新刊『アート戦略都市―EU・日本のクリエイティブシティ』を超えて -2- その2 『アート戦略都市』ライブ対談

吉本さんの報告

コンサートホール「セージ・ゲーツヘッド」の写真
コンサートホール「セージ・ゲーツヘッド」
撮影:吉本光宏

さて、当日のライブイベントだ。吉本さんは、アートや文化の力で都市が変革され再生されるEUの事例を、美しい写真の数々を示しながら報告する。本を読んだだけでは臨場感がなかなか湧きにくいのだが、こうしてライブ報告してもらうと、改めて「なるほど」と思うことがまだまだたくさんあるのに気付く。本書にもさまざまな都市の事例が紹介されているが、都市により取り組み方もそれぞれ異なるように、「クリエイティブシティ」という概念を一元的に語ることは難しい。「クリエイティブシティ」とは、地域が有する人、歴史、記憶、文化などから、それぞれに目に見えない価値を探し当て、再構築し、新しい付加価値を創造していくことに他ならない。無から生み出していくことも必要だが、地域の文化的特性や歴史の中から、新しい価値を創造することも可能だ。それは、アーティストやデザイナー、建築家、あるいは起業家などの創造活動と重なる。文化や芸術を創出することは、常に新しい価値観への挑戦であり、生み出すことであり、これこそが「クリエイティブシティ」の本質だと思う。

吉本氏、新谷氏、椿氏の写真
左より、吉本氏、新谷氏、椿氏

アイルランドやドイツの事例報告とともに、ニューカッスル・ゲーツヘッドで開催された国際会議、”第3回World Summit on Arts & Culture ”について簡略な報告があった。この会議は隔年ごとに開催されているが、毎回世界中のアーツ・カウンシル関係者が集まる。今回は、77カ国から500名が参加したという。開催地のニューカッスル・ゲーツヘッドは、本書の中でも事例として取り上げられている。80年代には失業率が25%にものぼっていたが、地域のアーツ・カウンシルと地域開発公社がイニシャティブをとってアートのインフラを整備することにより、街が甦りつつある。この実績から、今回の会議開催地に指名された。さらにはニューズウィーク誌で、世界で最もクリエイティブな街にランクされているという。次回の会議は、南アフリカで開催されることが決まっている。変革を経た新しい国づくりに、アートは大切な役割を果たしているのである。

椿さんの報告

五所川原市の立佞武多の写真
五所川原市の立佞武多

椿昇さんは青森でのリサーチから戻ってきたばかりで、「クリエイティブシティ」の本質を、青森の「ねぶた」に見たと語る。日本伝統文化の極みの一つとも言える「ねぶた」だが、近年その人気が復活し、ねぶた師をめざす若者も増えてきているという。たとえば、五所川原市に伝わる立佞武多は、1996年、一人のねぶた師の熱意によって復元された。これは高さ22mにものぼる、巨大なものである。この立佞武多を市内で引き回すとなると、当然のことながら、電信柱と電線が障害となる。日本の景観美を語る上で課題となっている電信柱や電線であるが、五所川原市では立佞武多を応援する市民の熱意に後押しされて、歩道橋をなくし、電信柱と電線を地下に埋める作業をすすめているという。一人の立佞武多師の頑張りから、地域全体の意識が変革しつつあるという現象が起きている。五所川原の例をみるまでもなく、日本人のDNAにはクリエイティブな力が受け継がれてきているはず。ゆえに日本人は、日本らしいやり方で、日本の社会や地域をクリエイティブに生まれ変わらせる潜在力を持っている。椿さんはそう断言した。

日本の「クリエイティブシティ」のこれから

それでは、日本のクリエイティブシティの行方はというと、平成の市町村合併が大きく影響していると椿、吉本、新谷の3氏は口をそろえる。「おらが町」という地域のアイデンティティと誇りは、ある程度、地域や街の大きさに左右される。従って、市町村合併によって地域のアイデンティティが失われることもある。地域のサイズは人と人とのつながりを左右し、その中で文化は、ますます無視できない存在となっている。例えば、地域それぞれの「祭り」は地域の共同作業であり、地域文化の表現であり、地域に住む人々が盛り上げ、参加する。この「祭り」をいかにリ・デザインしていくか、「美しい」ものに作り上げるか、ここに日本のクリエイティブシティの行方がかかっている。3人はそれぞれの経験から、その例をあげた。新谷さんは東京・神田の祭りや、大手町で企画した盆踊りの例を報告。人々が共通の価値観で結ばれる祭りこそ、クリエイティブシティのエッセンスであるという見解で、3氏は一致した。

出演者プロフィール

吉本光宏さん((株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室長)
東京オペラシティや世田谷パブリックシアターなどの文化施設開発、東京国際フォーラムのアートワークコンサルタントのほか、文化政策、クリエイティブシティ、アートNPOなどを幅広く調査研究。現在、文化庁文化審議会政策部会委員、東京芸術大学大学院非常勤講師を務める。

椿昇さん(現代美術家、京都造形芸術大学空間演出デザイン学科教授)
1993年ヴェネチア・ビエンナーレのアペルト部門に出展。2001年横浜トリエンナーレでは情報哲学者の室井尚と組んで「飛蝗」を発表。2003年「ひととロボット展―夢から現実へ」に出展。2005年パレスチナ「アルカサバシアター」舞台芸術担当。

新谷大輔さん((株)三井物産戦略研究所研究員、三井物産(株)CSR推進部マネージャー
NPOや企業、市民と社会のつながりを研究。最近は「ソーシャル・デザイン」をコンセプトに、ソーシャル・キャピタル、社会的起業の研究を通し、人と人とのつながりのある社会のデザインに取り組む。また、市民が社会とのつながりを発見するためのワークショップを実践、研究。論文に「産業支援型NPOの現状と課題」(『国民生活金融公庫調査時報』2003年8月)、「CSR戦略とソーシャル・キャピタル」(2004)など、多数。




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