事業評価の実務

 

自治体ないし自治体が設立母体となっている財団法人の国際交流協会など、公的機関が取り組む国際交流事業については、「評価が難しい」(とりわけ「行政評価」という文脈においては)と言われることが多いが、本稿では、具体例を示しながら、問題の所在とその解決方法について考察する。

1.はじめに
 評価の手法を、その手法を取るに至った文脈から切り離して、他の事例へも簡単に応用できるように一般化することはかならずしも容易ではない。本稿は、むしろ、国際交流・協力分野の事業評価の実務に直接的あるいは間接的に携わっている現場の人びとの間に漂っている、事業評価に対する、なんだかむずかしくて、とっつきにくくて、やっかいなもの、というようなイメージの払拭を目標にしたささやかな企て、とでもいうべきものである。なお、筆者の「守備範囲」は、その所属からも明らかかもしれないが、公的な機関における国際交流事業の評価であるため、これ以降の文中では、「国際協力」という用語を避けている点、また本稿における主張は筆者個人の見解であって、筆者の属する機関の見解とは何ら関係のない点をあらかじめお断りしておく。

2.国際交流の評価はむずかしい?
 評価といわれるとなんだか構えてしまうが、普通は誰でも自分が手がける事業をより良いものにしようとさまざまな工夫を凝らすものだろう。気づきの点を記録に留めて次回の事業実施の際に改善を試みたり、反省を踏まえつつ、他の団体が採用して成功を収めている方法を積極的に取り入れたり、事業参加者にアンケートをお願いして改善点を見出したり、あるいは専門家に頼んで客観的な視点から事業の改善点を指摘してもらう等々、方法はいろいろである(事業改善を志向しておこなう事業評価のことを、形成評価ということがある。これに対して、事業の存廃を決する材料を提供することを目的とする評価は、総括評価と呼ばれている)。
 基本的には、自分の仕事がよほど嫌いであるか、職務怠慢でないかぎり、それをいっそうよいものにしようと積極的に取り組むのが普通であり、事業評価という言葉をそうした意味において使っているのであれば、後は創意工夫の問題であり、評価をおこなう上で取り立ててむずかしいことはなさそうである。
 本稿で問題にしようとしている事業評価は、それに取り組む人々が「公的機関の義務だから……」などと、渋々やっているような気がする評価、国際交流という事業の性格に特別な配慮をしてくれない評価、国際交流事業に携わっている人びとが、「国際交流事業の評価はむずかしい」と口を揃えて言うところの評価の方である。
 この事業評価の特徴としては、国や自治体の財政危機という状況の中で、つねにすべての事業が、成果を効果的にあげているかについての検証を求められている点、定量的であることの必要性が強調される点、納税者への評価結果の公開が求められている点などを挙げることができよう。これらの特徴は、いわゆる総括評価の部類に属するものと考えることができる。自治体では「事務事業評価」と呼ばれることが多い事業評価の様式は、当然のことながら、基本的に国際交流事業のみならず、おおよそすべての事業に統一的なものが用いられる(以下、こうした統一的な事業評価の様式を総称して、「事業評価書」と呼ぶことにする)。
 「事業評価書」には、それを実施する機関ごとに工夫を凝らしたものが多いが、それらに共通する要素としては、事業の目的、それを達成するための具体的な目標(達成目標)や、成果を定量的に測定するための指標(成果指標)等を記述する部分(これらの要素について記述する部分を本稿では便宜的に「事前評価書」と呼ぶ)と、事業終了後に、事前評価書で設定した成果指標に基づいて、目標がどれだけ達成されたかを示し、今後の事業継続可否の判断を記入し、事業改善へのコメント等を付記する部分(これらの要素について記述する部分を本稿では便宜的に「事後評価書」と呼ぶ)がある。このような内容について作成された事業評価書は予算策定のプロセスに反映され、目標の達成度が低い事業は予算配分の優先度が下がって縮小もしくは廃止の対象となり、より成果の上がっている分野に予算が重点配分される。また事業評価書はインターネットで一般にも公開されていることが多い。おおよそ公的機関の事業評価はこのようにしておこなわれていくものと言ってよいだろう。

もちろん、事業評価システムを導入するだけで自動的に望ましい結果が得られるものでないことは、誰の目にも明らかだろう。事業評価の実務を担う人びとやそれを取り巻くさまざまな人々が、その仕組みにどう生命を吹き込んでいくか次第であると言っても過言ではない。たとえば、次のような光景を思い浮かべてみてほしい。
 
X市においては、事業評価は、評価監理室が方針を定め、各部局はそれにしたがって評価作業をおこなうことになっている。国際交流担当部局でも、「通常業務を限られた人員でこなすだけでも大変なのに、余計な仕事を増やさないでほしい」などと不満をもらしながら、各事業の担当者が、それぞれ 事前評価書を目の前にして、せっせと記入をはじめた。多文化共生のまちづくりを目的とする「国際交流フェスティバル」を担当しているAさんも、「事業の目標や成果指標なんていわれてもむずかしいな……」などとつぶやきながら、目標欄に「外国人も日本人も同じ市民として暮らしやすいまちづくりを目指す」、成果指標欄に「フェスティバルの参加者数(目標値500人)」などと記入し、Aさんの上司も「まあこんなものだろう」と了解して、評価監理室に提出した。さて事業が終了し年度が替わったころ、評価監理室から、前年度事業に関する事後評価書の提出を催促され、「そういえば 成果指標は『参加者数』にしていたから……」と事業の関係書類を取り出してきて、「600人」といった具合に書き込み、コメント欄に、「フェスティバル当日は秋晴れにも恵まれ、目標の120% の来場者を得る大成功に終わった。会黷ナ聞かれた来場者の評判も高かったので、本事業は継続実施するべきだと考える」と記入して提出した。取りまとめられた評価結果は、積極的情報公開を推進する市長の方針により、インターネット上でも掲示されている。評価監理室によると、事業分野によっては評価結果に対して、市民からかなり多くの意見が寄せられてきているとの事だが、国際交流事業については、数えるほどの反応しかないようだ。
 
3.事業評価の基本――具体的な目標設定の方法
 事業評価をおこなう前提として、目標を具体的に書くことが基本であるとよく言われるが、意外と「具体的に書く」方法を具体的に説明してくれる参考書は少ないようである。筆者は、目標を具体的に書くための技術として、マーケティングの教科書等でよく出てくる、「目標はSMARTに立てる」という方法を応用することをお勧めしたい。SMARTとは、それぞれSpecific(目標は具体的か)、Measurable(目標は達成度を測ることが可能か)、Actionable(目標は行動に移すことが可能か)、Realistic(目標は現実的か)、Timed(目標はいつまでに達成されるか)の頭文字を取ったものである。
(後略)

続きは、「国際交流の組織運営とネットワーク」(榎田勝利編著、明石書店、2004年)に所収の拙稿をご参照願いたい。

【目次】
1.はじめに
2.国際交流の評価はむずかしい?
3.事業評価の基本――具体的な目標設定の方法
a 目標は具体的か――Specific
b 目標は達成度を測ることが可能か――Measurable
c 目標は行動に移すことが可能か――Actionable
d 目標は現実的か――Realistic
e 目標はいつまでに達成されるか――Timed
4.事業評価をコミュニケーションのツールに
a 組織内部におけるコミュニケーションのツールとしての事業評価
b 市民とのコミュニケーション・ツールとしての事業評価
5.用語を明確に定義する
6.おわりに

 

 

 

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