ポーランドにおける日本語教育専門家の役割
―日本語教育事情の報告と雑感と―

ヤギェロン大学
菅生早千江

 ポーランドにおける日本語教育は1919年、ワルシャワ大学で日本語講座が開講されたことに始まります。1987年にはポズナンのアダム・ミツキエヴィッチ大学とクラクフのヤギェロン大学にも日本語講座が開設され、この3校が主専攻として日本語を学べる日本研究の拠点となっています。また現在、日本語学習者は一般市民や中高校生まで裾野が広がっています。

 報告者は2004年夏に着任し、3度目の、そして任期最後の夏を迎えようとしています。このウェブサイトへの掲載も今年で最後になりますが、今回は、任校とポーランドの状況と、派遣専門家としての課題を中心にまとめようと思います。

○ 派遣専門家としての業務

 国際交流基金(以下、基金)より派遣される日本語教育専門家には、大別すると三つの型(タイプ)があります。一つ目は、現地の日本語教育機関に派遣される機関派遣型、二つ目は、現地の日本語教師養成を目的の一つとし、教師ネットワーク形成の支援等を行なうアドバイザー型、三つ目は両者の中間的なもので、機関に所属し、同時に任国全体のために業務を行アドバイザー的ポストのものです。ポーランドでの業務は、三つ目の中間的ポストと言えます。また、クラクフの「日本美術・技術センター」日本語学校に、基金より派遣されている「日本語教育指導助手」をサポートすることも、業務のひとつです。

○ 任校の最新状況


3年生の授業

 ヤギェロン大学の日本学科(正式名称は日本・中国学科)は、全学生数が五学年あわせて70名程度、一学年14名程度というところです。入学試験の倍率が毎年十数倍という、人気のある学科でもあります。学生は1年少々で初級教科書を終了し、また3年終了時には能力試験2級程度の実力を目指すという進度にも遅れることなく、よく勉強しています。
 本年度の3年生は、ボローニャ宣言を受けた新制度---5年で修士号を取得する制度から、3年で学士、2年で修士取得する制度---へ移行した最初の学年でもあり、報告者が本稿を書いている5月下旬、「学士論文」の仕上げに「追い込み」の作業をしています。現3年生の様子を見ていると、3年次後期の過ごし方がこれまでの3年生と変わっていることがよくわかります。論文の指導は担当ではありませんが、いい論文を仕上げて欲しいと願っています。

○ ポーランド全体の日本語教育の最新状況


クラクフ中央広場での学科紹介フェスティバル・民族衣装ショー

 ポーランドの日本語学習者は、2006年末の調査で2300人あまり、また日本語教育機関は、把握できる限りで49機関と、明らかに増加傾向にあります。近年進出が続く日系企業は、2007年5月現在155社に上るそうですが、日本語学習者の増加の背景には、こうした日系企業の進出による、日本への関心の高まりがあるのかもしれません。
 日本語教育に関しては、本年度の大きな展開は、「ポーランド日本語教師会」(以下「教師会」と略す)を、2006年12月に正式に発足させることができたことです。
 教師会の活動は、近隣国を見ても、国のニーズに合わせた活動を展開しているようです。ポーランドの場合は、「日本語能力試験」実施の支援と「大使館主催日本語弁論大会」に、共催の形で協力することが現在は中心的な活動となっています。2007年3月の第28回日本語弁論大会は、教師会がかかわって2年目でしたが、大使館の方のご理解もあり、審査基準、審査用紙の見直しなどをしたことで、昨年の反省を踏まえたよい大会になったと各方面から評価を得ました。また、大会の翌日に勉強会を実施したことも、好評でした。教師会の活動は、派遣専門家が前面に出る形から、現地の教師を中心とした形となりつつあり、望ましいあり方に近づいているように思われます。

○ 業務の課題

 任校内の業務も任校を離れた業務もいずれも大変刺激に富んだやりがいのある仕事であると同時に、課題も少なくありません。
 任校では、現在のカリキュラムでは、限られた「演習」の時間数の中で、作文も、聴解も、文型の練習も行なわなければならず、進度を守るためには、「宿題」の配分も含めて綿密な計画が必要になってきます。また、学年間のコーディネーションを効果的に行うことも、もっと検討できればと思います。
 任校以外の、日本語教師会に関する業務では、現地の教師が主体となれるよう、引き続き見守り、側面から支援していきたいと思います。
 どちらに関しても、派遣専門家は自らが実践者となる以外に、「情報やノウハウを提供し、現地の先生方に実践を委ねる」という役割が大きいと思います。そのことを念頭に置いて関係者のための資料整備を行うことが、早急の課題です。

○ 最後に

 3年間、ポーランドで日本語教育に携わる中で、いつも感じていたことを述べるなら、それは、現地関係者への「尊敬の念」でした。ポーランド人研究者の方々が、日本へ行くことも情報を得ることすらもままならない時代から、日本研究に取り組んでこられたことにも、また日本人関係者の方々が、両国の経済格差の中、現地で日本語教育を支えてこられたことにも、尊敬の念を持ち続けてきました。自戒を込めてという気持ちですが、派遣者は、業務への取り組み方や周囲への態度を現地の関係者から「見られている」ことを忘れてはならないと思います。そして、派遣者として何をすべきかを、周囲と対話しつつ見極めて実践する、ということが求められていると思います。自分がどれほどのことを達成できたかは心もとない限りですが、最後まで全力で取り組み、次の派遣者の方へ引き継ぎたいと思います。



■ 派遣先機関の情報
イ. 派遣先機関の位置付け
及び業務内容

派遣先機関の位置付け
ポーランドに於ける日本語主専攻の大学のうちのひとつ。
日本語以外に、文学、日本史、日本地理、東アジア文明等、広く日本学一般をカリキュラムに取り入れている。
業務内容
(1) 通常授業および留学試験対策勉強会など。週8〜10コマ程度
(2) ポーランド人日本語教師との連携
(3) 国際交流基金の各種プログラムへの申請、応募などの連絡窓口
(4) ポーランド国内の日本語教育事情調査
(5)ポーランド日本語教師会活動の支援

ロ. 派遣先機関名称
ヤギェロン大学
Jagiellonian University, Institute of Oriental Philology, Department of Japanology and Sinology
ハ. 所在地
ul.Pilsudskiego 13, 31-110 Krakow  POLAND
ニ. 国際交流基金派遣者数
日本語専門家:1名
ホ. 日本語講座の所属学部、
学科名称
文献学部東洋学研究所日本中国学科
ヘ. 日本語講座の概要
(イ)沿革
 
(1)講座(業務)開始年   講座開始:1978年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1987年

(ロ)コース種別
  日本語主専攻

(ハ)現地教授スタッフ
  14名(内 邦人3名:基金派遣者含まず)
(ニ)学生の履修状況
 
(1) 履修者の内訳   各学年14名程度、休学含む合計72名
(2) 学習の主な動機 アニメ、武道や歌舞伎などの伝統芸能、ポーランド語に訳された日本文学など
(3) 卒業後の主な進路 博士課程進学、留学、日系企業での企業内通訳・翻訳など
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
2級、留学経験者は1級
(5) 日本への留学人数 国費7名、協定校1名


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