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特別寄稿
アメリカとわたし Vol.2 『Good listener、アメリカに問う』

特別寄稿
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アメリカとわたし 「Good listner、アメリカに問う」
船橋 洋一氏

朝日新聞社コラムニスト
1996年度 安倍フェロー
船橋 洋一


私は現在、首都ワシントンにあるシンクタンク、ブルッキングズ研究所で、特別招請スカラーという肩書をもらい、北東アジアの平和と安全保障の諸問題を研究している。

2004年3月、ここを訪れた時、旧知のストロブ・タルボット理事長と雑談した。
「早いもんで今年で定年だ」
「エッ、もうそんな年か。これからどうするんだ」
「定年後も朝日新聞のコラムニストをもう少し続けることになった」
「ヘエー、気前のいい新聞社なんだね」
「ウン、そうなんだ。足向けて眠れない」
そんな会話を交わした翌日、ストロブから電話が入った。
「1年間、ブルッキングズ研究所に来ないか。好きなテーマで研究すればいい、できれば何か本の形で発表してもらえばありがたい。コラムニストを続けながらできるだろう。考えてみてよ」
私はうなってしまった。
昨日の今日である。
ちょっと考えさせてよと言い、お礼を何度か言い、電話を切ったが、スリリングな気持ちになった。

どうだろう。このスピード感覚、このリープ感覚、このフロンティア感覚。
またまた、アメリカからチャンスをもらってしまった。

* * *

最初は30年前、ハーバード大学のニーメンフェローとして1年間、勉強した。
これは、ジャーナリストの教養を高め、視野を広めさせるためのプログラムである。ハーバード大学のどの授業に出てもいい。
20人近い同僚記者(米国人主体、外国人5人)とともにほぼ共同生活に近い形で暮らし、遊び、議論し、本を読み、授業やセミナーに出て、勉強し、一つだけ報告書を書く。
(私のエネルギー配分はだいたいその順番だったと思う)

ここでもらったもっとも大きなチャンスは、質問をするチャンスだったと思う。
ニーメンフェロー・プログラムは、政治家、政策当局者、外交官、作家、学者、シンクタンク研究者、ジャーナリストなどを毎週平均して2、3人は招き、彼らを囲んで議論をするのが目玉である。そのような時、アメリカ人ジャーナリストの質問は次から次へと止まらない。

ある時、マイアミ・ヘラルドのアーニーという仲良しに、なぜ、こんな質問攻めにするんだい、と聞いた。
「なぜ、質問するかって?記者が質問しなきゃ、ただ乗りということになる。質問することは公共財をつくることなんだ」
そんなもんかとえらく感心した。
私は、日本でも公の記者会見などで正面から質問をするのはあまり得意ではない。
別に恥ずかしがり屋ではないのだが、なぜか支局時代のサツまわり(警察担当)の時から、質問は個別に秘めやかに聞き、自分だけのネタを引き出すもの、という習性のようなものが身に付いてしまった。
記者が質問するということは読者に代わってそれをするのだという公の感覚は私の中にはなかった。
公のところでの質問も回答も何か型どおりで、やらせっぽいと私は感じていた。だから、そんなところで質問ごっこをやるより、裏でホンネを聞き出したいという気持ちが私にはあったのだと思う。
ところが、ここでは、公の場での質問をすることは公共財だという。それをさぼるような輩は「ただ乗り」呼ばわりされてしまう。
私は、質問をすることの大切さを思い知らされた。質問をするということは自分でアジェンダをつくることにもつながる。
人に会う。何を聞くか。何を聞くべきか。そのゲームプランを自分なりに練ってから会う。相手に質問をすることから、公共の議論も始まる。いや、公共は生まれる。

* * *

80年代、ワシントンで特派員をした後、米国際経済研究所(IIE)の客員研究員として、円、ドル、ドイツマルクの通貨調整の力学を1年近く研究した。所長はフレッド・バーグステンで、カーター政権時代、財務次官補を務めた政策プロである。
80年代と言えば、鉄鋼から自動車から工作機械から半導体からコメから、そして通貨まで何から何まで日米経済摩擦になってしまうような時代だった。
フレッドにはその都度、取材でお世話になった。なかでも通貨の取材には執念を燃やした。取材者として尋ねるだけでなく、自分の見方や分析も伝えながら、質問をした。

