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特別寄稿
アメリカとわたし Vol.3 『ミュージアムにできること』

特別寄稿
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アメリカとわたし vol.3 『ミュージアムにできること』

九州国立博物館 学芸部企画課長 三木美裕

こどもの時の出会い

こどもの時の体験がその人の進む道を決めることがある。私の場合は高校時代の1976年、場所はシアトルである。出身地神戸の姉妹都市シアトルに夏期交換生として滞在していた。美術収集に関心がある両親のもとで育ち、こどもの時から美術館が好きだった。シアトルでも美術館にでかけた。ここは創始者のフューラー一家や、のちに東洋美術で有名なクリーブランド美術館の館長になった学芸員のシャーマン・リー氏などの尽力で、日本や中国など東洋美術のコレクションが充実していた。陶磁器が好きだった私にそれは決して珍しいものではなかった。しかしここで見た日本や中国の展示に胸を衝かれる思いをしたのである。日本でも同じような作品を見ていたのに印象が大きく違ったのを憶えている。当時は自分の中で何が起こっているのかわからなかった。しかし今ならわかる気がする。それはこれまで日本にいながら自国の文化や美術を見ていたのに対し、今回は外から見るという環境の変化がもたらしたのだと思う。特にアメリカやヨーロッパの美術品と並んで、日本美術を見るのは実に新鮮であった。以来ほかの国の文化と日本美術を比較しながら考えることができるようになった。心の中で東洋と西洋世界がつながったというと少し大げさかもしれないが、こどもの心には大きな変化であった。

シアトル美術館へ私を連れてきたのはアメリカ人のホスト・ファミリーである。日本について彼らにしどろもどろで説明した。今まで水と空気のように感じていた自国の文化である。それを言葉で伝え相手が理解したときのうれしさも忘れられない。美術館の訪問者から、見せる側へ一歩踏み出した瞬間であったと思う。

これまでボストン、シアトルやロサンゼルスのミュージアムで展覧会の企画に関わってきた。展覧会を日本へ持ち込み、アメリカの文化を日本に伝える仕事もした。結局のところ、海外で自国の文化を考えるというのは、自分が慣れ親しんだものを通して、目の前にある異文化を考えることであった。それは高校時代のシアトルでの体験に共通していると思う。大学を卒業した後、そのシアトル美術館で働けたのは幸運であったし、現在も家族と住む自宅はシアトルである。

展示を通して考える

未知の文化を伝える場合、私たち展覧会の「伝え手」は互いの異なる部分に焦点を当てがちである。しかし展示を見る側の「受け手」は、逆に異文化の中に自分と共通するものや相容れる考え方のあることを知って、高い関心を示すようになることもあるのに気づいた。特にこどもや若い世代に異文化を伝える場合によく見られる。違いを強調するよりも、展示の中に自分と似通った部分を見つけて、親しみを感じ、より高い関心を示すようになるのである。おとなは珍しいものに先ず目がいくが、こどもも同じとは限らない。こどもには、ミュージアムは「何だかわけのわからないものが並んでいる難しいところ」という先入観がある。自分にも共鳴できることに出会うとほっとする。すると落ち着いて周囲を冷静に見る余裕が出てくる。要は相違するものをバランスよく、である。アメリカでの仕事を通じて学んだ視点である。

ただしそこに一つ落とし穴があるとすれば、文化の相違点を自分の思い込みだけで展示すると、多分に間違いをおかすということである。展示について自分の考えたことが、誰にでも通じるかというと決してそうではない。お客さま(来館者)との対話の中から相違点を見つけ出すのが大切なのだ。ふだんからギャラリーに出て対話を心がけ、受け手が何に関心があるのか肌で感じるようにする。展覧会の企画段階では、想定する利用者層にインタビューしたり、展示デザインの試作品を見せるなどの試しをしたうえで展示を完成させるようにする。これを「来館者調査」(audience research)とよんでいる。伝え手の思い込みだけで展示を作ってしまわないように、それが受け手にうまく伝わるか予め調査するのである。この手法には、利用者の意見に左右されては企画者の伝えたいメッセージが弱まってしまうと考える人もいる。私は展示開発の手法に選択肢が広がるのはよいことだと思う。これまでミュージアムは、利用者のニーズを把握するのにずいぶん遅れをとっているからだ。

ミュージアムの数は増えつづける一方である。自分の住む町に、ミュージアムと名のつくものがいくつあるか考えてみてほしい。今や我われは利用したい館を選ぶための選択肢が必要となっている。私はこれから長くミュージアムを利用するこどもや、20〜30代のヤング・プロフェッショナルとよばれる層に強い関心がある。彼らがミュージアムは自分の生活と関わりがある場所だと感じて足を運ぶように、きめ細かな対応をしたいと思う。学校をフォーマルな学びとすれば、ミュージアムでの学びはインフォーマルなもので、これをミュージアム・エデュケーションとよぶ。アメリカはこの分野が発達しており、私たちが学べることが多くあると思う。

美術館ほど多様なお客さまを迎える場所はない。年齢層も多様で、例えば家族の利用者は「親子」だけでない、「祖父母と孫」の組み合わせが大きな比率を占める。異なる年齢層がともに学べる場所である。その日のミュージアム体験を家に持ち帰って家族の団欒で話題にする、そのような企画に携わっていたいと思う。

海外巡回展

日本では欧米から毎年多くの展覧会を多く受け入れている。印象派の展覧会、海外美術館の秘宝展などいくつものタイトルが目に浮かぶ。ひるがえって日本から展覧会を海外へ送り出すのは容易ではない。海外からの展覧会は、巡回によって日本で利益まで上げることがある。日本から送り出すのはまず赤字覚悟である。資金面でも準備面でも苦労する。海外で何が求められているか、そのニーズを把握して送り出す戦略がやや欠けているからだと思う。油絵や彫刻に比べ、日本美術は保存の難しい作品が多いのも事実だ。両国のミュージアムで働いた経験を生かし、視点を変えながら長期的な展望のある文化発信の戦略を考えていけたらと思う。

なお海外で展覧会の仕事をしていくうえで、国際交流基金をはじめ、同日米センター(CGP)のスタッフはいつも私たちのよき理解者である。企画開発段階でのCGPスタッフとの対話は、その内容を深めるのに大きな助けとなっている。ここに改めて感謝したい。


三木美裕(みきよしひろ)
九州国立博物館 学芸部企画課長。ボストン・チルドレンズ・ミュージアム、シアトル美術館を経て、ロサンゼルス全米日系人博物館 の教育部長をこれまで歴任。著書に『キュレイターからの手紙 アメリカ・ミュージアム事情』(2004年 アム・プロモーション)がある。

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