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日米における起業の戦略と政策:生命科学産業の新たな集積地域に見られる要因―「プッシュ」「プル」「ドラッグ」「ジャンプ」


各界で活躍する安倍フェローによって書かれた、日米関係や現代政治・社会のトピックに関する寄稿文を掲載するコーナーです。本コーナーのための書き下ろしです。

日米における起業の戦略と政策:生命科学産業の新たな集積地域に見られる要因??「プッシュ」「プル」「ドラッグ」「ジャンプ」
キャサリン・イバタ=アレンズ PhD(2004年度安倍フェロー)
キャサリン・イバタ=アレンズ氏の写真

2006年9月26日、私は国際交流基金(ジャパンファウンデーション)日米センター(CGP)がモーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団との共催のもとに東京で開催した、昨年に続き第2回目となるシンポジウムに参加させていただいた。
今年のテーマは「日米の産業戦略と国際競争力」で、私のほかに、同じく安倍フェローである東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏氏と、二人のマンスフィールド・フェロー、キース・クルーラック氏(米国国務省)とクリストファー・ウィンシップ氏(米国財務省)がパネリストとして出席された。また、経済産業研究所(RIETI)所長の吉冨勝氏がパネル・ディスカッションのモデレーターを務め、見識に富んだフィードバックをくださった。安倍晋三首相が誕生する臨時国会開会の日と重なったにもかかわらず、大勢の皆様のご来場を得て、活気あるシンポジウムとなった。

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私はこのシンポジウムで、生命科学分野の地域クラスターを形成するための基礎となる政府の政策と企業レベルの戦略に見られる4つの要素について説明した。それぞれ「プッシュ(押し)要因」「プル(引き)要因」「ドラッグ(妨げ)要因」「ジャンプ要因」と呼んでいる。
生命科学は生物科学とも呼ばれ、生物工学と医療機器の領域から成る。生命科学は、売上高と雇用の伸びの点で、米国経済で最も急成長を遂げている分野である。サンフランシスコやボストンなどの地域で主要な地域産業となっている。これらの地域では、生命科学分野の新設企業がクリティカルマス(必要数量、決定的数量)に達したのである。つまり、企業の数が、長期にわたって企業の立ち上げが続くのに必要な一定量を超えたということである。

クラスターとは、一つの産業分野、または複数の重なり合う産業分野(ソフトウェアやナノテクノロジーなど)に関連する経済活動が地理的に集中している状態をいう。クラスターでは、例えば地域の労働者の高い生活水準が維持されるなど、地域生産の恩恵の大半が地域内にとどまる。さらに、産業クラスターは、そのクラスターが組み込まれている地域社会に大きな相乗効果をもたらす。例えば、他の産業や裾野産業における重要な雇用源となる上に、地方自治体の税収源にもなる。

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では、なぜ上記の地域は産業クラスターの形成に成功し、他の地域ではうまくいっていないのだろうか。先端技術分野や生命科学分野のクラスター形成の基本的必要条件は、研究重視の大学、熟練した既存の労働力、インキュベーター(起業家を支援する仕組み)の存在、資金源などであり、それを見る限りでは、今日実際に存在するよりももっと多くの地域クラスターが形成されてもよさそうなものである。ところが他の地域では、同じクラスター形成の基本的必要条件が整っていても、これまでのところ、その必要条件(科学技術基盤や資金調達基盤など)を成長分野における持続的な新事業の創造に転換することができていない。
つまり、何らかの決定的な要素が欠けているのである。成長分野における新事業の創造を促す上で実践すべきベストプラクティス(最良の事例)と避けるべき落とし穴を把握するには、どのような方法が最も良いのだろうか。