ある時、フレッドがキミを客員研究員として招待するからさらに円ドル為替調整の政策決定過程を調査、研究してはどうかと言ってくれた。
正直言って、荷が重いと思った。ここの研究所の研究者はジョン・ウィリアムソンにしてもウィリアム・クラインにしても通貨や貿易の世界的権威である。
フレッドはそんな心配は無用と言った。
「シンクタンクの研究はノーベル経済学賞を取るためのものではないんだ。一般の市民、とくに公共政策に関心のある市民が、政策当局者と正面から議論できるような政策論の足場を提供することなんだ」
毎週行われる研究所の内輪の昼食会では、各研究員が自らの知的プロダクツを(論文、議会証言、メディアでの発言、引用)をインプットし、それらに対する反応(フィードバック)を手際よく紹介する。
ここで得たことは計り知れない。
シンクタンク用語で言えば、私自身の知的なプロダクツをインプットし、フィードバックするチャンスをもらったということなのかもしれない。
どんな意見だろうが、どんな背景だろうが、アメリカにはそれを聞いてくれる公共空間がある。アメリカは社会としてはgood listener(聞き上手)であるとつくづく思う。

* * *

1970年代、80年代、90年代、そして今回と、米国滞在は4度目となる。
日本から帰ってきて、ダレス国際空港に着くと、必ず指紋を取られる。
911テロが米国をこんなに窮屈でこわばった国にしてしまったのかと思うとちょっぴり悲しくなる。アメリカは国としてはそれほどgood listnerでなくなったのではないかと気がかりである。
アメリカからはチャンスをもらい続けた。
これから、どのようにお返しをするか。
私は、アメリカに質問をすることだと思っている。ここがおかしいのではないか。ここは違うのではないか、ここはもっと一緒にやれるのではないか、と。
それから、アメリカにプロダクツをインプットし、アメリカのプロダクツに対するフィードバックを提供することだと思っている。
たとえば。
東アジア共同体構想に対するアメリカの中の反発や批判に対して、こちらのビジョンと戦略論を示しつつ、丁寧に応えていく。
朝鮮半島の平和と安定に対する多角的枠組みづくりに対する日米の構想と政策協調のあり方を追求する。
中国台頭と日米同盟と日米中協力のプラス・サム・ゲームを構築する。
それには、まずプロダクツを出さなければならない。
そうそう。締め切りにうるさいところもアメリカである。
甘えは許されない。ただ乗りは許されない。そう心に刻んでいる。 

(2006年3月米国ワシントンDCにて)

船橋 洋一(ふなばし・よういち):
1996年度 安倍フェロー。フェロー時研究テーマは『日米中協力を目指して:三辺親和力の国内力学分析』
1944年

北京生まれ

1968年 東京大学教養学科卒業、朝日新聞社入社
1975-76年 米ハーバード大学ニーメンフェロー
1980-81年 朝日新聞社北京支局員
1984-87年 朝日新聞社ワシントン支局員
1987年 米国際経済研究所(IIE)客員研究員
1988-89年 朝日新聞社経済部次長
1989-92年 朝日新聞社経済部編集委員
1992年 法学博士(慶應義塾大学)
1993-97年 朝日新聞社アメリカ総局長
1996年 96年度安倍フェロー(日米センター・米国社会科学評議会共催)に採用。
1997-98年 安倍フェローとして研究。
1998年〜 朝日新聞社特別編集委員
1998年 アジア太平洋大学客員教授
1999年 朝日新聞社コラムニスト・特別編集委員
2000年 朝日新聞社役員待遇
2003年2〜4月 米国コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー
2003年〜04年 東京大学客員教授
2004年4月〜 高麗大学特別招請教授
2005年8月〜現在 米国ブルッキングズ研究所に特別招請スカラーとして滞在中。CGPとブルッキングズ研究所との共催事業にて、2005年8月より1年間同研究所において、北朝鮮問題を中心とした北東アジア地域の安全保障に関する調査・研究活動実施中。研究成果は出版物となる予定。
主な著作:
『内部 ある中国報告』(朝日新聞社、1983年。同年サントリー学芸賞受賞)、『日米経済摩擦』(岩波新書、1987年)、『通貨烈烈』(朝日新聞社、1988年。同年吉野作造賞受賞)、『同盟漂流』(岩波書店、1997年。98年新潮学芸賞)、『いま、歴史問題にどう取り組むか』(編著、岩波書店、2001年)、『歴史和解の旅』(朝日新聞社、2004年)など多数。

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