「小さなことからでもはじめなきゃ世界は変わりません」

 

セカンドハンドの写真

セカンドハンド

上がりきらないシャッター、壊れたエアコン、雨漏りする屋根……。今の日本では、なかなかお目にかからない粗悪な環境だ。 それでも、衣類、雑貨が所狭しと置かれているこの店は大繁盛。 店員とお客が忙しそうに行き来している。 そして時折、透き通る女性の声が店内に響く。「もう倉庫いっぱいだから、持ってかえって」。なんともそっけない対応だ。

ここは、香川県高松市にあるチャリティーショップ・セカンドハンド。 代表の新田恭子(やすこ)氏が「毎日がチャリティーバザール」と呼ぶ店だ。 このNPO法人セカンドハンドの地道な努力で、この10年に、カンボジアでは11の小学校のほか、医療施設、孤児院などが建てられてきた。

驚くべき偉業だが、その仕組みはごくシンプルだ。市民から寄付された衣類や生活用品を、セカンドハンドが無料あるいは格安で貸借した店舗で販売し、その全収益をカンボジアの学校その他施設の建設支援に充てるのだ。イギリスに本部を置く著名なNGO、オックスファムのモデルを取り入れている。

近年日本では、単なる相互理解を超えた国際交流活動の重要性が広く認識されている。地域の変革を生み、さらに経済の活性化などの波及的効果が期待されるからだ。 セカンドハンドの活動がまさにそうだ。 しかも、特記すべきは、現地の(重要な)ニーズに応えるような学校建設のような事業が、政府のODAでもなく、企業の寄付にもよらず、香川県高松市の一NPO法人によって行われているということだ。

カンボジアと特別な関係があるのでもないこの高松市で、なぜこのような事業が生まれたのかー。その原動力は代表・新田恭子(やすこ)氏だ。1994年に、カンボジアへの熱い思いに突き動かされて小さなお店を開いた。スレンダーで長身。さらりと長い髪が似合うフリーアナウンサー。そう、冒頭の厳しい一言は、新田氏の声だ。その雰囲気からは想像しにくいが、普段は、バイクで市内を駆け回り、自ら1トントラックで運送する。氏を知る人は「考える(迷う)より行動するタイプ」と評する。 

 

街頭での募金活動の写真

街頭での募金活動の様子

きっかけは94年に遡る。それまでラジオのレポーターとして約30ヶ国を訪れていた氏が、今まで経験したことのない衝撃をうけたのが、カンボジアだった。 現地の子どもたちは、本さえ持っていない。さらに、自分と同世代の女性から、ポルポト政権下、自分の目の前で両親を殺されたという話を聞いた。こんなむごい話があるのか……恵まれた日本にいて、何かしたい、う思ったのが始まりだった。

カンボジアを訪れる人はたくさんいる。内戦が残した傷跡、子どもたちの状況についても知っている人は多い。しかしなかなか彼女のようには行動できない。何が新田氏をそこまでつき動かすのか?

セカンドハンドのホームページには、「私たちの力は限られています。もっとよりよい協力ができるよう、たくさんの力を集めるために、小さな団体ですが日々努力しています。(中略) 小さなことからでもはじめなきゃ世界は変わりません」という単刀直入なメッセージが掲載されている。

とはいえ、学校建設が可能になるほどの規模(一校あたり300万から700万の支援)の収益をあげるとは驚異的だ。しかもそれを10年近くも続けているのだ。いったいどうやってできるのか?

話を聞くと、特別な秘密はない。徹底した節約姿勢だけだ。「これまで、実績をあげられた理由は、売上のすべてを支援にあてていたという面もあります。 私たちに経費はないんです。“経費”として使えるお金があればそれはすべて支援にまわし、1円でも節約し、1円でも多く支援に宛てられるようにと活動をしてきました。ものは買わないというポリシー、でもそれがみんなに支えてもらった理由でもあると思います」と新田氏は言う。「もらい物で事務所は成り立つ」という信念でやっている。

こうした活動は、とてもひとりではできない。 しかし、彼女のやる気がさまざまな分野で、この事業を可能にする人を呼び込んでいる。そしてひとたび、彼女の働くさまを見れば、自分も(彼女のために)何かできるのではないか、という気にさせるような人なのだ。

だから優秀なボランティアの人も集まる。新田氏いわく、店ではふたりで10人分働くような人が働いている。しかも長年そんな勢いで走り続けているから信頼が生まれ、すばらしい協力者が現れる。

たとえば、エジプト生まれの著名なヴァイオリニストのアテフ・ハリム氏。 新田氏がパーソナリティーを務めるラジオ番組に出演したのが縁で、昨年5月、セカンドハンド10周年を記念し行われたチャリティーコンサートに出演した。 5歳の時から50年間、高い目標をもち厳しいヴァイオリンの練習を続けている氏は、出演の理由についてこう語る。

 「(彼女が)すごいのは、カンボジアの事業をこれだけ長く継続していること。私には継続のたいへんさがわかる。だから尊敬している」。

 

 

 

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