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湯田晴子さんの写真
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湯田 晴子さん

人と人との草の根交流こそがつながりを生み、互いの世界を広げる

国際交流基金日米センターとアメリカの非営利団体ローラシアン協会が共同で実施している「日米草の根交流コーディネーター派遣プログラム」は、英名を「Japan Outreach Initiative」とすることから「JOI(ジョイ)」と呼ばれる。2002年の開始からこれまでに約60名の有志がこのプログラムに参加し、JOIコーディネーターとしてアメリカで「日本を伝える」ために活動。湯田晴子さんはその一人だ。現地での活動を通して実感した草の根交流の意義を、湯田さんが語る。

学校の在り方、役割を考えるうえで、JOIは最適なプログラム

日本への関心と理解を深めてもらうため、日本との交流があまりないアメリカ中西部と南部に位置する各州の地方都市にコーディネーターを2年間派遣するJOIプログラム。コーディネーターは日米協会や大学に籍を置き、州内の学校などを訪れてワークショップやイベントを開き、日本の文化をはじめ生活、社会、日本語を紹介する。

このJOIプログラムには、異文化コミュニケーションや日本文化の発信など国際交流への意欲から応募する人が多いが、湯田さんの場合は必ずしもそうではない。JOIに参加した動機はむしろ別のところにある。東京学芸大学在学中にタンザニアのダルエスサラーム大学に留学した時から関心を持ち続けているテーマを追究するためだったのだ。

「タンザニアを留学先に選んだのは、初代大統領ジュリウス・ニエレレの教育思想に興味があったからです。当時、タンザニアには学校に行けない子供たちに基礎教育の機会を与えるコベット(COBET:Complementary Basic Education in Tanzania)というセンターがあり、留学中はニエレレの教育思想の影響とコベットのようなノンフォーマル教育の場を自分の目で見て知ることに時間を費やしました。

人が成長していく過程で、学校はどんな役割を果たすのか。タンザニアでノンフォーマル教育に関心を持ったことをきっかけに学校の在り方について勉強を続けたくなって、大学卒業後は学芸大の大学院修士課程に進みました。

教員養成系大学の大学院なので、学生の多くは教員を志望します。私は大学院修了後の進路について修士論文を書き終えてから考えるつもりだったんですが、修論を書いている真最中にゼミの同期生を通じてJOIの存在を知って……。

JOIのコーディネーターになると、アメリカの各種の学校を訪れることができます。活動の傍ら学校の役割に関する比較研究が続けられるし、大学で専攻した国際理解教育の知識も役に立つ。調べてみると、JOIは私に最適なプログラムであることがわかりました」

JOIの活動は、自分にとっては研究テーマのフィールドワークにもなる。そんな絶好のプログラムに応募しない手はない。結果、湯田さんは、大学院を修了した2012年から2014年までバージニア州のシャーロッツビルに滞在し、バージニア大学アジアインスティチュートを拠点にJOIコーディネーターとして活動することになったのだった。

コミュニティの外に広がる世界に触れるきっかけを作る

派遣先のシャーロッツビルは、アメリカ第3代大統領のトーマス・ジェファーソンが設立したバージニア大学を中心とする小さな都市だ。人口は約4万人。その内の多くを大学関係者が占めるという。

「シャーロッツビルはさまざまな国のイベントが日常的に行われている町で、国際色が豊かです。小さいけれど日本人コミュニティがあって、日本食レストランもあります。ただ、大学関係者や学生以外の市民で日本のことを知る人は、それほど多くはなかったですね」

シャーロッツビルに限らず、JOIプログラムの派遣先は、日本に関する知識が決して浸透しているとは言えない都市がほとんど。そのようなエリアの教育機関やコミュニティなどで、アウトリーチ(日本を紹介しながら参加者とコミュニケーションを図る活動)を行うことが、JOIコーディネーターに与えられた役目だ。

「私のスーパーバイザーであるアジアインスティチュートのレイチェル・スタウファーから、活動を始める前にアウトリーチに対する考えを聞きました。彼女はこう言ったんです。『自分が暮らす町しか知らない人たちに、世界はとても広くて、コミュニティの外にはさまざまな人がいるのだということを知らせたい』と。

自分が今いる町やコミュニティでの生活が全てだと考えている人が、外に目を向けて世界には無限の可能性が広がっていることを知れば、心が自由になると思うんです。別の希望だって生まれるかもしれません。そのきっかけを作ることがアウトリーチであり、それを担うのがJOIコーディネーター。日本人の私がアウトサイダーとしてバージニア州の地域に行くだけで、外の世界に触れる機会を持ち込むことになるのだと、レイチェルと話して気づきました。活動を始める前に彼女の考えを聞いたことによって、アウトリーチの目的が明確になった気がします。JOIコーディネーターとしての自覚も生まれました」

スーパーバイザーのレイチェルと(右)と湯田氏の写真スーパーバイザーのレイチェルは心から信頼できる存在。

明確になった目的に向かって、湯田さんは着任1年目から果敢にアウトリーチを展開する。異文化体験に興味を持ってイベントに訪れる人が比較的多いシャーロッツビルでは、日本を知ってもらうために巻き寿司のワークショップや折り紙のアクティビティなどを実施した。もっとも、より力を注いだのは、日本に関する情報がほとんど届いていないシャーロッツビル以外の地域での活動だ。

