AKI&KUNIKO with Sachio Suginuma カリブでスタンディングオベーション

 

杉沼左千雄氏、KUNIKO氏、AKI氏の演奏写真

左より尺八奏者・杉沼左千雄、KUNIKOAKI

キューバでキックオフ

東京を離れてから36時間。長旅の疲れと暑さの中、休む間もなくキューバの首都ハバナでキックオフしたAKI&KUNIKO with Sachio Suginumaのカリブ・中米ツアー。

だが、そんな疲労などないかのように、躍動感あふれる彼らの音楽は、最初のパウラ教会での公演から観衆を圧倒していった。曲のサビに入るとワーッという大歓声。誰も日本のようにかしこまって座っていない。

「こんな音楽は初めて」。そんな表情で、大きな拍手が返ってくる。3人の演奏は、盛り上がる観衆の熱い空気に乗って、奏者自身さえ経験したことのないほどエネルギッシュに。

「(歓声を聞いて)一気に気分が開放的になって、(弾いている)手が振り上がったりしてめちゃくちゃのりましたね」と、帰国後のインタビューでKUNIKOさんは振り返る。「この瞬間を待っていた……」。海外でのライブは長年の願いだった。

 

カリブツアーでスタンディングオペーションの写真

カリブツアーでスタンディングオペーション

AKI&KUNIKO with Sachio Suginuma は、この夏のカリブ・中米ツアーのために特別編成されたユニットだ。2003年にドイツで発売されたアルバム『HA』を作ったAKI&KUNIKOのデュオに、今回、尺八奏者として広く知られる杉沼左千雄さんが加わった。

Cubadisco2005(キューバの音楽見本市)への出席を皮切りに始まったツアーは、コスタリカ、ドミニカと続き、教会から大劇場まですべての会場で、スタンディングオベーションが続いた。

公演を終えた杉沼さんは、現地のミュージシャンに 「これはいったいどういう音楽なのか。どうやって弾いているのか、それを知りたい。どんな勉強すればいいのか」と尋ねられた。「何かがそこにある、と感じてくれた。それって嬉しいですよね。言葉じゃなくて、音を通じて感じたものがあったというのは」と杉沼氏。

アコースティックギター、琴、尺八という、ふだん同時に演奏されることのない楽器。これらが、絶妙のバランスで、力強くかつ美しい音色で観衆を包み込む。

楽器への思い

3歳で筝を始めたKUNIKOさんの演奏は、時に前衛的と言われるほどダイナミック。しかし筝のチューニングは、一番オーソドックスな音階を守っている。

「基本は和。それを崩すと何もできなくなってしまって(筝の)良さが消えてしまうから」。筝への思いをこう語る。今は25弦といったハープのようなタイプも多く使われているが、KUNIKOさんが使うのは13弦の筝。世の中が「(チューニングで)洋のほうによっていく」なかで、彼女がベースにする和の音階こそ、作曲家でもあるAKIさんが筝に求めていたものだった。

AKIが(自分の)やりたいことが、ものすごく明確」だから合わせやすいというKUNIKOさん。一方、「美しいものを作ろうとすると何が美しいか考えて、『作られたもの』になってしまう」というAKIさんは、できるだけ「本能」に任せ直感的に音楽を作っている。

完璧なハーモニーで演奏するふたりだが、出会いはお互いが積極的に求めたものではなかった。知人の紹介で知り合ったものの、実際に共演するまでは「面倒くさいな」と思うほど盛り上がりに欠けていた。ところがひとたび音を奏でたらーー。類を見ないデュオがここに誕生した。

AKI&KUNIKOにジョインした杉沼さんは、年少のころから尺八の教育を受け、20代で人間国宝・山口五郎師の内弟子に。4年間修行を積んだ後ニューヨークへ渡り、ジャンルを越え独自の音楽活動を行うなど、多彩な経歴の持ち主だ。かねてより新しい尺八の表現を求めて、通常の七孔でなく九孔尺八も使用するなど新しい音楽への挑戦を続けている。

独自の音楽スタイルを追求するなかで、尺八でバッハやシャンソンも試してみたが「ものすごく、ださくなる」。大切なのは、尺八という楽器の特性を活かすことで、そうでなければ何をやっているかわからなくなる。それはジャンルを超えたミュージシャンとのセッションでも同じだという。

