ヴォーカリスト鈴木重子 −1− The Shigeko Suzuki Concert より

 

鈴木重子さんは、2003年2月、ジャパンファウンデーションから派遣され、フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタとマカッサルで The Shigeko Suzuki Concert をおこなった。

 

ジャカルタ公演の鈴木重子氏の写真

ジャカルタ公演の鈴木重子さん

重子さんがフィリピン、インドネシアを訪れた2003年2月はイラク戦争前夜。インドネシアの首都ジャカルタでは、毎日のように開戦反対デモが繰り返されていた。

「あちらにいって、日本ではわからない世界の状況というものが、実感として迫ってきました。世界の平和は壊れたりするものなんだ、そういうことをカラダで感じました。」
と重子さんは語る。

国連決議1441と武器査察団の報告で国連が大揺れし、国際政治の緊張が高まっていた時期だけに、重子さんはフィリピン、インドネシア訪問を前に、自分にこう問いかけた。

「政治家や学者でなく、音楽家であるからこそ伝えられることはいったい何だろう。違う国に生まれ、違う場所で育ち、違う言葉を話している人たちに、五感を通して理解してもらうにはどうしたらよいだろう。」

 

フィリピン公演のプログラムの写真

フィリピン公演のプログラム

この問いかけは、コンサートのプログラムに反映された。
日本の童謡と、現地の人々が楽しく歌える歌の両方を組み込んだのである。
重子さんはそれぞれの曲について自分の言葉で紹介文を書き、プログラムに載せた。さらに当日は、自身が英語でトークをおこなった。

春がきた:
春、夏、秋、冬と四季の移り変わりのある日本で、あたたかな春がくる喜びを歌った曲です。(プログラムより)


「自分がどこで生まれたとか、これは母の膝で聞いた子守唄だとか、日本の四季は本当に美しいのだとか、そんなことをおしゃべりしながら歌いました。自分の言葉で伝えることで、相手の国の人たちに日本を実感として伝えられればいいなと思いました。」


大きな古時計:
私が子どものころ、お母さんが夜まくらもとでうたってくれたうたです。この歌を歌うお母さんのやさしい声を思い出します。(プログラムより)


Tears in Heaven
エリック・クラプトンが、おさない息子を事故で失った悲しみを描いた曲です。こんなに大きな悲しみを、こんなに美しいうたにした彼に感謝せずにはいられません。(プログラムより)



「家族を大切にする心、自然や風土を大切にする心は、世界共通だと思います。小さい頃の思い出を話すことによって、『違う国の人でも同じなんだ』と思ってもらえたらうれしい。」


On the Shore
この曲は、インドネシアで作曲しました。バリ島の浜辺に落ちる夕日を、大好きな人と見る、といううたです。(プログラムより)


On the Shoreは、重子さんがインドネシアで作曲したもの。バリ島が大好きで、3年前に2カ月くらい滞在したことがあるという。そのときに生まれた作品である。


「東南アジアは開発がどんどん進行している地域です。日本はある意味で自然を開発し尽くしてしまったけれど、東南アジアにはまだ自然がいっぱい残っています。歌を通じて、今ある自然がどんなに貴重か、無駄に自然を壊してしまうことがどんなに恐ろしいことかを伝えたいと思いました。」

The Colors of the Wind
“もし風の色で絵が描けなかったら、地球上のすべての土地を手に入れたとしてもそれはただの土くれにすぎない”
ネイティブアメリカンの少女がうたう、力強い自然への賛歌です。あなたは風の色で絵が描けますか?(プログラムより)

 

鈴木重子氏の写真

「歌のバックグランドや自分の個人的な体験を話すことによって、曲を聴いているときのお客さんの受け取り方が違ってくるんです。音楽が流れている時間のクオリティーが変わるというのでしょうか。客席の温度のようなものが、ステージに伝わってくるんです。これは小さい会場に限りません。たとえ相手が1,000人でも、ちゃんと空気で伝わってくるんです。それを感じたとき、私はとても幸福な気分になります。」

客席も一緒に歌える曲目として、インドネシアではブンガワンソロ、フィリピンではアメージンググレースを用意した。

「ブンガワン ソロ・・・と歌い出したら、会場からゴーッと大合唱がおこったんです。想像以上の大きさで、びっくりしました。」

インドネシアの人々は歌うことが大好きである。日本からトップアーティストが来るなんてことはめったにない。みんなとても喜んでくれたのである。

海外公演では、日本とは違う客席の反応がある。
特にフィリピンでは英語が公用語ということもあり、英語の歌やトークがストレートに伝わっているのがよくわかる。日本では会場がシーンと静まり返る。これはこれで、歌っている人に敬意を表してくれているのであるが、マニラでは会場の熱さが日本とはまったく違ったという。

マニラでの公演は、フィリピンにおけるジャパンフェスティバルのオープニングイベントとして開催された。

コンサートはフィリピンでもインドネシアでも大好評で、メディアも取材にやってきた。地元新聞は第一面で、コンサートを取り上げてくれた。

 

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 -2- 海外公演にはハプニングがつきもの
 -3- 人と人の間に橋をかける
 -4- 鈴木重子プロフィール

 

 

 

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