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「休学のすゝめ」大学を1年間休学して、外国へ行こう

 

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欧米だけでなく、中国、アジアという鏡で日本を見てみることも必要だ


小倉 自分を認識しなくてはいけない、そのためには自分を鏡に写してみることですね。日本にとって自分を写す鏡はかつてはヨーロッパであり、第二次世界大戦後はアメリカでした。しかし、アジアを鏡にしたことはないのです。ベストセラーになった日本人論には『菊と刀』をはじめ、欧米人から見たものは数多くありますが、中国人から見たものはほとんどありません。そろそろ、例えば中国という鏡で日本を見てみることが必要なのです。アジア共同体といいながら、依然としてそこまではいってないのです。

少し前なら、欧米へ行っても日本はアジアの代表だという顔をしていられました。ところが、いまや中国も韓国も破竹の勢いで、むしろ日本は中国や韓国とどこが違うかを主張できなければいけない時代になっています。しかし、日本人は中国、韓国といった隣人を必ずしもよく知らないのです。これが問題です。これからは隣国であるアジアとの行き来を相当増やさなければいけません。


黒川 いま日本から外国へ出ている留学生は登録されているだけでも約8万人になります。日本にいる学生の数からしてもとても少ないと思います。そのなかで中国への留学生は1万8000人と急増していますが、中国から日本への留学生は約17万人で10対1の差がある。日本から韓国への留学生は約4000人で、逆は約4万5000人です。大学だけでなく、高校、中学、小学校の段階でホームステイなどを推進して、中国や韓国やほかのアジアの国に対して、いわれのない変な優越感や劣等感を取り除くことが重要だと思います。


国際交流による人材の育成は安全保障の根幹でもある


小倉 そのほかにも、科学と文化の接点を意識した文化交流ができないかとも思うのですが、科学者の立場から、どうお考えでしょうか。ロボットを例にとれば、日本のロボット技術を宣伝するだけではなく、からくり人形からはじまって、ロボットが発達してきた日本の歴史なり、文化的な背景なりを世界に知ってもらうこともできます。


黒川 まず国家戦略として、ハコモノではなく中身、人材の育成です。広い学術分野、芸術などの人の育成にもっと予算を配分するべきだと思います。その意味では政策のプロセスとしてはどれだけ一般の人たちが科学や文化が国の大切な財産だと感じている、認識しているかが大切になってきますね。


小倉 実は国際交流基金が手がける事業や催しは、国外で行うものが多いので、訪れるお客さまは約9割が外国人なのです。「いいことをやっていますね」とか、「もっとやってください」と声をかけられますが、私たちのPR不足もあってか、日本では国際交流基金が何をやっているのか知らない人も多いのです。


黒川 国際交流基金によって、日本人の研究者や芸術家がたくさん海外に派遣されていますね。その方たちが帰ってきたあとに、どのような活動をしてきたのかをいろいろな「場」「機会」に話してもらうことが必要なのでしょう。税金の一部が使われているのですから、それこそ国民に対しての説明責任ですね。それが広報としても機能するのではないでしょうか。


小倉  日本外交のアキレス腱の一つなのですが、外務省では安全保障、経済、経済協力の専門家は育っているものの、文化関係の専門家はほとんど育てていないのです。国際交流基金の中で少しずつ専門家を育てていますが、基金の海外拠点は22カ所しかないため、それほど多くの人材を派遣することはできません。もっと多くの拠点がほしいですね。現場にいてこそ、専門家は育つので、やはり人材の育成が急務です。


黒川 講演会や会議で議論してみると、参加者の研究者や官僚は非常に知的で優秀な方ばかりだとわかります。しかし、それぞれのテーマでの議論は正しくても、日本全体を見て、あるいは世界の中から日本を見ての発言を求められると黙ってしまう人が多いのです。各論的視点では話ができますが、大きく全体を見て自分のことばで、大局的に、グローバル世界での自分とその組織や分野を見て、しゃべっている自分を客観的に見ながら語ってほしいのです。また多くのデイベートも大事です。これは多くの大人の指摘するところですが、まず大人がデイベート下手ですから、妙に感情的になったりして。


小倉  国際交流基金では、国内で国際交流事業を行って貢献している団体や個人に対して、表彰を行っています。数年前、賞の名前を以前の「地域交流振興賞」から「地球市民賞」に変更したのも、同様の考えからでした。もっと大局的に、地球市民という意識でいきましょうというわけです。しかし、言うは易し行うは難しで、税金は日本のために使えなどといわれることもあります。


黒川 学生の国際交流についても、それに税金を使うことを問題にする向きもあります。しかし、人材の育成は国境を越えた人のネットワークを形成する国の安全保障の根幹でもあります。こういう視点がないとヴィジョンのある国の政策などできるわけがありません。


小倉  人材育成はすぐに成果が出るものではないので、長期的な目で見た投資が必要ですね。


黒川 人材の育成はふだんから心がけていないと、いざとなったとき、日本は世界の誰からも信用されていないということになるかもしれません。交換留学でも一年間休学でも、もっと長くてもよいのです。若い人を外へ出して、世界中に友人をたくさんつくることのできる人材を育てることが急務なのです。この人の国境を越えた若いときからの「一緒の釜の飯を食った」ネットワーク、これこそがグローバル時代の国の安全保障の根幹です。今まで日本は、若者に世界での他流試合をさせてくること、海外から多くの若者たちを呼んでくることについて、あまりにもその経済力に比べて怠っていたと思います。だいたい、今の世界で政府、企業、大学等々の国の根幹となる組織の上の人たちが、国際的な場で、いまだに英語で議論ができる人が少ないのは、日本だけになりつつありますね。


(平成22年2月19日 東京四谷のジャパンファウンデーションにて)

黒川 清 (くろかわ きよし)
政策研究大学院大学教授
内閣特別顧問
特定非営利活動法人日本医療政策機構 代表理事

 

東京大学医学部卒業。UCLA 医学部内科教授、東京大学医学部教授、東海大学 教授、医学部長等を歴任。2003-06年には日本学術会議会長、内閣府総合科学技術会議議員をつとめる。1999年紫綬褒章、2009年フランス政府からレジョンドヌール受賞。近著に『大学病院革命』日経BP社('07年)、イノベーション思考法』PHP新書('08年)等多数。

 


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