ヴォーカリスト鈴木重子 −2− The Shigeko Suzuki Concert より −海外公演にはハプニングがつきもの−

 

鈴木重子さんは、2003年2月、ジャパンファウンデーションから派遣され、フィリピンのマニラ、インドネシアのジャカルタとマカッサルで The Shigeko Suzuki Concert をおこなった。

 

ジャカルタ公演の鈴木重子氏の写真

ジャカルタ公演の鈴木重子さん

インドネシアではイスラム教徒が多いので、お祈りの時間になるとコンサートの途中で席を立つ人がいる。お祈りが終わるとまた席に戻ってくる。コンサートというより、お祭に参加している、という感じ。

インドネシアの首都ジャカルタでは、ギリシャ式円柱を正面に配した白亜のジャカルタ芸術劇場が会場であった。これはオランダ植民地時代からの古い建物で、客席数300ほどのヨーロッパ風劇場である。天井にはシャンデリア、金色の円柱、浮き彫りの配された豪華な内装から、往時の栄華がしのばれる。ここにはオペラ座の怪人ならぬ幽霊が出るという。

オープニングの曲、ジョン・レノンのイマジンが終わり、最後の一音がフッと消えて会場に静寂が広がったそのとき、突然どこからともなくガサガサという音が聞こえてきた。それは次第に大きくなり、近づいてくる。
重子さんの脳裏を一瞬、前年にモスクワでおこった劇場占拠事件がよぎった。
そして・・・。

目の前に現れたのは、空の紙袋に頭を突っ込んだ一匹のネコ。
前が見えなくなって驚いたネコが、人気のない場所を探して舞台中央に出てきてしまったらしい。その音をマイクが拾っていたのだ。ネコはマイクの配線に足をからめ、ギャ-ッと悲鳴をあげて、あっという間に客席のほうへと姿を消した。一瞬の出来事。

「ネコでしたね。どこから来たんでしょうね。」
という重子さんの落ち着いたフォローに、劇場の緊張はスッとなごみ、笑い声がもれた。コンサートは何事もなかったように進んだ。

 

ジャカルタ芸術劇場リハーサル風景の写真

ジャカルタ芸術劇場の内部(リハーサル風景)

実は当日、館内の警備は厳重を極めていた。重子さんにはジャズのバックグランドがある。ジャズといえばアメリカが本場。イスラム諸国が米国への批判を強めていた時期だけに、イスラム過激派のテロを警戒してピリピリした雰囲気が漂っていたのだ。

「あの時期に、あの場所でコンサートを開かせていただいたことは、私にとって、とても意味のあることでした。世の中が平和で争いのないことがどれほど貴重なことか、それをつくり出している人の努力がどれほど尊くて大きいものか、自分にとってよくわかったからです。」
と重子さんは言う。

「平和というのは一朝一夕にできたものではなく、みんながいつも心がけているからこそ存在する、すごく貴重で柔らかいものだと思います。ほうっておけば、なくなってしまう。だからこそ、いつもそれを心がけて、創っていかなくてはならないのだと実感しました。」

Imagine
世界中の人びとが、心の底に持っている“平和への願い”をうたった曲です。(プログラムより)


Fragile
戦争のかなしみをうたった、悲しい、けれども美しい曲。人はどうしたら争わずに生きていけるのか、私はいつも考えています。(プログラムより)

 

鈴木重子氏の写真

海外コンサートでは、気候の違う土地ならではの苦労もある。

マカッサルのあるインドネシアのスラウェシ島には、アコースティックピアノが全島で2台しかない。そのうちの1台をやっと調達してみたが、熱帯の湿気のせいで、とてもコンサートにたえるような状態ではない。急遽電気ピアノを使用することにしたが、こちらも供給される電気が不安定で、ひやりとさせられた。この島の電圧にはムラがあって、ホールの照明も勝手に暗くなったり明るくなったりする。それはそれで、予想外の照明効果といえるのだけど。

こんなふうにいろいろな苦労はあるけれど、相手に自分の歌を聞いてもらえた、メッセージが伝わっている、相手の心が動いていると感じたとき、重子さんは大きな幸せを感じるという。

これからも歌やトークを生かして、いろいろな国の人と日本を結ぶ役割を果たしていけたらと願っている。

Black Bird:父も私もビートルズの大ファンです。このすてきなうたは、ビートルズの中でも私のいちばんのお気に入りです。小さな黒い鳥が、傷ついていたつばさをひろげてふたたび飛びたつ、といううたです。私も人生の一瞬一瞬を、こんなふうに生き生きと歩めたらと願っています。(プログラムより)

The Rose:愛を花にたとえて、人生の大きな流れをうたった、静かな曲。はじめて聴いたとき、涙をとめることができませんでした。(プログラムより)

 

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 -3- 人と人の間に橋をかける
 -4- 鈴木重子プロフィール

 

 

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