2009年7月遂に日本語学科第1期生が卒業。2005年に開講以来、4年間の造船作業を終え、学科としていよいよ社会へ出帆した。設計通りに進んでいるところもあれば、設計ミスか、あるいは設計通りに操舵されないのか、思うように進まぬところもある。それでも船は進んでいる。
卒業する学生・入学する学生
![]() 第1期生卒業式の日(2010年2月24日) 写真提供4年生ボレットさん |
卒業生は45名。入学時の81名がこの数となった。約56%の卒業率。これがカンボジア大学生事情である。卒業後7か月あまり経った時点での就職率は、およそ82%(学科長調査による)。そのうち、日本・日本語関係は7割弱。日系に限らず企業というものが十分育っていない当地では、就職先は限られている。ところが就職しても数か月も経たないうちに辞めたり、転職したりする。カンボジアの大学進学率は2005年の3.6%から2008年の7%に伸びている(World Bank ホームページより)が、カンボジア社会が大学卒のステータスを受け入れ活用する準備はまだ整っていないのか、日本人と異なる就職観・労働観がある。
入学者数の方も減少傾向にある。数年前の日本語ブームは去ってしまった。ブームとは去るものである。当初、毎年80名前後が入学する予定だった。学科の運営は授業料が頼りである。それが半数程度になる年もあり予算は厳しい。これに伴い教員を減らし、1クラスの学生数を増やして調整していくので、教師の負担は増えるばかりである。
日本語専門家の役割
○担当科目
主に4年生の日本語教育専攻科目を任されている。応用言語学、教授法、教育実習、日本語教育学研究、それに卒業論文など。中でも、研究論文など見たこともない学生20名に研究をさせて論文を書かせる卒業論文指導には、多大な時間と粘り強い根気が必要とされる。ほとんどの学生がクメール語日本語の対照研究やカンボジア人日本語学習者の習得研究に果敢に取り組んでいる。締切の迫った今、論文を仕上げるべく日本語と格闘している。
○新人教師の指導とカミテグ勉強会
![]() 新人教師の3年生奨学生一般合同クラス の漢字授業 |
今年4月に2名の教師が修士号取得を目指して日本へ留学した。これで日本留学中の教師が3名となった。代わりを務めるのは昨年9月に日本語学科卒業生から採用した新人教師3名。この3名、もちろん仕事として日本語を教えるのも初めてだが、職場というものも初めてだ。さらに外国人である日本人と一緒に仕事をしなければならない。初めはどう振舞っていいのか動きさえぎこちない。そのうち「日本語会話を勉強したいです」と言ってきた。聞いてみると、教員室で日本人の先生方とうまく話ができないとのことだ。こうしてカンボジア若手教師グループ(CAMbodia Young TEachers Group: CAMYTEG; カミテグ)として、会話練習をはじめ、漢字指導シラバス、読解指導法、評価法などの勉強会を行うようになった。学生としての勉強と教師になっての勉強の違い、授業の裏側に多くの準備があることを一つ一つ学び始めたところである。
○カンボジア日本語教師会(CAJALTA)
専門家はCAJALTAの活動のうち、セミナー・ワークショップ(以下SW)係となっている。12月の第15回SWでは、アンコールワット遺跡のある観光地シェムリアップの日本語教室の先生に観光ガイド養成コース実践例を紹介して頂いた。極暑のカンボジアの遺跡の中を笑顔で案内しなければならない観光ガイドは収入はいいが過酷な仕事であると、ガイド事情も織り交ぜられた話に、プノンペンの教師たちが熱心に聞き入っていた。また、3月の第16回SWでは「新しい日本語能力試験」の概要と問題例を紹介した。教師だけではなく学生も大勢集まり、CAJALTAのSW史上最高の59名が参加した。当地でも能力試験が着実に影響力を増している。
○さくら中核事業
この5月から当機関主催の「地域巡回日本語・日本文化セミナー」の活動が始まった。プノンペン市内の4機関から集まった教師が3チームに分かれ、カンボジア国内10か所で半日のセミナーを行う。目的は教師間ネットワークの構築、つまり各機関から集まった教師が会議を行いながら仲良くなり、地方の先生方とも知り合いになることだ。先日、第1回会議が開かれ、参加教師14名が集まった。行き先は3ルートに分かれていて、各チームがそれぞれ一つのルートを回る。準備の様子を「カンボジアさくら巡回セミナー」というブログで紹介している。
そうこうしながら、とにかく船は進んでいる。今後も財政難は避けられない。卒業生の就職難は学科の入学者減少に拍車をかけるかもしれない。新人教師は学科の正式教員となるために数年後には日本留学して修士号を取ってこなければならない。その間、毎年卒業生を採用し、入れ替わりが続く。専門家の仕事は尽きない。多少の浸水はやむをえまい。沈まぬように未来の学科の雄姿を想像して進めるしかない。

