平成15年度 国際交流基金賞/奨励賞 授賞式 ヨーゼフ・クライナー氏スピーチ

平成15年度 国際交流基金賞・国際交流奨励賞

国際交流基金賞/ヨーゼフ・クライナー氏

権威ある国際交流基金賞をこの度受賞致しますことを大変大きな名誉に存じまして、心から厚く御礼申し上げます。またこの格式高い賞をいただきますほどの業績は私にはございませんので誠に恐縮致しております。むしろ今に至りまして私の方から国際交流基金の方々に感謝申し上げなければならないと深く感じております。国際交流基金が設立されました1972年、その同じ年に創立致しましたヨーロッパ日本研究協会は、基金抜きにしては育てられませんでした。基金のご援助をもってヨーロッパの日本研究者がはじめて密接な交流を持つことができたことは、現在に至るまで大きな成果と意義を持っております。つい最近、8月末に我々はワルシャワで第10回目の国際会議を開くことが出来ましたが、この度もまた、国際交流基金から多大なご援助をいただいたことを御礼申し上げます。


私個人のことになりますが、文部省交換留学生として昭和36年に初めて日本の土を踏んでから、恩師岡正雄先生をはじめ、日本の先生方、また私の専門であります民族学の先輩・後輩の方々にも実にたくさんのことを教えていただきました。そして調査で歩いた日本各地の津々浦々、なかんずく南西諸島の島々の人たちに常に心温かく受け入れていただき、おかげで有益的な勉強をさせていただきました。その皆さまのおかげで、今日の私がありますことを忘れることはございません。


私のやっております研究は-民族学あるいは文化人類学という専門ですが-他の学問分野と比べていささか陽が当たらない傾向があるのではないかという印象を受けます。しかし、日本古典文学の文献学的解明に努めております伝統的なジャパノロジー、あるいは現代日本社会の直面している諸問題に取り組んでいるジャパニーズ・スタディーズと違って、民族学は柳田国男・渋沢敬三両先生がおっしゃった「常民」、石田栄一郎先生の語る「日本文化の超歴史的な核(コア)」、あるいは梅棹忠夫先生が論じていらっしゃる「日本文明」を研究対象と致しまして、言い替えますと、日本文化の本質とその起源や将来に関わる最も基本的な問題に携わっています。日本文化や社会、経済は常に変化して参りましたし、さらに、現在も他の国と同じように大きな変革を迎えていますが、その一つ一つの要素にとらわれないで、外国という幾分距離を置いた立場から、また周辺の民族文化も入れた広い視野で日本を一つの全体として取り扱う民族学こそが、今必要なのではないかと思っております。


ボン大学では、現在約600人の学生に日本文化、日本語を教えております。そういう若い人たちは将来あらゆる方面に進むだろうと思います。経済、政治、外交、あるいは研究に残る人もいるだろうと思いますが、各方面に巣立っていく若者に、その基本にこの民族学が持つ魂を常に置いてもらいたいと思っております。その意味で、一人の民族学者として、この格式高い国際交流基金賞をいただきますことは、名誉であり、この道を歩む研究者全員の代表といたしまして、この賞をいただき、御礼の言葉を述べさせていただきたく存じております。


最後になりますが、この場をお借りしまして、今までお世話になりました日本の先生方、先輩同僚、あるいは学生たちに対して、また私事でございますが、家族に対しても深く心からの感謝を申し上げたいと思っております。また、新しく生まれ変わりました独立行政法人国際交流基金の、これからますますのご発展をお祈り致しまして、私のご挨拶とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。


What We Do事業内容を知る