文化交流を支える魅力溢れる人々 −日韓の枠を超えることで共感しあう日韓交流−

 

文化交流を支えるものは何か? それは、人の魅力だと思います。これまで日韓友情年記念事業を準備する中で出会った人々についてお話してみたいと思います。

難しい状況の中での希望

この3月はかつてないほど日韓関係が悪化した時期でした。「ロード・クラブ・フェスティバル」 の開催に当たっても韓国の協賛企業が途中で協賛を取り消したりする中、警備員を増員するなど、慎重な対応が求められました。それでもこの事業の開催を中止しなかったのは、共催者であるクラブ文化協会チェ・ジョンハン代表の「私は日韓の若者の文化的水準を信じている」という言葉があったからです。
チェ代表はこの事業の開催を、実は非常に悩んで決断したということを、私は後から、それも偶然出会ったチェ代表の後輩に当たる方から聞かされました。チェ代表もこの後輩の方も、若い頃には学生運動をし、今では「まちづくり」を主とした市民運動をしている方です。文化事業は社会と決して無縁ではあり得ず、歴史の中で生き生きと活躍する人々に確かに繋がっていることを実感した出来事です。韓国の魅力、それは、まさにこのような志高い人々との出会いにあると思います。

チェ・ジョンハン代表のように、難しい状況の中で、悩みながらも交流を選ぶ方は他にもいらっしゃいます。

韓国のある公立美術館の館長をしている方ですが、著名な画家で60年代末から日本で個展を開催したこともある文化界の「知日派」です。解放前には日本で暮らしたこともあり、日本語を話せる世代です。この美術館とは昨年から共同で展覧会の準備を進めていますが 、やはり最近のこの雰囲気が問題になり、展覧会を延期するかどうかという話になりました。しかし「われわれは文化交流をするのであって政治をするわけではない。こういう時期だからこそ、慎重に、しかし必ず成功させようではないか」という館長の判断により、予定通り開催することになりました。実際に解放前の韓国を経験した世代であり、公立美術館館長という重責を担う立場を考えるとき、その判断は簡単なことではなかったはずです。

普遍的なものを通した交流のパワー

文化交流というのは面白いもので「国と国」にフォーカスを合わせた瞬間、その魅力はスルリとどこかに逃げてしまうようなところがあるようです。むしろ内容そのものにフォーカスを定めて掘り下げていくことで、却って深い交流と理解が生まれるような気がします。つまり、本当に忌憚なく話せる信頼関係を作るためには、楽しさ、面白さ、美しさ、知的な刺激、感動等々、人を元気付ける普遍的な何かをどうやって生み出すかということがポイントになってくるのだと思うのです(もちろんそれは歴史的なことをはじめ、難しい問題にも配慮する必要がありますが)。そういう意味で「日韓」という枠組みを軽やかに超えて、却って深い共感を生み出す方々の活躍は大いに参考になるところがあります。

例えば、4月に韓国にいらっしゃったグラフィック・デザイナーの福田繁雄先生などはそのような方のお一人です。福田先生は世界的に著名なグラフィック・デザイナーで、目の錯覚を利用するトリック・アートを初め、遊び心溢れる作品をたくさん制作していらっしゃいます。環境問題や平和を訴える作品なども、いずれも洗練されていて押し付けがましさなど微塵も感じさせません。ユーモアとヒューマニティに溢れたその作品はお人柄の通り粋な感じで、韓国にもファンがたくさんいらっしゃいます。

今回、展覧会と講演会を開催しましたが 、デザイナーを目指す若い学生さんからプロのデザイナーまでたくさんの方が参加しました。3時間に及ぶ講演会を福田先生はずっと立ちっぱなしで進められ、観客席は笑いが絶えませんでした。学生さんの中には「私の人生を決定づけた出会い」とまでおっしゃる人もいましたし、この講演会が契機となり、6月にはある美術大学で再び福田先生をお招きしてワークショップが開催されることが決まりました。

講演会を開催した時期の日韓関係は決して順風満帆ではありませんでしたが、事業の間、日韓関係の難しい問題について口にする人は誰もいませんでした。それは、気を使ってとか、あえてそうしたというのではなく、参加した人の関心がもっと別のところにあったからだと思います。デザインという共通項を持った人々が、心から共感し合い、さらに何か良いものを生み出そうとする熱気が感じられました。デザインに限らず、こうした何か普遍的なものを通した交流の力は強いと思います。

対話の積み重ね、交流の種を育てる

このような普遍的な交流を支える人たちは若い人の中にもいます。
この夏から、日本、韓国、シンガポールと順番で開催するある展覧会 の、各国の学芸員たちです。もう1年半ほど準備を進めてきていますが、彼らは一緒にアジアを旅してこれまで埋もれていた作品を探し出し、研究し、その成果を日々メーリング・リストで共有しています。彼らの仕事にかける真摯さと情熱と実際に出される成果は目を見張るほど素晴らしいものがあります。ここでまた「日韓」は軽やかに超えられているわけですが、しかしそのことでかえって交流の深さと広がりは増しているように思います。

しなやかで強い結びつきが網の目のごとく発展する様を見ていると、展覧会そのものも大切ですが、日々交わされる対話の過程こそが交流なのだと思います。

文化交流事業は見方によってはほんの小さな種のようなものかもしれません。けれど、その小さな種を丁寧にたくさん育てていくことで、やがては青々と茂る森にすることも不可能ではないでしょう。
韓国きっての文化人である李御寧先生は「梅の花は、寒さをしのぶ痛みを分け合うことによって始めに友になり、雪のなかで一足早く春を告げることによって兄になることを、人々に教えています。」とお書きになりました(3月22日付中央日報日本語版)。魅力ある人々の存在こそが希望であるとつくづく思います。


「ソウル・ジャパンクラブ」発行の会報誌「SJC」16号(2005年6月発行)
掲載原稿に加筆、訂正

 

 

 

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