本文へ 日米センター(CGP)は日本とアメリカにて、助成、フェローシップ、ボランティア、人物交流、情報発信を行なっています。
国際交流基金 日米センター
CGP NY | 国際交流基金 | English | サイトマップ
トップページ
日米センターとは
公開イベント
団体で助成金をお探しの方へ
個人向け支援・ボランティアの機会をお探しの方へ
CGPの主要事業
情報室(刊行物、寄稿など)
Newsletter Eメール配信
コラムス
特別寄稿
スタッフ通信
書籍・報告書
アクセス
お問合せ
FAQ
更新履歴
日米センター公募助成プログラム
CULCON(カルコン) 日米文化教育交流会
メール配信サービス
コラムス
情報室(刊行物、寄稿など)

食品安全政策と市民の声


各界で活躍する安倍フェローによって書かれた、日米関係や現代政治・社会のトピックに関する寄稿文を掲載するコーナーです。本コーナーのための書き下ろしです。

食品安全政策と市民の声 ローレンス・レペタ

息が白く凍るほど冷え込んだ1月のある朝、私はワシントンDCの連邦議会議事堂からほど近い住宅街を歩いていた。「センター・フォー・フード・セイフティー(食品安全センター)」(CFS)というNGOのオフィスを探していたのだ。簡素なたたずまいの3階建てビルの2階、コーヒーショップの真上にそのオフィスはあった。そこで私を迎えてくれたのは、ジョセフ・メンデルソンという若手弁護士。別のNGOのある弁護士からメンデルソンを訪ねるように勧められるまで、彼の名前も彼の組織についても聞いたことさえなかった。当時、米国では食の安全への脅威が大問題になっており、折りしも狂牛病の発見を受けて監督官庁が対応を協議していた頃だった。

メンデルソンは私を未知の世界へと案内してくれた。遺伝子組み換え食品・生物の世界である。遺伝子組み換えによって例えば、暗がりで発光する熱帯魚を生産したり野生の1.5倍の大きさに成長する鮭を作ったりする事業があるという。植物の遺伝子組み換えでは、植物にワクチンや産業用酵素その他の製品を作らせるような操作も行なうという。また、そもそも家畜の飼料として作られた遺伝子組み換えトウモロコシの一品種「スターリンク」が、誤って人の食糧供給に混入し、食品となってスーパーの店頭に並ぶという事件が起きたことも話してくれた。

 

私は安倍フェローシップの研究員としてワシントンDCに滞在するあいだ25人ほどの専門家にインタビューしたが、メンデルソンもその一人である。CFSのような市民団体がどのように情報公開法などの法律を使って情報を手に入れ、活動に役立てているのか知りたかったのである。CFSは成果を挙げている公益擁護団体(公的利益のために活動する非営利組織)の好例だ。2000年に発足し、人の健康と環境を守ることを目的としている。草の根運動を起こし、啓発プログラムを通じて政府・産業界に働きかけ、遺伝子工学・食品照射・有機食品の基準など諸問題について一般の人々に情報を提供してきた。非常に詳細なWebサイトを運営し、書籍やパンフレットを出版するほか数多くの刊行物に教育的な記事を書いている。

 

メンデルソンはCFSの共同創設者の1人である。法律担当のディレクターとしてCFSのあらゆる活動の法務に直接関わってきたこの道のプロである。1991年にジョージ・ワシントン大学ロースクールを卒業したが、在学中から一貫して非営利組織で働いてきた。公共政策の展開においてNGOがその責務を果たすには、長年にわたる努力で培った知識を持つ優秀な専門家が必要である。メンデルソンのような人物が必要なのだ。彼は食の安全の分野ではよく知られた専門家である。ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなど有力紙では、食の安全についての記事の中で、CFSの見解を説明するジョセフ・メンデルソンの談話がたびたび紹介されている。

公益法に関心の強い私にとって、メンデルソンは特に会ってみたい人物だった。彼らがどのように情報自由法その他の公益法を役立てているのか知りたかったのだ。
 
メンデルソンはいろいろな話を聞かせてくれた。前述した遺伝子組み換えのほか、CFSが「生物薬剤」生産の隠れた細部を明るみに出そうと取り組んできた話は特に驚きだった。私が「生物薬剤」という単語を耳にしたのはそのときが初めてだった。植物の遺伝子構造を変えて実験的薬剤や工業化合物などを作る操作が物議を醸しているが、それが生物薬剤生産である。
 
