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特別寄稿
角度によって違う像が見えるアメリカ

特別寄稿
特別寄稿一覧
角度によって違う像が見えるアメリカ

渋澤 健 氏

シブサワ・アンド・カンパニー
株式会社代表取締役
(財)渋沢栄一記念財団 理事
文京学院大学院客員教授
渋澤健

真っ青な空を見上げると、まぶしい太陽が大地を暖かく照らしてくれている。爽快な気分であるはずであるが、実は私の心は曇っていた。アメリカの壮大な空で異変が起こっているからだ。飛行機が、まったく飛んでいないのである。

時は、2001年の9月。ニューヨークを襲った悲劇で、私は米国のシアトルで足止めになっていた。11日の朝はワシントンDCに移動するはずであったが、連邦政府の緊急指導によりアメリカ全国の空の便が地上にへばりついていた。グランド・ゼロから4500キロ離れ、不思議な静けさに包まれていた。

「これから自由に移動できなくなったら、どうしよう。」こんなことをふと考えたら、恐怖感に追われた。私の仕事である金融・資産運用は、情報と人と物が自由に動くという前提で成り立っている。その自由が奪われたら、まさに空気を奪われることと同じ。ジ・エンドである。半年前に独立して事業を立ち上げた直後であった。

その数日後、土曜日9月15日の朝。シアトル内の万博記念公園にある「インターナショナル・ファウンテン」(国際噴水)でニューヨークとワシントンDCの悲劇で命を亡くされた方々のために、花をささげる追悼式が市民の間で自発的に開催された。

噴水に切り花を置いてお祈りしていたところ、私の左側から小さい拍手が始まり、それがジワジワと波のように広がって、次第に大きな拍手になった。

何だろうとそちら方向に顔を上げると、そこに花束をささげていているターバンを頭に巻いた男性の数名の姿が見えた。長いひげ、ターバン。アメリカ人から見れば明らかにイスラム系民族である。年配の男性が多かったが、イスラム民族服で身を包んでいる女性、そして、小さいターバンを巻いている幼い子供達もいた。その小さい表情は緊張していた。

アメリカ人の絶大の痛みと怒りの中、この花をささげているイスラム系民族の彼らたちが心で感じているものは、ある意味で、それを超えるものであろうと思った。自分たちとは関係ない派で、自分たちとはまったく関係ない者たちの行為である。しかし同じ宗教の過激信者の一部が、自分たちを受け入れてくれた地と人々を攻撃した。胸が裂けているに違いない。

このような混乱した状況で、ブーイングや乱暴な行為ではなく、異国からの人々の心からの行いを拍手で受け入れたシアトル市民。イスラム系民族の男性に握手を求めているアングロ系のアメリカ人たちも数名いた。ここにアメリカの大きさを感じた。

人を人ということを、まったく無視して起こった大悲劇。目の前にいる人と人のふれあい。私はただむなしくて、涙がポロポロと目から零れ落ちることをこらえようとしたが、無理であった。

今からおよそ60〜65年前で同じ場所にいた日本人や日系人。彼らはいったいどのような痛みや怒りを心に収めようとしていたのであろうか。

「渋澤さんは、アメリカと日本とどちらかが好きなのですか?」小学二年から大学卒業までアメリカで暮らした私が社会人として帰国したときに、しばしば聞かれた質問である。ただ、聞かれる度に、言葉が詰まった。

どちらと言われても、アメリカと日本は私にとって親のような存在。父親との意見が合わない場合もあるし、母親との意見が合わないこともある。しかし、自分を生んでくれた「親」として、両方が自分にとって大切な存在であり、「好き」に決まっている。自分は自分の「親」にときどき愚痴を言うかもしれないが、他人から悪口をいわれたりすると、やはりむかつく。

日本で生を受けたという意味では、やはり、日本が私の母親であり、アメリカは私に色々なこの世の中においての可能性を見せてくれた父親であろうか。日本のプロセスを重視する文化と比べるとアメリカの成果を重視する文化。やはり、日本は女性的な文化でアメリカは男性的な文化であろう。