「レイチェルが私に期待したのは、外に目を向けることのない人たちの世界を広げることです。だから、積極的に日本人がまだ訪れていない地域に足を運び、幼稚園から大学まで学校を中心に訪問しました。日本に関心がない人にはイベントへの参加を呼びかけるより先に、日本がどんな国であるか伝えて知ってもらう必要があります。そのために、学校を訪問してベーシックなアウトリーチから始めようと考えたんです。

訪問先が小学校なら日本の小学生の、高校であれば日本の高校生の、学校での日常や行事について話をしました。生徒たちが一番興味を示すのは、やっぱり学校に関してなんです。他のテーマで話をしても、必ず『日本の学校はどんな感じ?』と聞かれますから(笑)」

湯田さんのはつらつ感あふれる笑顔と好奇心をそそる話題に引き込まれ、日本に関心を持った生徒はきっと少なくなかったことだろう。なんでも、教員対象のワークショップで日本の教員の1日を紹介したこところ、先生たちからも好評を得たそうだ。

「教員に対するアウトリーチも大事な活動です。ワークショップではたとえば、小学校低学年に図形を教える時に折り紙を利用すると日本の文化を取り入れた授業ができると提案しました。先生たちに日本の文化について知ってもらうと、その後は先生が生徒や地域の人たちにアウトリーチしてくれます。私が去った後も日本に関する知識や情報が使えるものとしてしっかり残るようにすることは、目標の一つでもあったんです」

シャーロッツビル近郊のアルバマール高校では日本食についてプレゼンテーションの様子の写真シャーロッツビル近郊のアルバマール高校では日本食についてプレゼンテーション。

一人の日本人と出会ったことによって、人々は日本に興味を持ってくれる

日本に関する知識と情報を根づかせるための試みとして、2年目にはバージニア州のコミュニティカレッジ同士をつなぐことを目的に日本文化の体験イベントを企画した。

「シャーロッツビルのピードモント・バージニア・コミュニティカレッジには日本語のクラスがあり、日本の文化に詳しい学生もたくさんいます。一方、ウェイヤーズ・ケーブにあるブルーリッジ・コミュニティカレッジは、日本文化に関心のある学生がいるのに日本に関するリソースがほとんどありません。そこで、車で1時間半ほどの距離にあるその2つのカレッジをつなぐため、先生たちと協力して日本文化をテーマにしたイベントを開催したんです。嬉しいことにイベントを通じてつながりができ、2校が合同で日本文学読書クラブを設立することになりました。私が帰国した後も、ピードモントの先生が中心となって、バージニア州にあるコミュニティカレッジ合同の日本ツアーの計画を進めています」

湯田さんがバージニア州の各地域を訪れて蒔いた種は、着実に芽吹いている。アウトリーチを核とした「草の根交流」は、決して小さくはない成果を上げることができるのだ。

バージニア大学周辺のコミュニティを対象に開いたワークショップで巻き寿司を作る湯田さんの写真バージニア大学周辺のコミュニティを対象に開いた巻き寿司ワークショップ。

「個人対個人として関係を築くこと、人と人がつながること。草の根交流って、そういうものなんじゃないでしょうか。ポケモンやハローキティから日本への興味につながることはなくても、湯田晴子という一人の日本人と出会ったことで日本に関心を持ってくれた人はいます。バージニア州の地域で草の根の交流をした人たちの世界を、少しは広げることができたのではないかと、自分では思っています。
 実を言うと、個人的にアメリカにはあまりいい印象を持っていなかったんです。でも、レイチェルや各学校の先生たちと出会ってアメリカ人に対する考えが変わりました。個人レベルの草の根交流は、人の人生に影響を与えるほど大きなインパクトを持っているんです。自分の経験からもそう感じます」

さらに、自身の研究テーマであった「学校の役割」に関しても、JOIの活動を通じて見えてきた答があるという。

「学校の存在自体を否定する脱学校論を主張する識者もいますが、私は修士論文を書き終えた段階で学校は必要だと考えました。では、学校の役割は何か。ほとんどの人は、当たり前のこととして学校に通っていると思います。そのため意識することは少ないかもしれませんが、学校に行けば自分の意思を超えて、新しい人に会う機会や思いつきもしないようなことに触れる機会が得られる。さまざまな出会いのチャンスがあるから、興味の幅も広がります。学校は一人ひとりの世界を広げる役割を果たすことができる。それが、JOIの活動を通じて得た結論の一つです。

アメリカでさまざまな人と出会い、つながり、私自身の世界も確実に広がりました。JOIの2年間が、とても貴重な経験だったことは間違いありません」

2016年11月

湯田晴子さんの写真
Profile
湯田晴子(ゆだ はるこ)/1987年、神奈川県横須賀市生まれ。高校時代にオーストラリアに、東京学芸大学在学中にタンザニアに留学。東京学芸大大学院教育学研究科にて修士論文を執筆中、JOIに応募。修士課程修了後の2012年8月から2014年7月まで、JOIコーディネーターとしてバージニア州のバージニア大学アジアインスティチュートを拠点に活動する。

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