【アゼルバイジャンで相撲!? アゼルバイジャンで日本語!?】
ある日、「明日、相撲の大会がありますが見に行きませんか。」と誘われ「えっ。相撲って日本の相撲!?」と驚き聞き返した。首都バクーで、今年初めて国内相撲大会が開かれた。ルールはよくわからずレスリングのようにしているものの、きちんとまわしを締め、土俵上で組み合っている。隣国グルジアの力士「黒海」の影響か、柔道、合気道や空手に少し遅れて、もう一つYAPON(アゼルバイジャン語で「日本」)が入ってきた。アゼルバイジャンの力士を応援できる日もいつか来るかもしれない。
北はロシアとグルジア、南はイラン、西はトルコとアルメニアに隣接し、東はカスピ海からの強風で砂塵が舞う日が多い首都バクー。イスラム教徒が多数のアゼルバイジャン人は何事も「インッシャー・アッラー(神の思し召しのままに)」。楽天的でフレンドリー、好奇心旺盛。日本語学習者と外を歩けば「何語?」「どこで習っているの?」など質問が飛んでくる。アゼルバイジャン人にとって、ここで日本語の関係者に出会うことは、私が相撲大会に驚いたのと同じくらいの驚きなのであろう。
【アゼルバイジャンの日本語教育】
![]() 日本語講座教室にて 1年生 |
アゼルバイジャンにおいては、バクー国立大学と年少者教育1機関(小中高一貫、4・5・2制 6,7歳〜17,8歳)で日本語が教えられている。子供たちには珍しさと憧れから日本語人気が高まっており、年少者教育機関では今年新たに1クラス増設された。多数の教育機関において日本語講座開設の動きはあるものの、これまで自立的に開設まで漕ぎ着けた機関はなく、アゼルバイジャンの日本語教育の普及は停滞状態にある。天然資源に恵まれ自然と外国資本が入り、難民救済に国際支援がたくさん入っているアゼルバイジャンでは人々の積極的な自立的活動は非常に乏しい。
2006年からバクー近郊の町スムガイトの国内避難民(旧ソ連崩壊とともにアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ自治州を巡ってアルメニアと紛争が起こり、発生した推定100万人のアゼルバイジャン人避難民)支援NGOと協力し、同年12月から首都以外の町において初めて年少者向け日本語コース(無料)を開始することができた。同じ町内でも、国内避難民と地元の人は生活圏を隔てており、難民児童と地元の児童が机を並べて学ぶ機会はない。日本語を通して共に学ぶ場を提供できたのも、バクー国立大学日本語講座の学生たちがボランティアで教えに行ってくれているからである。教職は最低賃金のため人気がない職業だが、目をキラキラさせて学んでいる子どもたちを相手に学生たちも大学では得られない体験をし、多くのことを学んで生き生きしている。その姿は日本語教育の無限の可能性を教えてくれる。
【バクー国立大学の日本語教育】
![]() 初めての茶道体験にドキドキ ワクワク |
国内唯一の高等教育機関として日本語講座が開講して7年。日本語教育ジュニア専門家の派遣が開始され6年を迎え、卒業生が3度巣立っている。日本大使館や日系企業への就職、研究留学など6年前に蒔かれた種はしっかり大地に根をおろし育っている一方、このように日本語をいかした道に進めるのはほんの一握りで、その多くが学生時代に日本留学という狭き門を通過した学生たちである。では、その競争に勝てなかった学生たちにとって日本語学習の意味はなくなってしまうのだろうか。
バクーでは様々なクラブ活動が開催されている。その中の一つが毎月一回日本大使館に場所を提供して頂いている「日本語会話クラブ」である。在留邦人と学習者とのグループディスカッションによる相互交流は両者にとって新たな知識の獲得、学びの場となっている。また、学生主体によるクラブ活動も始まった。随時行われる料理クラブでは、両国の希望者が互いの料理を教え、習い合っている。1,2年生は折り紙クラブを結成し、在留邦人有志を募って月1回教室を開いている。学生たちの折り紙の習得の高さと高度な技術には驚かされ邦人が習う側になっているともいえる。2007年10月には折り紙展示会を開催予定である。3年生を中心にしたHPクラブはアゼルバイジャンや日本語講座についての様々な情報を盛り込んだ日本語HPを作成してきた。http://www.geocities.jp/azerbaijancaspi/index.html
在留邦人が希少で日本の情報の少ない国においては、ときに日本語学習者からの一方通行になりがちであるが、対等な双方向の交流が行われているといえる。クラブ活動など積極的に自主的な活動をしなかった学生たちが日本語教育を通して自ら考え、実行し、新たな自分を発見、自身の可能性を伸ばしている。アゼルバイジャンと日本の二国に捉われず広く一般社会に、世界に、日本語の窓からアゼルバイジャンのYAPONを発信し始めている。旧ソ連崩壊から16年、新たな時代を担う若者たちの成長に日本語教育は貢献できると実感している。
西アジアの一国、アゼルバイジャン。これからのYAPONに「インッシャー・アッラー」。

