し、保守的メディアは政府や議会の反証、反論と詳細に報道する。民主党の州知事、市長、議会、裁判官などの言動では攻守が逆転するだけでなく、報道機関や記者・キャスター間の相互批判・論争も活発である。
 

政治市場や情報市場での活発な政策的・イデオロギー的対立・競争は、政治家やマスコミ機関の「私的情報」保持の余地−政治家が政策立場を曖昧にしたり、公約と違うことを実施したり、公約や立場を勝手に変えたりする余地−が少なくなる分だけ、有権者の監視が効くことになる。情報市場の対立・競争が事実の歪曲や中傷合戦にならない歯止めとして、報道番組はほぼ例外なく番組に対する視聴者の反応を紹介するし、視聴者が知りたい情報と提供したかは究極的には視聴率で判断される。

 

民主政治市場の基礎は有権者による代表の選択=選挙である。しかし、個々の有権者は一々候補者の過去の言動や政策の選好を調べる余裕がないし、候補者も人格の良さと地元の代表以外の情報を開示する誘因がない。立場を明確にすることは支持者とともに離反者を増大させる虞があるからである。この場合、有権者は周囲の進言で投票し、候補者は組織票に依存することになりがちである。しかし、「対立的・競争的情報市場」では、地元議員や対立候補がどのような争点について、どのような態度をとり、どのような発言をし、どのような議会投票をしたかは不断に、かつ遡及的に報道機関のみならず、各市民団体の支援・攻撃宣伝で明らかにされる。その際、対立候補の極端な言動や対立政党の極端な議員の言動を持って、その人や政党の主張・選好であるように歪曲する傾向は否定できないものの、有権者の賢明な選択に必要な情報を提供し、有権者による議員監視を容易にしている点で、民主政治の深化に寄与していると思われる。興味深いことに、事実の認定、政策の評価について民主・共和両党は激しく対立するものの、その過程で立法措置の背景、必要性が明確になるにつれ、妥協的な政策が採択されやすくなる。イラク占領、反テロ戦争、愛国者法延長、秘密盗聴、アリート判事承認での両党間の激しい対立・論争にもかかわらず、妥協による予算や立法措置が議会を通過している。

 

民主政治市場の評価
アメリカの長い民主政治の歴史でも、現在のような競争的党派対立が、情報市場も巻き込み展開され、有権者が、あたかも市場での消費・投資者のように、情報に基づいて判断・投票するようになったのは最近のことである。実際、アメリカの商品やサービスの宣伝では競争相手が比較される。また医師処方の新薬の、副作用を詳細に列挙した宣伝が非常に多いのは奇異であるが、少なくとも治療薬について患者が医師に相談できる情報をもっていることは、患者の立場と患者による医師の監視を強化することになろう。政治市場や情報市場での対立的・競争的政治情報の開示も、消費市場や投資市場での商品情報開示と同様の効果を持つ。

 

民主政深化の基礎は市民の良識と見識であり、その修養には論壇の啓蒙的評論を玩味する必要があるという考え方もあるが、筆者は、民主政の深化のためには有権者の自己責任による判断を支援するように、政治家の政策・言動・選好に関する情報を積極的・対立的・競争的に開示する政治市場や情報市場の制度整備の方が重要であると感じる。政治学者として、有権者や政治家の教育・啓蒙よりも、政治過程の透明性の整備・増大を提唱し、政治過程に関する実証研究を発表・提供することが民主政に寄与する気がする。愚見によれば、明確な政策を公約し、それを忠実に実現し、その過程で反対派の政策選好をも明らかにした小泉首相は、歴代首相では群を抜いて民主政治家として洗練されている。問題はその特殊属人的政治手法を制度化できるかであろう。

 

2006年2月 マサチューセッツ州・ケンブリッジにて

Profiele

樋渡展洋(ひわたりのぶひろ):東京大学社会科学研究所教授

1989年カリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了(Ph. D)、1990年東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。93−98年東京大学社会科学研究所助教授。93年度安倍フェローとして94−96年にかけて「日米経済関係と国内政治経済:日米・欧米・日欧の比較」をテーマにハーバード大学国際問題研究所及ライシャワー研究所にて客員研究員。95年ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジ海外フェロー、96−97年カリフォルニア大学バークレー校政治学部客員教授、98−99年コロンビア大学政治学部客員教授を経て、98年より東京大学社会科学研究所教授。 2005年夏より1年間ハーバード大学・ウェザーヘッド国際問題研究所にて客員研究員。著書に「戦後日本の市場と政治」他。専攻分野:政治学。

 


TOKYO OFFICE
国際交流基金(ジャパンファウンデーション) 日米センター
160-0004 東京都新宿区四谷4-16-3
Tel (03)5369-6072 Fax (03)5369-6042
NEWYORK OFFICE
The Japan Foundation Center for Global Partnership, N.Y.
1700 Broadway, 15F, New York, NY 10019, U.S.A
Tel (212)489-1255 Fax (212)489-1344