このプロセス・結果重視の違いは、買い物ですぐわかる。男性はすぐ、結果を求めて買い物をして用を済ませたい。女性はああだ、こうだと言って、なかなか買ってくれない。口喧嘩では男性は、「こうすれば解決するだろう。なぜわからない」というが、女性は「色々とあるのよ。なぜ聞いてくれないの」という。日米摩擦問題でも、このようなパターンが多いではなかろうか。やはり親同士の喧嘩は子供にとって悩ましいものである。

アメリカは不思議な国で、異母子であっても我が子として取り入れる精力がある。「Oh, Ken. You’re American」と言って、アメリカが信じる精神に取り入れようとする。小学生のときに、毎朝、胸に手を当ててアメリカ国旗に忠誠を誓うことにまったく抵抗を感じなかった。

一方、日本では日本通の外国人に対して「貴方は日本人的ですねぇ。」と、やや控え気味や表現の仕方をする。アメリカのこの不思議な精力は、やはり、母国から何らかの理由で新天地に新しい生活を求めてきたような人々の遺伝子が濃縮されているからであろう。

アメリカには常にフロンティア、未開拓地があった。異なる民族の人々が、そのフロンティアを求めてきた。村の秩序に満足や我慢できる人たちは特にフロンティアを求めることなく、旧世界に留まっていた。

あの海を越えれば、あの山を越えれば、自分たちのより良い生活が待っているという夢を持つ。現状に満足するのではなく、環境をより良いものに開拓していこう。このような遺伝子のるつぼであるアメリカという同じ像に「前向きさ」、「うっとうしさ」、「革新的」、「自己中心的」という矛盾を同時に感じる。

アメリカ国内で暮らしていると、自由や民主主義というアメリカ精神は、この世の中に普遍的な思想であるべきということに、まったく疑問が沸かない。しかし、外から見つめるとはじめて気が付く。アメリカって「自由と民主主義」という一神教の原義を唱えて、世界秩序においてはかなり独裁的な行動を取っていることを。善意な想いでも、結果が悪意と受け取られることもある。

そういう意味で「アメリカとわたし」というテーマを考えると、私はアメリカという国をひとつの単位で見ると、最近はそれほど好意的な印象を持っていないのかもしれない。

ただ、面白いことに、外から見ると一単位に見える象が、中から見ると大勢のアメリカ人が見えてくる。このように「アメリカ人とわたし」というテーマになると、これは私にとって切れることが想像できないほど大切なものである。今の私の存在は、間違いなく大勢のアメリカ人の一人ひとりの出会いから構築されている。このような一人ひとりのヒューマン・ストーリーを造れることが、国という単位の友好な関係の織りになるのであろう。一人ひとりのヒューマン・ストーリーを各国間で造れることができれば、政府間の外交も安全保障もいらなくなる。もちろん、程遠い理想ではあるが、そう思う。

比較的に日本人が少なかったテキサス州で生活を送っていた私が、親の引越し先であったカリフォルニア州を訪ねたときに初めて気が付いた。カリフォルニアには日系人をはじめ、アジア系のアメリカ人が多いが、このようにある程度の人数にならないと、実はマイノリティ(少数派)にはならないのである。一束するのと、一人ひとりとして見るのと、同じ現実でも、違うものが見えてくる。

1968年に恐怖と憎しみの弾丸に倒れた黒人伝道師マーチン・ルーサー・キングの永遠の言葉。I have a dream. ここにアメリカ人が世界にささげる普遍的なメッセージがあると感じる。

2005年12月

 
渋澤健(しぶさわ・けん):
1961年

生まれ。 小学2年生のときに父の転勤で渡米以降米国で過ごす。

1983年 テキサス大学卒
1984年 (財)日本国際交流センター就職
1985年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営大学院(MBA)留学
1987年 卒業後、ニューヨークのファースト・ボストン証券会社NY本社入社
1988年 JPモルガン銀行東京支店へ転勤
1992年 JPモルガン証券東京支店へ転籍
1994年 ゴールドマン・サックス証券東京支店へ転職
1996年 大手ヘッジファンドのムーア・キャピタル・マネジメントNY本社へ転職、翌年に同社東京駐在事務所を設置、代表に。
2001年 ムーアを退職し、現職。 (社)経済同友会幹事
主な著作:
『渋沢栄一とヘッジファンドにリスクマネジメントを学ぶ』(日経BP社、2001)、『シブサワ・レター:日本再生への提言』(実業之日本社、2004)
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