「転換期の作法」鑑賞レポート −ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの現代美術−

 

江戸の名残が漂う下町の角を曲がると、眼前に出現するスチール製のモダンな建物、それが東京都現代美術館です。『転換期の作法』はここで開催されています。シャープな外観に似あわず、内部には木材が多用されており、暖かさを演出しています。私が訪れたときには、大きな窓から冬の日がまぶしくさしこんでいました。

入り口付近にあるのは、チェコの若手作家の作品《トークマン》。
「ウォークマン」を意識したネーミングなのでしょうか。のっぺらぼうの小さなマネキン人形が2体。1体はグレーのスーツ、もう1体は赤いトレーニングウエアを着て、ぎこちなく立っています。体を揺さぶりながら、「元気?」「世の中そんなに甘くない」と、一人はチェコ訛りの英語、もう一人はチェコ語で遠慮がちに話しかけてくるのが、なんとなくユーモラス。

中・東欧の社会主義政権解体後まもなくのこと、私はロンドンに住んでいて、英語を学びにやってきた中・東欧の若者たちと知り合いになるチャンスがありました。英国人の家に住み込みで家事の手伝いをしながら、語学学校に通っていた彼ら。ラテン系の人々が下手な英語でも大声でしゃべるのに対し、中・東欧の人たちは総じて勉強熱心で、どちらかというと控えめだったのを思い出します。ここ数年は、英国に外貨稼ぎにやってくる中・東欧の人々がどっと増え、ロンドン市内で中・東欧訛りの英語を耳にすることが増えました。西欧の大国に対抗しようと必死で頑張っている中・東欧の人々のけなげな姿が、この作品に重なります。

展示物の中でサイズ的にもっとも大きいのは、ポーランド出身の作家が自分の生家を原寸で再現したもの。彼は作品の寸法をそのまま、自分の作品タイトルとしています。
このタイトルは 《1750x760x250, 3x(55x15x24)》。合板、灰、鉄、水のインスタレーションです。壁の表面には灰が吹き付けられ、窓や扉はなく、中に入ることも、のぞき見ることもできません。ポーランドでは、灰は第2次世界大戦中の強制収容所の記憶と結びつきます。家の内と外を循環する水音だけが、展示室に静かに響きます。鑑賞者は展示室の壁に寄りかかり、目の前の灰の壁を眺めるわけです。収容所の壁、嘆きの壁、鉄のカーテン、東西の壁・・・いろいろなことが想起されます。

JFサポーターズクラブのトップページ左上にある素描は、ハンガリーの作家二人による共同制作で、紙芝居のようにお話が展開するストーリーボードCareerの一枚です。国際展に招かれたものの諸経費が出ず、苦肉の策として、『手作業で製作でき、かばんひとつで持ち運べる』この形態を思いついたそうです。表現手段に制約があっても、何とかして自分たちの声を伝えようとするアーティストの真摯な気持ちが感じとれます。

展覧会の最後を飾るのは、チェコ出身の写真家の2枚組作品。タイトルは《花》です。大小さまざまな手のひらが、花びらのように重ねあわされています。その手のぬくもりが伝わってきそうな作品に、元気をもらって会場を後にしました。

★ここでご紹介できなかった作品にも、思わず『うそでしょう』とつぶやいてしまうもの、どうしてもよくわからないものなど、芸術的センスと知的好奇心を刺激する作品がたくさんあります。東京都現代美術館のウエブサイトには、作家ごとに作品を紹介するページがありますので、美術館まで足をお運びになれない方はこちらをご覧ください。
http://www.mot-art-museum.jp/kikaku/page2/

★しかし美術鑑賞の楽しさは、なんといってもその空間を共有することです。ぜひ美術館まで足をお運びください。映像作品も多数あり、関連イベントも企画されています。
詳しくはこちら
http://www.mot-art-museum.jp/kikaku/4/

 

 

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