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「開かれたもの造り」とは:現場発・日本発の戦略論


各界で活躍する安倍フェローによって書かれた、日米関係や現代政治・社会のトピックに関する寄稿文を掲載するコーナーです。本コーナーのための書き下ろしです。
「開かれたもの造り」とは:現場発・日本発の戦略論
藤本隆宏(1995年度安倍フェロー)
藤本隆宏氏の写真

筆者は、ものづくりの現場発の管理論・戦略論・産業論を考える経営学者である。少なくとも週1回以上のペースで工場や企業の開発現場を訪問しており、そこを出発点に、実証的な「開かれたものづくり論」を組み立てたいと考えている。それは、日本が得意とする現場管理を起点とする、日本発の経営学でもある。戦後日本が背負ってきた歴史を踏まえた統合型・現場起点の戦略論と、欧米発の、彼らの歴史を背負った分業型・本社起点の戦略論を、うまくバランスさせるところに、21世紀日本企業のあるべき姿がある、と筆者は考える。それは、製造業、サービス業の区別を問わない。

そもそも、筆者の考えるもの造りのポイントは、「もの」ではなく「設計」である。もの造りの本質は、「ものを造る」ことではなく、設計情報を「ものに造り込む」ことである。こう考えることにより、もの造りは工場の生産現場だけで閉じたプロセスではなくなり、むしろ開発・購買・生産・販売の現場が連携し、本社部門も経営トップも、サプライヤーも販売店も顧客も巻き込む、一つの開かれたプロセスとなる。
製品、例えば自動車は、設計情報が媒体(もの)に転写された人工物である。その設計情報を創造するのが開発の仕事、創造された設計情報を媒体(もの)に転写するのが生産の仕事、転写する媒体を確保するのが購買の仕事、転写された設計情報を顧客に向けて発信するのが販売の仕事である。そして、顧客はそうした設計情報を企業から受け取り、いわば設計情報を消費するのである。

例えば、ある人があるクルマを買って、そのデザイン、燃費、乗り心地に満足したとしよう。顧客を満足させたこれらの要素は、基本的にはあらかじめ設計された製品機能あるいは製品構造である。顧客を楽しませるボディ形状は、将来の消費者の消費体験を常にシミュレーションしつつ、デザイナーが発想し、モデラーが粘土模型に転写し、車体設計者が詳細に展開し、オペレータが3次元CADで表現し、金型設計者が金型形状に翻訳し、金型工場が鋼塊に転写し、プレス工程が厚さ0.8ミリの鋼板に転写する。完成したクルマは、車体設計情報が鋼板に転写された人工物であるから、それを顧客に届ける販売の仕事は設計情報の発信に他ならない。これを受信するのは、言うまでもなく顧客その人である。顧客は買ったクルマを使用することで製品の機能・性能情報を引き出し、それを解釈することで満足を得る。そして、こうした消費プロセスを観察している商品企画部門は、観察結果をもとに次の設計情報創造のサイクルに入る。

このように、顧客に始まり顧客に終わる「設計情報の流れ」を管理・改善・進化させる企業活動全体が「もの造り」に他ならない。従って、開発・生産・購買・販売は全て、顧客へと向かう「設計情報の流れ」に関与しているわけであり、その限りにおいて、一丸となって「開かれたもの造り」を支えているのである。

アーキテクチャと組織能力
このように、設計情報の流れという観点から再整理された「開かれたもの造り」の体系を構成する二つの柱は、(1)もの造りの組織能力と、(2)製品・工程のアーキテクチャ(設計思想)である。

(1)もの造りの組織能力とは、顧客へ向かう設計情報の創造・転写・発信のプロセスを、競合他社よりも常に正確に(高品質で)、効率良く(低コストで)、迅速に(短いリードタイムで)遂行する組織全体の実力を指す。つまり、いわゆるQCDの同時達成・同時改善を行う能力である。そこでは、開発・購買・生産・販売それぞれの現場の組織能力が一体となって、緊密に絡み合っている。

いわゆるトヨタ生産方式は、こうした「もの造りの組織能力」の典型である。ムダすなわち「設計情報の創造・転写が行われない時間」を最小化し、顧客へと向かう設計情報の淀みない「流れ」をつくることがその要諦である。

これに対して、(2)アーキテクチャ(基本設計思想)は、顧客へ向かって流れていく設計情報そのものの構造に関わる。一般に、設計活動の対象となる要素は製品機能(要求仕様など)、製品構造(部品など)、生産工程(設備・治工具など)であるが、個々の要素の中身については個々の要素技術・固有技術の領域で扱うのに対し、そうした要素の「つなぎ方」を論じるのがアーキテクチャ論である。具体的には、製品機能要素と製品構造要素のつなぎ方を論じるのが「製品アーキテクチャ」、製品機能要素と生産工程要素のつなぎ方を論じるのが「工程アーキテクチャ」である。一般には、自動車のような組立製品では製品アーキテクチャ、化学品のようなプロセス製品では工程アーキテクチャが重要だと言われる。

以上のように、企業が顧客へ向けて「設計情報を流すプロセス」に関わるのが組織能力、顧客へ向かって流れる「設計情報自体の構造」に関わるのがアーキテクチャであり、これらが「もの造り分析」の二つの柱である。


2006年10月

Profiele
藤本 隆宏(ふじもと たかひろ)
東京大学大学院経済学研究科教授。2003年から東京大学ものづくり経営研究センターのセンター長も務める。専攻は技術・オペレーション管理、経営管理。1995年度安倍フェローとして、フランスのリヨン大学とINSEAD、米国ハーバード大学ビジネススクール客員教授。著書に The Evolution of a Manufacturing System at Toyota (Oxford University Press, 1999年)、『ビジネス・アーキテクチャ/製品・組織・プロセスの戦略的設計』(有斐閣、2001年)など。


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