ケニアの政治風刺漫画家 日本を訪問

ケニアの政治風刺漫画家 日本を訪問の画像

プロダクションI.Gを訪問の写真

プロダクションI.G(東京都国分寺市)を訪問
写真:三ッ石達也

ケニアの政治風刺漫画家 日本を訪問

ジャパンファウンデーションは、海外の文化のさまざまな分野で活躍している方を日本に招へいし、日本の文化と社会を体験してもらうとともに関係者との意見交換を行なうプログラムを実施しています。
このプログラムの一環として、今回ケニアから、ゴドフリー・ムワムペムブワ(通称「ガド」)さんを日本に招きました。ガドさんは、中央・東アフリカを代表する政治風刺漫画家です。新聞上の一コマ漫画を通じ、痛烈な政治・社会批評を繰り広げています。

彼の一コマ漫画は、ケニアで発行されている英字新聞Daily NationSunday Nationに定期的に掲載されています。Nation紙の発行部数は20万部ですが、この国では一つの新聞を何人もで回し読みするため、実際の読者数は300万、あるいは400万といわれています。

彼の風刺漫画の影響はケニアにとどまりません。南アフリカのBusiness DaySunday Tribune、英国のNew African、フランスのCourier Internationalにも、定期的に掲載されています。さらに、Le Monde(フランス)、The Washington Times(米国)、De Standaard(ベルギー)、The Japan Times(日本)など、各国の有力紙にとりあげられています。
漫画の題材は、ケニアの内政・外交から、アフリカ全体の政治問題、国際政治、グローバリゼーション、エイズ、男女の性差、テロ、宗教、貧困問題と実に多彩です。

ガドさんは小さい頃から漫画が大好きで、10代の頃から本格的に描き始めたそうです。アニメーションにも興味を持ち、イタリアおよびカナダのアニメーション制作学校で学んだ経験もあります。そのガドさんが日本について、「こんなに文化の中に漫画が浸透している国はほかにありません。」と驚嘆していました。

2週間の短い日程の中、ガドさんは日本各地を精力的に訪ねました。日本の社会、伝統や文化を知ると同時に、マンガ、アニメ関係者とも会い、ネットワーク形成に励まれたようです。

ミニ・レクチャーの写真1

ミニ・レクチャー「アフリカの民主化における漫画―報道の自由と風刺漫画―」

ガドさんの日本滞在を締めくくるミニ・レクチャーが、2007年7月13日にジャパンファウンデーションの東京本部で開催されました。

ガドさんはタンザニア出身で、タンザニアの新聞に風刺漫画を発表していましたが、1992年からケニアに拠点を移し、ケニア最大のメディアグループである「ネーション・メディア・グループ」に所属、Nation紙で風刺画を描くようになります。これはちょうど、アフリカで報道の自由が認められるようになるすばらしい時期と重なっています。

これ以前のケニアは、1978年に大統領に就任したモイ氏の長期政権が続いていました。ケニア・アフリカ国民同盟によって一党制が法制化されていたため、報道にも制限がありました。しかし1991年に複数政党制が導入されると、自由に意見を表現できる雰囲気が生まれたそうです。政権交代には至らなかったものの、ガドさんのような風刺漫画家の活躍を支持するような社会政治状況が整っていきます。2002年には野党への政権交代が実現。キバキ大統領が誕生して、現在に至っています。

ガドさんの風刺画には、このキバキ大統領を扱ったものがたくさんあり、中には大統領夫人を風刺したものもあります。

ケニアの多くの人々は政治漫画家を、報道の自由の先駆者的存在、人種、宗教、政治問題のタブーへの挑戦者と見ているようです。

ミニ・レクチャーの写真2

「宗教対立を扱った私の風刺画が新聞に掲載されたとき、苦情が殺到して、新聞社が第一面に謝罪広告を出したこともありました。私も『命はないものと思え』という脅迫状や、抗議の手紙をたくさん受け取りました。でも実際には、身の危険を感じることはありませんでした。」

「政治家にしても、からかいの対象となることは快く思わないはずですが、それでも世の中の移り変わりに合わせてだんだん成長してきているのか、風刺画は甘受するべきだという態度になってきているようです。もちろん風刺画に対する抗議は新聞社にたくさん寄せられますが。」

ケニアにおいて、報道の自由が尊重されてきていることがよくわかります。

ミニ・レクチャーの写真3

ジャパンファウンデーションのオリジナルTシャツを着て微笑むガドさん

ガドさんの風刺漫画は非常に痛烈です。しかし不思議なことに、対象への侮辱はみじんも感じられません。思いっきりからかっておきながら、相手への情のようなものさえ感じられます。どの対象も徹底的に醜くは描かれていないからでしょう。それどころか、その画面からはユーモラスさが伝わってきます。これはガドさんの人柄によるものなのか、アフリカの大地に根ざす大らかさによるものなのか、私にはわかりません。しかし、「痛烈でありながら悪意をはらまない」という微妙なラインを維持しているところが、彼の風刺画の魅力であり、多くの新聞社に受け入れられる理由ではないかと思いました。

「私は、何事にも疑いを持つんです。でも決して冷笑したり、皮肉ったりしているわけではありません。」

「私は中世の道化のような役を演じているのです。王様のそばにいて、家臣は遠慮して進言できないようなときでも、言いたいことをズバッと言う。しかもそうしたからといって、罰を受けることはないという立場です。」

ガドさんがレクチャーで見せてくれたスライドの中に、『裸の王様』からインスピレーションを得た風刺画が2枚ありました。「でも、王様は裸だよ。」と叫ぶ子どもの姿が、ガドさんに重なります。子どものような直感と素朴な疑いを持つ姿勢。それこそが、抗議が殺到することも恐れず自分の信じる風刺画を描き続けるガドさんの原動力になっているのではないかと思いました。

風刺漫画の画像1

「私の国は、アジアの某国や、欧州の某国等々より、ずっと報道の自由があると思います。」ガドさんは胸を張ってこういいました。民主化の道を歩んできたアフリカ、それを誇りに思っているガドさんの様子が伝わってきました。

ガドさんは風刺画の中で日本の首相(小泉前首相、安倍首相)を描いたことがありますが、それはG8サミットの出席者の一人という扱いで、特に論議を呼ぶようなものではありませんでした。

風刺漫画の画像2

日本をたっぷり体験したガドさん、これを機に日本人の描写に磨きがかかるかもしれません。
ガドさんのこれからの活躍が楽しみです。

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