CGPの支援を受け安倍フェローとして行なっている研究で、私は生命科学産業の集積地域となる可能性のある日米の6つの地域を比較しているが、この研究では、研究対象地域における生命科学分野の多数の新設企業に関する独自の調査データを重点的に扱っている。
事例研究データを併用して生命科学最先端の新設企業のいわば起業物語を書き上げるとともに、これら代表事例の研究を、ネットワークパターン(社会ネットワーク分析の手法を使用)と空間的関係(地理情報システムとマッピング技術を使用)に照らして分析している。
こうして、人と機関が織り成すさまざまな空間の中にも、活力に満ちた新事業の創造と地域の成長につながるパターンというものが存在するのかどうかを調べる。さらに、把握した地域イノベーションシステム(RIS)を、それぞれの国のナショナルイノベーションシステム(NIS)に関するデータと関連づけている。

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さまざまレベルの方法論的アプローチを用いることで、クラスターの形成を促す地域の能力(または能力の欠如)の基となる、「プッシュ(押し:政策による刺激など)」「プル(引き:市場の需要)」「ドラッグ(妨げ:資本面や機関面の弱さ)」「ジャンプ(地域レベルでの的を絞った戦略)」という重要な要因を読み取ることができる。ベストプラクティスの点から見て最も興味深いのは、「プッシュ(政策)」と「ジャンプ(戦略)」である。

「プッシュ要因」:ベンチャーキャピタル(VC)の設立を促進する政策−少なくとも米国においては、全国レベルでは、中小企業投資会社(SBIC)プログラム、中小企業技術革新(SBIR)プログラム、中小企業技術移転(STTR)プログラムを創設することで、連邦政府は自らの役割を果たしてきた。また随時、キャピタルゲイン課税の緩和を行ない、ベンチャー融資に利用可能な資本の拡大を図ってきた。
州・市レベルでは、地域経済の発展を追求する上で各州に自治権を与えるという意味で、税制の多重構造が重要な要素となっている。州は、外部(VCや個人投資家など)からの融資を獲得した新設企業にマッチングファンド(獲得した融資の金額に応じた資金)を提供している。
認可資本会社(CAPCO:Certified Capital Corporations)も多くの州で設立されている。CAPCOは、認可されたVCファンドへの融資と引き換えに保険会社などに税額控除を認めることによって、VCの設立を促進することを目的としている。ある意味で、州がいわばベンチャーキャピタリストの役割を果たすもので、有効に機能している州も、あまりうまく機能していない州もある。

「ジャンプ要因」:地域の利害関係者の革新的な連携−地域によっては、遅くとも1990年代半ばには、指導者たちが適材(成功を収めて高い評価を得ており、たいていは何度も会社を設立した経験のある起業家、科学者、市民指導者など)を集めて、戦略的な成長計画を立案し、必要な意志と手段をもってその計画を最後まで遂行するための態勢を整えていた。早期に認めるべき重要な点は、すべての産業が勝者になれるわけではないということ、したがって、限られた資源をその地域で最も成功が見込める産業に振り向けるべきだということである。

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私は、ケンブリッジ大学出版局から2005年に発行された著書 Innovation and Entrepreneurship in Japan(日本における技術革新と起業家精神)で、先端技術分野のクラスターにおけるクラスター政策・戦略についてまとめた。この著書の中で、私は二つの地域、ミズーリ州セントルイスと京都を取り上げている。両地域は、地域の人材と機関による意志と手段の興味深い連携を通じて、生命科学の分野においても成功裡にクラスターを発展させてきた。
現在執筆中の著書では、日米における生命科学分野のクラスター形成をテーマに、セントルイスと京都のほか、多数の地域の人材と機関を分析している。要点をまとめると、多くの地域が先端技術分野や生命科学分野における新事業の創造の基本的必要条件を満たしているものの、これまでのところ、持続的なクラスター形成の十分条件を満たした地域はわずかしかない。この理由を解明し、成功を収めている地域の経験から教訓を引き出すことは、さらなる研究と政策展開の重要な手段である。


2006年10月
*原文は英語
Profiele
キャサリン・イバタ=アレンズ (Kathryn Ibata-Arens)
シカゴのデュポール大学政治学部助教授として、日米の技術革新政策を研究。2005年から2006年まで、同志社大学商学部に安倍フェローとして在籍。ウォール・ストリート・ジャーナル国際版や、エイジアン・パースペクティブ他の各誌で研究成果を掲載。

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