モンサントをはじめとする生物薬剤企業は、コーンその他の植物の遺伝子構造を変えて、実験的ワクチン・成長ホルモン・血液凝固剤や抗凝固剤・抗体・産業用酵素などの物質を作る方法を開発した。遺伝子構造にワクチンその他の物質を注入した遺伝子組み換えコーンは、成長するにつれてそれらの物質を作り出す。こうして一本一本の植物が一つの小さな化学工場となり、医薬品・工業品で使うタンパク質を生み出すのである。
 

厳寒のワシントンDC。オフィスを訪ねた私にメンデルソンは新たな訴訟について話してくれた。何千マイルも離れた南国ハワイが舞台である。一年中が栽培期の熱帯に位置するハワイは、新製品のフィールド・テストを行なうのに格好の土地として、生物薬剤の大手企業が目を付けていた。近年ハワイでは、実験的な遺伝子組み換え植物が何千本と植えられてきた。生物薬剤を作る植物試験も何十回と行なわれている。

 

私がメンデルソンを訪ねる数週間前、CFSはいくつかの市民団体と共同で米政府を相手に訴訟を起こしていた。カウアイ島・オアフ島・モロカイ島・マウイ島の各地で、薬品を作るコーンとサトウキビの栽培を米農務省が違法に許可したことを裁判所に確認させるのが狙いである。訴えによると、植えた植物が環境に害を与えることのないよう環境影響評価を行なう必要があったのに、米政府はそれを怠ったという。また、植物実験の場所を公開しない、植物の中で作っている物質についてもたいていは公表しないといった政府のやり方も問題にしている。

 
CFSKAHEA(ハワイ環境連合)その他の原告が恐れているのは、遺伝子組み換えを行なった植物の種が風雨その他の要因で飛散し従来の植物を汚染する可能性である。産業公害よりも危険であるとメンデルソンは考えている。「子孫を残し増殖する生命体が相手なのです。化学公害の場合なら、たとえ水銀中毒のような恐ろしい公害でも、原因を突き止められればコントロールでき、または、食いとめられる。しかし遺伝子組み換え生物となると事情が違います。ひとたび自然界に入ってしまうと、遺伝子組み換え生物は、引き戻すことが非常に難しくなるのです」。
 
私がメンデルソンのオフィスを訪ねてからもう2年以上の年月が過ぎたが、先月、例のハワイ訴訟の新聞報道を目にした。米国連邦地裁判事が8月10日、メンデルソンらの訴えを支持して、農務省がハワイの当該事例で薬品生産遺伝子組み換え作物の栽培を許可したのは環境保護法その他の法律に違反するとの判断を下したのである。生物薬剤生産は新しい研究分野であり、ハワイの判決は、連邦裁判所が同分野に関連して示した初の司法判断といえる。
 
問題はもちろんハワイなどの米国に限られるわけではない。ほんの数週間前、新潟で遺伝子組み換え稲をめぐる同種の訴訟に関わっているというある日本人弁護士とも話した。何が食糧供給への本当の脅威なのだろうか。遺伝子組み換え生物による自然界の汚染を防ぐには、どんな対策をとるべきなのだろうか。
 
これは私たち皆にとってきわめて重大な問題である。民主主義社会では、人々がこうした諸問題にかかわる情報を入手できなくてはならないし、それぞれが意見を言える機会がなければならない。CFSは、こうした目標を達成し公共政策を立案するうえで、優れたNGOがいかに有力な存在となり得るかを教えてくれる。
 
安倍フェローシップでの私の研究期間は2004年に終了した。しかし期間中に始めた仕事、つまりCFSその他の団体の活動を研究するという私の仕事は当分終わりそうもない。
(敬称略)
(さらに詳しくは「センター・フォー・フード・セイフティー(食品安全センター)」(CFS)のWebサイトをご覧ください。)


(了)

 

2006年10月
*原文は英語

Profiele
ローレンス・レペタ(Lawrence Repeta
大宮法科大学院大学教授。ワシントン大学ロースクール修了後、日米両国で弁護士として活躍。テンプル大学ロースクール・プログラムディレクター兼テンプル大学ジャパン副学長などを経て現職。公的機関に対する情報公開問題などを専門とする。2002年度安倍フェロー


TOKYO OFFICE
国際交流基金(ジャパンファウンデーション) 日米センター
160-0004 東京都新宿区四谷4-16-3
Tel (03)5369-6072 Fax (03)5369-6042
NEWYORK OFFICE
The Japan Foundation Center for Global Partnership, N.Y.
1700 Broadway, 15F, New York, NY 10019, U.S.A
Tel (212)489-1255 Fax (212)489-1344