ジャパンファウンデーション職員が執筆した本の紹介

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『テロと救済の原理主義』

小川 忠 著

新潮選書 1,155円(定価)
2007年6月22日発売
ISBN: 978-4-10-603586-9

「ハンティントンの罠」という言葉があります。
米国の国際政治学者サミュエル・ハンティントンは1990年代初頭、国際社会で大きな話題となった「文明の衝突」論を発表し、冷戦後の世界においてはイデオロギーではなく、文化、文明の違いによって紛争が発生すると説きました。彼は世界を八つの文明に分け、紛争の主な源となり国際社会の不安定要因となるのは中国の台頭とイスラームの復興であると予測したのです。

「ハンティントンの罠」とは、「文明の衝突」論に賛成するにせよ、反対するにせよ、これを意識すればするほど、ハンティントンが描いた構図で世界を解釈する傾向が強まり、結果として「文明の衝突」的に見える対立が激化するというものです。現実から理論が生まれるのではなく、理論が現実を作りだすということになりましょう。

私は文化交流を通じた国際相互理解事業に携わってきた経験から、国際文化交流事業は「ハンティントンの罠」に陥る危険性を常にはらんでいると考えます。文化、文明を固定的なものと捉え、同一文化、文明内の多様性に対する視点を欠いた事業は、「国際相互理解」といいながら、相手に対する先入観、ステレオタイプを強化し、むしろ誤解を増幅させることさえあるのです。

「文明間の対話」と称しつつ、単に自分の意見を相手に押しつけるだけで相手の話に耳を傾けない一方的な「交流」や、両者のあいだに存在する問題を議論することを避け美辞麗句を並べるだけの表面的な「友好親善」を繰り返すのみでは、真の国際相互理解は達成されないでしょう。「ハンティントンの罠」から逃れて、互いを尊重し、尊敬しあう世界をどうやって構築していくのか、「9・11」後の国際文化交流の真価が問われています。

本書は、異なる価値や信念を抱く者が現代世界においていかに相互理解を進めていくべきなのかを念頭におきつつ、宗教がもつ多面性について国際文化交流の実務の現場で考えてきたことをまとめたものです。JFSC会員の皆様のご高評を賜れれば幸いです。

(小川忠)

戦車の写真

『テロと救済の原理主義』
内容紹介
宗教はなぜ人を殺すのか? 愛と憎しみの悪循環に陥った、宗教対立の根源に迫る!

イスラームの「原理主義」と「リベラル」、対極の勢力が奉じるのは同じコーラン。また戦前日本の日蓮主義からは、テロによる暴力と救世の意識が同時発生した。
なぜひとつの教義から「テロと救済」が生まれるのか?
宗教は、原理的に「二重人格」なのか?
イスラームから日本まで、原理主義を検証し、宗教問題の本質に迫る力作評論。

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