イムダドゥル・ホク・ミロン氏 講演会レポート 開高健記念アジア作家講演会シリーズ 第15回 〜バングラデシュ人の誇りと苦悩〜

 

講演会の写真1

『宗教よりも人間が偉大でありますよう、人間こそが価値あるものでありますよう』


イムダドゥル・ホク・ミロン氏は、静かに語り始めました。

『私はバングラデシュという名前の国からやってきました。自らの言葉を守るために血を流し、命までも差し出した国からやってきました。・・・1971年に独立国家になりました。その独立戦争では約300万人が犠牲になり、約30万人の女性が暴行を受けました。私がやってきた国バングラデシュの大半の人々は確かに経済的に貧しいですが、しかしその同じ人々の心には情熱があり、愛情深く、人をもてなす気持ちの上では彼らと比べられるのは彼らしかいないと自負しております。』

ミロン氏はご自身の作品紹介を通じて、このような国で生きている人々の苦悩を話されました。豊かな日本に住む私たちには、想像もできないような苦しみを経験する登場人物たちが、この国に生きる人々の姿と重なっているということ。それゆえに彼の作品が、バングラデシュの多くの人に読まれ、民衆作家として支持されていることが、よく理解できました。

話が進むにつれ、ホク・ミロン氏の言葉に熱がこもってきます。

 

講演会の写真2

バングラデシュの独立は、人々にとって幸せへのゴールではありませんでした。依然として生活の現状は厳しく、狂信的なイスラム原理主義者による社会的弱者への抑圧など、内なる敵との戦いが続いています。

『私はヌールジャハン(彼の作品の女主人公)を介して、バングラデシュの抑圧されている女性達の肖像を取り上げました。そしてこうしたファトワ(宣言、この場合は罰にあたる)を出す狂信的な原理主義者や宗教指導者などの仮面を剥がそうと試みました・・・宗教に名を借りた暴虐が人の人生を破壊しています。力を持っているゆえに罰せられない人がいる一方で、生きるためには逃げるしかないヌールジャハンのような女性も数多くいます・・・世界中の心ある人が、こうしたことに思いをはせ、彼女たちを守ってくださることを切に願っています。人間性に勝利を、人間に勝利を。宗教よりも人間が偉大でありますよう、人間こそが価値あるものでありますよう。』

彼は、宗教の名のもとに行われる不正を厳しく批判していますが、それは決して、イスラム教徒である彼自身の信仰の揺らぎを示すものではありません。

ミロン氏は次の言葉で講演を締めくくりました。

『皆様に神のご加護を。皆様が健康で幸福でありますよう。そして不当に虐げられた人間の側に立ってくださいますよう。人間の勝利の歌を歌いましょう、人生の勝利の歌を歌いましょう。』

講演後ミロン氏は、会場からの質問に答えました。

「小説を通じて指導者の問題をとりあげることにより、迫害を受けることはないのですか?」という問いに対し彼は厳かに答えました。

「私には怖いものはありません。作家は国の良心です。作家は正直でなくてはなりません。私の命は神から預かったものです。神がお取りになるというのなら、私には何も異存はありません。」

また「バングラデシュの現状についてお話を伺い、非常にショックを受けました。私達に何かできることはないでしょうか。」という問いに対しては、次のように訴えました。

「とにかく、声をあげていただきたいと思います。できるだけ多くの人に現状を知らせることが必要です。それが狂信的な原理主義者に対する圧力となります。メディアに関わる方々には、それを広く伝えていただきたいと思います。」

夜7時からはじまった講演会は、10時近くまで続きました。バングラデシュ出身の方の参加も多く、みなさん熱心に耳を傾けておられました。小さなお子さんたちも、お行儀よく話を聞いていたのが印象的で、ミロンさんのお人柄がしのばれました。

 

 

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