「創造の場シンポジウム『都市を刺激するアート』」関連イベント AIT Artist Talk #35

The Land」プロジェクト 田んぼを共同運営するアーティストタイの現代アーティスト カミン・ラーチャイプラサートを迎えて

シンポジウムの写真
東京・代官山のAIT に大勢の人が
カミンさんの話を聞きに集まった。

2008年3月10日(月)に、東京都の代官山にて、AITNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ)との共催で、AIT Artist Talk #35が開かれました。

今回のスピーカーである、タイの現代アーティスト、カミン・ラーチャイプラサートさんは、3月9日(日)に金沢で行われた、「創造の場シンポジウム『都市を刺激するアート』」のパネリストとして来日されました。彼の話を東京でも聞きたいという声があり、今回のアーティスト・トークが実現しました。

黒の上下のカジュアルな服装で登場したカミンさんは、「サワディーカ」とまずタイ語で挨拶されました。そして、「みなさんは何をしている方ですか?アーティストですか?キュレーターですか?」「タイ語がわかる人はいますか?」と、カミンさんの質問からトークは始まりました。

前半はカミンさんの今までの作品の紹介、そして後半は芸術家村共同プロジェクト「The land」についての話でした。

自分を探求した日々

カミンさんは1964年に生まれました。子どものころから、「人生とは何か?」という疑問を抱き続けてきたそうです。「母親が事故で入院し、結局亡くなってしまったのですが、自分は十分に看病をしなかった。その罪の意識を抱えて生きていたのですが、その癒しとなったのが芸術でした」と語り始めました。

タイのシラパコーン大学で美術(専門は版画)を学びましたが、当時の作品に描かれた人や肉体はすべて自画像なのだそうです。母親の胎内にうずくまる人や十字架に貼り付けになった人など、キリスト教系の学校に通った影響も見られ、「人が生まれて死ぬとはどういうことか?」を一貫して作品で問い続けました。

しかし、カミンさんは、その後1987年に留学したニューヨークで、大きなカルチャーショックを受けます。「自分にとっては癒しであった芸術が、ここでは違うコンセプトで創られている」と感じたカミンさんは、今度はそこから「芸術とは何か?」という問いかけを始めます。そして、それに答えるように、芸術を科学、宗教、生活と比較するような、まったく今までとは違ったタイプの作品を創り始めました。

そして、「自分の生きてきた経験を作品に活かさなければいけない」という思いに目覚め、1990年から1日1作品を日記のように創り続けることを始めたのです。

感じたこと、思い、見たもの、話したこと、その時々の思いが反映された作品は、絵であったり彫刻であったり、詩であったりと様々でした。そして、自分の名前をサンダルの裏にタイ語、英語、漢字で書いた作品を創り、中国系タイ人で、現在ニューヨークにいる自分のアイデンティティを表す作品として実際にいつも履いて出かけ、絵の具でスタンプのように作品に刻印したり、床や壁に足跡のペインティングをしたりもして発表しました。

「そのすべてが、自分を理解するためのプロジェクトでした。そして、芸術は作品の中にあるのか、それともそこに至るプロセスの中にあるのか、という問いがいつも頭の中にありました」とカミンさんは言います。

The land」-芸術と生活の実験場

「The land」の写真1
the land」内につくられた建物も田んぼも
すべてみんなのものとして共有。

その後、タイに戻ったカミンさんは、1996年からタイ北部のチェンマイ大学で芸術を教え始めましたが、大学の中にも外にも作品を発表する場がないことに気づきました。そこで、アートスペースを作ろうと考えました。

また、当時はタイの景気もよくなかったため、アーティストを含め多くの人たちが生活の不安を抱えていました。そこで、カミンさんは友人のリクリット・ティラヴァニャと一緒に、「家や畑を作って食べていけるようにすれば、安心して創作活動ができるし、老後も安心だ」と1997年に土地を購入しました。

「The land」の写真2
the land」には門も壁もない。
近隣の農家の人も自由に訪れる。

つまり、最初は自分たちの老後のために買った土地だったのです。しかし、いろいろ話しているうちに話が膨らんできて、友人たちを呼んで家を作ってもらおう、ということになりました。また、そのころ自然農法の創始者である福岡正信の『自然農法-わら一本の革命』を読み、自然農法に大きな興味を持ったこともきっかけになったと言っています。

こうして1998年より芸術家村共同プロジェクト「The land」が始まりました。「The land」の3原則は、「自給自足、瞑想、芸術」の追及です。敷地には門も壁もなく、誰もが自由に出入りすることができます。そして自由に家を建てたり、食糧を作ったりできます。ただし、作ったものは個人の所有物ではなく、皆で分け合います。ここにはオーナーは誰もいなくて、すべてが皆のものなのです。

ワークショップや展覧会、セミナーなども行われ、自由に参加することができます。ユニークなのは、どこからも補助金などは受けておらず、住んでいる人は全員自分の力で生活しなければならないこと。そして、来た人はすべて受け入れているということです。

「元々豊かな土地でもなく、電気も冷蔵庫もなく、決して快適とはいえない生活ですよ」とカミンさんは笑いながら、その中で人が去ったり、やってきたり、生活したりするプロセスそのものが芸術なのだと言いました。「自然を理解する為のプロセスそのものが芸術」というのが、現在のカミンさんのスタンスなのです。

「The land」の写真3
様々なワークショップが行われ、
自由に参加できる。

そんな「The land」は2004年に「the Land Foundation」という財団になり、国内、国外からたくさんの人が訪れています。ノルウェーの人が自分の国でもやりたいといって、ノルウェーでも始まりました。

カミンさんは「The land」は社会の実験室だと考えているといいました。美術館のように、できた作品を飾っておく場ではなく、プロセスが大切で、作品が壊れたら壊れたままにしておく。人生と同じでよいことも悪いことも起こる。すべてが自然でそのままでよい。でも、よい心ではじめたことはよいバイブレーションとなってまわりに影響を与えていく、と。

「The land」の写真4
基本は自給自足。電気もない自然の中での生活と
芸術が一体化しているのが面白い。

「自分とは何か?」という問いから始まったカミンさんの芸術は、「芸術とは何か?」「自然とは何か?」と拡大し、大勢の人を巻き込みながら「生活そのものが芸術である」というところにまで広がっていきました。それを体現している「The land」はすべての人に開かれたスペースとして存在しています。そして、今日も新たな人が「The land」に訪れているのでしょう。

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