ロトフィ・ブシュナーク日本公演を終えて 「アラブの伝統音楽でこんなに盛り上がるとは思わなかった」

公演の写真1
写真撮影:高木厚子

「地中海アラブ音楽シリーズ」は、アラブ諸国と地中海沿岸につづく周辺地域の音楽の多様な姿を日本でご紹介するために、2004年から始めたものです。2006年3月、シリーズ第2弾企画としてチュニジアの歌手ロトフィ・ブシュナーク氏の日本公演を実施しました。

チュニスの旧市街メディナ地区の周辺各地で、毎年ラマダン(断食月)の時期に“メディナ音楽祭”が催され、チュニジアの伝統音楽を中心にアラブの様々な音楽のコンサートが繰り広げられます。全てのコンサートは日没後、皆が夕食を済ませてから始まり、夜遅くまで続きます。アラブの国への訪問は公私ともに初めてだった私としては、断食中の街中で食事をする場所を探すことも難しく、おろおろとコンサートに出かけて行ったわけですが、公演会場の華やかな熱気にまず驚かされました。日中の比較的静かな沈んだ様子とは対照的に、夜になると人々は解放感にあふれ、ボルドー色のランプが灯った街に繰り出してくるのでした。

そのコンサートの内容は実に素晴らしいものでした。もともとチュニジアに向かう前にもロトフィの音楽をCDでは聴いていたのですが、正直、ライブ演奏はCDとは全く別もののように聞こえました。ロトフィはアラブの歌手に必須とされる、天性ののびやかな美しい声を持っていますが、観客を大事にするステージ・パフォーマンスのうまさとあいまって、観客は彼の歌声にのまれるように魅了されていくのでした。その引力はやはりライブならではのもので、チュニスの聴衆と一緒にロトフィの音楽に引きこまれながら、「劇場のこの熱さをそのまま日本に持って帰りたい」と思いました。

公演の写真2
ロトフィ・ブシュナーク氏
写真撮影:高木厚子

出演交渉を経てロトフィ・ブシュナーク氏の来日が無事に決まり、日本での公演準備が始まったわけですが、日本に戻ってみると、あまり馴染みのないあの複雑な旋律とリズムが果たして日本の聴衆に受け入れられるのか、あの熱狂はアラブの聴衆だからこそのものではなかったのか、そもそも、アラブ諸国で知らぬ者はないといっても日本での知名度はゼロに近いロトフィ・ブシュナーク氏の公演に足を運んでくれる人がどれだけいるのだろう――心配は尽きませんでした。

しかしいざ蓋を開けてみると日本での全てのコンサートが満席でした。コンサート中は各曲の間はもちろん、曲の途中に拍手が沸きおこることもしばしばあり、ロトフィが日本の曲をアラビア語で歌い、観客がそれにあわせて自然に日本語で歌いだすといった場面もある等、会場の一体感の大変強いコンサートとなりました。外国から日本にやってくるアーティストが日本での公演の感想として、日本の聴衆のおとなしさを指摘することがよくあるように思いますが、今回はそうしたコメントは出る余地もなかったと言えるでしょう。

各会場で行ったアンケートでは、全ての公演で9割以上の方が「大変よい」「よい」と回答してくださいました。多くの賛辞をいただいた中で、「アラブの伝統音楽でこんなに盛り上がるとは思わなかった」というひとつのコメントを読んだとき、ロトフィ・ブシュナークは、やはり普遍的に人の心を揺さぶる大歌手なのだ、と改めて思いました。そして、1000年以上も前にイベリア半島で育まれ、やがて北アフリカに根付いた彼らの音楽は、日本の私たちに「懐かしさ」さえ感じさせるほど、実は身近になり得るものだったという発見がありました。

また、何人ものお客様から「曲の意味が分からなくて残念だった」というコメントもいただき、こちらの準備の至らなさをお詫びしたいと思います。ロトフィのオリジナル曲には様々なかたちの愛を歌うものや、子供時代を切なく回想するものなどがあり、バリエーションに富んでいるのですが、普段、曲目のリストや解説を準備することがあまりないおおらかな彼らから、事前に演奏曲目の詳細を聞き出すことは、なかなか難しいことでした。

コンサートの中で、ロトフィ氏は日本の唄『ふるさと』を「ヤーバーニー、テューニズィ・・・」とアラビア語で歌いました。その歌詞の一部を最後にこの場を借りてご紹介したいと思います。今回の来日中、演奏メンバーと舞台スタッフたちがわいわい食事をしていたときに、プロデューサーで詩人のアダム・ガスミ氏が教えてくれたものですが、きちんと訳されたものではなく、私の聞き書きです。てっきり日本語歌詞のアラビア語訳を歌っているのかと思いきや、彼らは次のような温かい詞をわざわざ準備して日本にやってきてくれたのです。

「日本人もチュニジア人も同じく心をもった人間である。二つの国は遠く離れているけれど、日本人が日本を愛し、チュニジア人がチュニジアを愛するように、故郷を思う気持ちというのはひとつである。日本もチュニジアも、私たちのふるさとなのである。」

■公演概要 イベントは終了しました

【東京公演】
日時:2006年3月18日(土)18:00
2006年3月19日(日)14:00
場所:丸ビルホール
入場者数:18日(土)/292名、19日(日)/267名
【岐阜公演】
日時:2006年3月22日(水)18:30
場所:岐阜県県民ふれあい会館サラマンカホール
入場者数:約650名
【京都公演】
日時:2006年3月23日(木)18:30
場所:京都市北文化会館
入場者数:353名
【大阪公演】
日時:2006年3月26日(日)15:00
場所:ラブリーホール(河内長野市立文化会館)
入場者数:350名

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