中東の伝説的寓話『カリラ・ワ・ディムナ』から 現代のバグダッドが見えてくる!

 

『カリラ・ワ・ディムナ』舞台の写真

東京国際芸術祭2006
スレイマン・アルバッサーム・シアター
『カリラ・ワ・ディムナ・王子たちの鏡』

『カリラ・ワ・ディムナ』とは

『カリラ・ワ・ディムナ』は、アラブ・イスラム世界の人々にとって馴染み深い物語です。『カリラ』と『ディムナ』という2匹のジャッカルをはじめ、いろいろな動物が登場する動物説話の形式をとっています。これはインドの『パンチャタントラ』を起源とし、ペルシャを経由して、アラブ世界に伝えられました。『パンチャタントラ』は本来、王の息子たちに対して、為政者として立派に生きる道を説いたもので、この書物は長年、叡智の詰まった宝物として受け継がれてきました。8世紀にアラブ・イスラム世界に伝えられ進化していくこの物語は、きわめて政治的な意味を帯び、軍隊の目的、正義とは何か、裁判のあり方は、といった統治論を、支配者に進言する役割を担っていました。登場人物を動物にしたのは、人間にすると実在の人物を言及しているようで、差しさわりがあるからです。当時の作家は非常に地位が高く、政治アドバイザーとしての役割も担っていました。

バグダッドとバスラ

今回の劇の舞台はAD750年ごろのバグダッドとバスラ。この頃アッバース朝がウマイア朝を打倒してイスラム世界の覇権を握り、首都バグダッドに巨大な円形都市が出現していました。人口150万人。ヨーロッパと西アジアで最大の都市であったそうです。一方バスラは、イスラム世界の文学、科学、学問の中心として栄えていました。残念なことにどちらの都市も、今では爆撃やテロのニュースで私たちに聞き覚えのある都市となっています。この劇では、アッバース朝の宮廷で重んじられ、二つの都市で活躍した、イブヌ・ル・ムサッカイという実在のペルシャ人作家が主人公です。彼がペルシャから伝わった物語をアラビア語に翻訳・翻案し、『カリラ・ワ・ディムナ』を誕生させました。

スレイマンの創りだす舞台

劇作家兼演出家のスレイマン・アルバッサームは、クウェート人を父に英国人を母にクウェートで生まれ、英国で教育を受けました。アラブと西洋という二つのアイデンティティを持ち、『カリラ・ワ・ディムナ・王子たちの鏡』では、中東に伝わる寓話を通じて、現代の世界を透視しようという、意欲的な試みを行っています。
舞台に置かれた透明パネル、現代のバグダッドの映像を映し出すスクリーンなどを効果的に使いながら、アッバース朝の政争劇が繰り広げられます。その中で、ペンの力を持って政治改革を志す作家、ムサッカイの悲劇が進行していきます。舞台左手にはアラブの楽器をかなでるミュージシャンが陣取り、時に哀調を帯び、時に緊張を高める音楽で劇を盛り上げます。舞台右手には劇作家のスレイマン自身が座り、何かを書きつづけています。1200年以上前の劇世界と現代をつなげるように。
中東と日本に大きな歴史的、心理的距離があるように、この劇を一度見ただけで、すべてを理解するのは至難の業です。まずこの寓話が馴染みのないものですし、登場人物の名前がアルマンスールだの、アブー・アイユーブだのアブー・ムスリムだの、一度聞いただけでは覚えられない。(そのためかこの劇には、格安のリーピーター向け割引チケットが販売されています)しかし演劇としてのクオリティーは非常に高く、その影響力も多大なものがあります。今回の作品は東京での世界初公演のあと、アラブ諸国(クウェート、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタール、レバノン)をツアー、その後演劇の本場ロンドンに乗り込み、バービカン・センターでの連続16公演が予定されています。

スレイマンとジャパンファウンデーション

劇作家兼演出家のスレイマンは、2004年2月に東京国際芸術祭との国際共同制作(ジャパンファウンデーションが共催)により、アラブ人の俳優によるアラビア語バージョン『アル・ハムレット・サミット』を上演。この作品は英国、韓国、シンガポールにも招聘され、彼は一躍世界の演劇界で注目を集める存在となりました。アラブとイスラムの歴史や文化を、演劇を通じて発信していこうとするスレイマン。ジャパンファウンデーションが彼を応援し、異文化間のダイアローグを生み出しています。

スレイマンのメッセージ

『この芝居を通して私が伝えようとした今日的問題はいくつもあるが、私が依拠する地域(アラブ世界)において意義をもつだけでなく、地域性を越えるものとなることを願っている。』

 

 

 

ページトップへ戻る