「どんなにすごい人でも、雰囲気が合わないと無理。このふたりを聴いていて、ここには入っていけるなと前から思っていた。だから話をもらって嬉しかった」。

三者三様のオリジナリティを持つ奏者の共演。それがぴったり合う。 「多分、日本人しかできない音楽をしているのです。リズムだったり音だったり。(それを決めるのは)音に何を込めて弾くかということ。音楽ってやっぱり気持ちだから。3人とも似ている部分があるのかな」とAKIさんは語る。

コンサートはどれも思い出深いものだったが、AKIさんにとって特に印象的だったのは、コスタリカでの一幕だ。会場を埋め尽くした観衆を前にし、ステージは「和」のソロから始まった。まずKUNIKOさん。超越した技巧でキメた彼女に割れんばかりの拍手。続いて杉沼さんのソロ。再び拍手喝采。

そしていよいよAKIさんの番。「こけたらどうしよう」、「二度とやりたくない」というほどのプレッシャーの中で弾いた「Harvest Moon」。見事にきまった。そのときの歓声、会場中の一体感に心底感動したという。

ワークショップで

公演団は演奏に加え、キューバの最難関の芸術大学、Instituto Superior de Arte でワークショップも行った。デモンストレーションの後も、30名ほどのエリートの生徒が、各楽器の特性や日本固有の音階のほか、ドから作曲方法にいたるまで次々と質問する。予定時刻を大幅にオーバーして終了した。

公演団の音楽への信条は、生徒への答えからも読みとれる。クラリネットを学ぶある学生は、「悩んでいる」と杉沼さんに打ち明けた。「ぼくは『下手なのかな』と思って(演奏を)聴いたらすごくうまい。技術的には。いいフレーズも弾く。(いい演奏を)しているのだけど、オリジナリティがどうも欠けていた。小さいときから相当勉強してうまいのだけど、ジャズだけでは何か行きづまっていた」。

そんな彼に対し、うまい答えはないという杉沼氏。むしろ「自分を追求していくということだと思う。やりたいことがまずある、自分にしかできないことがある、そういうものをまず持つこと。そして、それを表現するために、何を勉強するかを考える。勉強は二次的。この順番、ものすごく大切。自分はこういう音楽をやりたいというものがないことには、いつまで練習しても「おけいこごと」になってしまう」。

杉沼さんは、12音階の西洋音楽にはない1/4音や1/3音を駆使しながらも、今でも音楽的に悩みつづける。技術の領域をこえたところでた。「尺八はでたらめがある……。だから(西洋音楽をやる人にどうすればいいか聞かれても)こたえられないんだよ」と苦笑する。その「でたらめ」のなかにぐさっとくるような杉沼さんのオリジナリティがあるーー。

「杉沼さんの尺八は声だから・・(技術的に)うまい人が弾いちゃうと、音程になってしまって『声』が聞こえてこない」とAKIさんは評する。

凱旋コンサート

17泊19日にわたるカリブ・中米ツアーを終えた公演団は、7月初めに青山(東京)で凱旋コンサートを行った。音に感情がのるとはこういうことをいうのか、と思わせるような力強いライブ。息を呑むような指さばきで弦を操る奏者たち。

Forest In Love』 から『Trust』にいたるまで、多くの日本人が「知っている」と思っているギターや日本の伝統楽器の奥深さとその音楽のバリエーションの広さが大いに生かされている。伝統的楽器といえば「春の海」や「さくらさくら」という先入観をもっている日本人には衝撃的とさえいえる内容だ。

「日本人だと、第一聞かないじゃないですか(尺八を)。『おじいさん、おばあさんがやっているのだろう』というイメージで。どんどん日本の文化も変わってきているのだが……」という杉沼氏。「私も、よくおばあちゃんがでてくると思われる」とKUNIKOさんも頷く。

観衆のなかにはAKI&KUNIKOと杉沼左千雄氏を初めて聞いた人もかなりいた。アンケートに答えた人は皆「よかった」という反応。「筝が主役のユニットなのかと思っていたが、尺八やギターもそれぞれのよさがよく出ていて、3人での共演が迫力があってとてもよかった」、「気合いが伝わってきた。考えたことのないハーモニーなので楽しんだ」、「尺八の『神秘さ』が印象的だった」という声が寄せられた。さらには、「自分も何か新しいことをやりたくなった」とパワーをもらった人もいた。

高い技術力に加えオーディエンスに「何か」を感じさせる音楽。「今度いつ来るの?」 現地の人から公演団への短い一言が、今回のツアーの成功を象徴している。

 

 

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