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ネットの進化と小泉外交


各界で活躍する安倍フェローによって書かれた、日米関係や現代政治・社会のトピックに関する寄稿文を掲載するコーナーです。本コーナーのための書き下ろしです。

ネットの進化と小泉外交 土屋大洋(2000年度安倍フェロー)

土屋大洋

インターネットの世界は、オタクだけの世界ではなくなってきた。社会になくてはならないインフラストラクチャになってきたといっても過言ではない。ヴァーチャルな世界を超えて、現実社会にも国際関係にも、インターネットは影響を与えるようになってきている。3つの点から考えてみよう。
第1に、英語で「コンピュータ・ギーク」と呼ばれる技術者たちは、安全保障にも影響する技術を開発している。その最も分かりやすい例が、検索エンジンのGoogle社が提供しているGoogle Earthであろう。世界中の衛星写真や航空写真を網羅し、無料でアクセスできるようにしている。軍事基地や大統領官邸まで映っているため、複数の国の政府が懸念を表明した。写真はあらかじめアーカイブに入っているものを使っており、リアルタイムではないため、安全保障上の即時的な脅威になるものではないが、それでもインテリジェンス・コミュニティが独占してきたような情報にも一般の人がアクセスできるようになったことの意味は大きい。これに限らず、安全保障上重要な技術の多くは、国際政治に興味を持たないギークたちによって開発されているという事実を忘れてはならない。
 
第2に、インターネットは集合知を創り出しつつある。誰でも書き込み可能なオンライン百科事典であるWikipediaに代表されるように、多くの人たちが自分の持つ知識や情報を金銭的対価もなく提供し、全体としてみるとバランスのとれた情報を創り出すことが可能になっている。多くの人がウェブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で自分の経験を語ることで、さまざまな経験が共有されていくことになる。2005年春に中国で反日デモが吹き荒れたときも、中国に実際に滞在している人たちの情報や、反日デモをいさめる中国人の意見もインターネットでは見られた。インパクトのあるニュースを追い求めるマスメディアに対抗する力にもなっている。
 
第3に、政治指導者と大衆との別の回路によるコミュニケーションが可能になっている。小泉純一郎首相は毎日テレビカメラの前に立つなど、マスメディアへの対応に注意していたが、インターネットやITにはほとんど興味がないといわれている。それでも、政権発足当初にメルマガ(メールマガジン)を出して人気を博したり、在任期間中にブロードバンドが急速に普及したことでその恩恵を受けたりした。大勝利を収めた2005年9月の衆議院議員選挙は、ブログ選挙といわれたとおり、国民がインターネットを使って意見を繰り広げた。最近ではYouTubeといわれる動画共有サイトで小泉首相の選挙CMが見られるようになっているし、安倍晋三官房長官の自民党総裁選出馬表明はインターネットで生中継された。
2005年7月にCGP(国際交流基金日米センター)とマンスフィールド財団共催で開かれた「非伝統的安全保障」に関するシンポジウムでも、伝統的な形の安全保障を考えているだけでは対応できないことが議論された。例えば、軍事力や経済力の比較だけでは現代では不十分であり、情報戦や心理戦といった側面も視野に入れなくてはいけないという指摘があった。
 
マスメディアはグローバルになりつつあるといわれるが、ネット企業によるテレビ局買収の試みが失敗したように、免許制度など国の参入規制が残っている。しかし、ネットの影響ははじめからグローバルであり、世界中の利用者を意識したパブリック・ディプロマシー(広報外交)が必要である。
 
冒頭で、インターネットはオタクだけのものではなくなったと指摘した。同様に、外交もまた、政治家や外交官だけのものではなくなってきている。Googleは、「世界政府があったとしたらそれが必要とする情報システムを作ろう」と考えているという。外交の専門家たちはそんな大それたことを実行しようとは思わないが、ギークたちは大胆にもそれを実行してしまっている。
 
これを衆愚政治と切り捨てるのは早計だろう。ジェームズ・スロウィッキー著『「みんなの意見」は案外正しい(The Wisdom of Crowds)』では、条件が整えば集合知に意義があると指摘しているし、ハワード・ラインゴールド著『スマートモブズ(Smart Mobs)』でも、インターネットやケータイでつながったスマートなモブ(群れ)がパワーを持つようになってきていると指摘している。
 
私は、こうした新しい情報通信技術が国際関係にどのような影響を与えるのか研究している。国際関係論や情報社会論、ネットワーク理論などが重なり、新しい現象が創発する分野である。
 
小泉政権は世論をうまく味方につけることができたが、外交にもその影響は現れた。東アジア外交を見ても、小泉首相は専門家たちの意見を聞き流し、自分の信念を国民に訴えることで一定の支持を獲得してきた。しかし、これからの首相はますますニュー・メディアとしてのネットを意識せざるをえないだろう。新政権はオールド・メディアとニュー・メディアの両方を味方につけることができるだろうか。
(了)
 

2006年9月

Profiele
土屋大洋(つちや・もとひろ):(慶應義塾大学助教授)
慶應義塾大学大学院政策メディア・研究科助教授(兼 総合政策学部助教授)。専門は国際関係論、情報社会論、公共政策論。2000年度安倍フェローとして、2001年12月から翌年6月までジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所(サイバー・セキュリティ政策研究所に改名)客員研究員。2004年4月から慶應義塾大学総合政策学部助教授、2005年4月から現職。主著に『ネット・ポリティックス』(岩波書店、2003 年)、『情報とグローバル・ガバナンス?インターネットから見た国家?』(慶應義塾大学出版会、2001年)など。

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