タイの最新映画事情3


ジャパンファウンデーション海外長期研修員として
タイのチェラロンコーン大学大学院に在籍中の吉岡職員より、映画情報が届きました。
2007年新春の話題作を2本ご紹介します。


『ファイナル・スコア』の写真

『ファイナル・スコア』より
人気の塾講師による授業風景 © Gmm Thai Hub

『ファイナル・スコア(仮邦題)』(英題:Final Score

タイ版ドラゴン桜?!
監督のソーラヤー・ナーカスワンさんにインタビュー

(Q:吉岡職員、A:ソーラヤー監督)。

Q:『ファイナル・スコア』制作に至るまでの経緯を教えてください。


A:チラ・マリクン監督の『鉱山大学(仮邦題)』(英題:Tin Mine)(05)の第4助監督をやっているときに、高校生の日常生活を追ったドキュメンタリーを撮りたい、と思って、チラ監督に相談を持ちかけたんです。そのときはまだ、テーマを決めていなくて漠然としていたのですが、チラ監督が、そう言えば、大学受験って必死だったな。あの受験を軸にして撮ったらおもしろいのじゃないか、と逆に提案してくださり、GTH社の重役会議(チラ監督はGTH社の幹部)にかけてくださったのが最初のきっかけです。

が・・・。最初は、総スカンだったそうです。どこの誰かもわからない新人監督のうえ、ドキュメンタリーとは何事ぞ、と(笑)。でも、ラッキーなことに、ゴーサインが出ました。チラ監督が信じる新人なら大丈夫だろう、との判断です。もちろん、予算は最小限です。1年間、私を含めた5名のスタッフによる撮影に対し、約1千万バーツ(約3千5百万円)の資金を受け取りました。通常の劇映画では、考えられないほど少ない予算です。でも、それでなんとかやりくりするようにしました。

Q:ドキュメンタリー映画を撮るのに、GTH社と組むことに抵抗はありませんでしたか。


A:私のそもそもの問題意識は、ジャンルとしてのドキュメンタリーの閉鎖性にあったんです。ドキュメンタリー映画というだけで、タイの(マスの)観客は、まじめに構えてしまうし、何か情報を得るだけの、つまり感情のわかない、つまらないものだと決めつけてしまう。あるいは、ドキュメンタリー映画が存在していても、存在していないかのように振舞われてしまう。いわば、愛人とのあいだに生まれた子どもみたいなもの。お父さん、会いに来てくれないんです(笑)。
私は、まず、そんな既成概念を打ち破りたいと思っていました。だから、抵抗はありましたが、劇場公開を通じて、広くマスに届けることができるならば試してみたい、とも思っていたんです。
撮影期間中は、私の思う通りにずっと撮影させてもらえていましたが、なるほど、と勉強になったのは、ポスト・プロダクションに入ってからです。編集はGTH社のプロの編集者にやってもらったのですが、撮影したフッテージ(約300時間)のうち、非常に明るくさわやかなシーンだけが選択され、手際よく編集されている。実にうまい。でも、その分、対象となった高校生たちそれぞれの深みが消えているんです。彼らは、映画になった側面以外にも、もっとダークなキャラクターを持っていたんです。そこがあって、初めて見えてくるものがあるのに、と思うと、残念でした。それに、対象との人間関係もある。フィルムに登場する高校生やその両親、学校の先生方は、自分たちの嫌な面が出てくるのを嫌がります。そこをうまく調整しようとすると、やっぱり、さわやかな映画になってしまう。なので結局、私自身の考えるドキュメンタリー性を追求していくと、私の世界観が突出してしまい、マス向けには、ならないのかもしれません。でも、機会があれば、いずれディレクターズ・カット版を作りたいと思っています。(Q&A終)


『ファイナル・スコア』のポスター写真
『ファイナル・スコア』ポスター
© Gmm Thai Hub

『ファイナル・スコア』は、確かにライト・タッチでテンポのよい映画であった。BGMも、いたってクール。高校生たちの親との葛藤、先生へのプチ反抗、淡い恋など、随所に臨場感あふれるドラマがある。そして、受験結果発表の日、観客は、スクリーンの中の高校生や家族と一緒になってドキドキし、その結果に一喜一憂する。それはまさに、GTH社が得意とする「Feel Good」な劇映画のドラマと同じ構造であった。タイでは珍しい、「Feel Good」なドキュメンタリー映画の誕生である。

GTH社の宣伝上は、あくまで「脚本のないドラマ」としてプロモートされていたものの、人々は、それを「サーラカディ(ドキュメンタリー)」として認識した。えっ?サーラカディ(ドキュメンタリー)なの?その言葉から想起されるイメージから、受験対策のノウハウを伝授してくれる映画に違いない、と勘違いした高校生も多かったと聞く。しかし、フタを開けてみたら、なんてことはない、等身大の高校生の、おもしろおかしいスクールライフではないか。うーん、「Feel Good」。ソーラヤー監督の狙っていた、ドキュメンタリーをマスに届け、つまらないという汚名を返上するという目的は、見事に達成されたと言えるだろう。

しかし、インタビューでソーラヤー監督が答えていたように、彼女は、『ファイナル・スコア』ディレクターズ・カット版の可能性も考えている。独自の世界観を提示することで、マスは彼女に背を向けるかもしれない。しかし、その個性こそ、ドキュメンタリー映画が監督に求める才能である。ソーラヤー監督の今後の活躍に、大いに期待したいところである。

この原稿は、伏屋博雄氏・責任編集のドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン 「neoneo」の2007年3月15日号に掲載したものを改めて編集し直したものです。





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