シベリアの“おへそ”で日本語を学ぶ
ノボシビルスクは誕生してからまだ100年余りですが、人口は140万人を超える、ロシアで3番目の大都市です。日本からも首都モスクワからも遠く離れ、日系企業もなく、在住邦人も少ないですが、通りには日本の運送会社のトラックが走り、“スシ”のデリバリーがもてはやされ、日本製アニメや映画が連日のように放映されています。そして日本語学習動機の多くは日本文化や日本語への好奇心です。
日本語教育専門家の重要な役割の一つに、地域全体の学習者を見渡し、彼らの興味・関心を維持させ、さらなる動機付けを促進させることが挙げられます。同時に、新たな日本語学習者を増やしていくことも大切です。そのため、派遣先であるノボシビルスク国立大学での授業だけではなく、書道コンクールやカラオケ大会、市立シベリア・北海道文化センター(以下「センター」)での日本料理教室や新年パーティー、各地域や大学主催の日本語弁論大会等へ積極的に協力することが期待されます。そして、一人でも多くの学習者と出会い、一分でも多く彼らに日本語を使う“場”を提供することを心がけています。
あるパーティーで出会った、まだ幼い少女のキラキラした瞳が忘れられません。
「私は大きくなったら、絶対、札幌に行くの。」
彼女のその想いが実るように、彼女のような子供たちが充実した日本語教育が受けられるように、自分には何ができるだろうか?そう問い続ける毎日です。
ノボシビルスク国立大学(NGU)の学生たち
![]() 日本語を学ぶNGUの3年生 |
派遣先であるNGUは、ノボシビルスク市郊外に位置する学術研究地区、アカデムガラドクの閑静な林の中にあります。シベリアの学問の中心でもある当大学には非常に勉強熱心な学生が集まっています。大学の授業は午前9時から午後9時まで。学生は週に6コマ程度(1コマ90分)の日本語授業の他にも「歴史」「哲学」「政治・経済」「地理学」「言語学」等々必修科目が多く、忙しい毎日を送っています。
筆者は1年生から4年生までの「日本語会話」の授業を担当していますが、より実践的な場を設けるために、日本人留学生によるビジターセッションをよく行っています。また、今年度は特別コースとして「現代日本映画コース」と「異文化コミュニケーション講座」を開講しました。これらの講座では、日本の社会問題や若者の行動について話したり、日露の価値観の違いや、異文化理解の大切さについてディスカッションをしたりしました。授業以外にも、作文添削やスピーチ指導、他教師への授業・教材についてのコンサルティングなど、仕事は多岐に渡ります。
夏休みは生の日本語に触れる機会がなくなってしまうため、今夏から週一回「日本語倶楽部」を始めました。会話は流暢な学生達が、書道や折り紙に四苦八苦。休憩も取らずに熱中している姿は微笑ましいです。
学生は皆真面目で優秀であり「知識」は豊富ですが、まだまだ日本人や日本文化への「理解」には乏しいです。「知識」を「理解」へと促すための「体験」をより多く授業に取り入れていくことが今後の課題です。
シベリア地域のネットワーク発展のために
![]() 真剣な表情の学生たち |
現在取り組んでいる最も重要な課題として「シベリア地域の日本語教育機関及び教師のネットワーク構築と発展」があります。ノボシビルスクと近隣のトムスク、クラスノヤルスクを合わせると、およそ17の教育機関で900名近い学習者がいます。似たような環境で同様の悩みを抱える地域同士が協力し、互いに切磋琢磨することは、各々のレベルアップだけではなく地域全体の日本語教育の発展、活性化に繋がります。
今年度はまずシベリア地域の邦人教師連絡網を作成し、共有したい情報やイベントへの協力依頼などの連絡がスムーズに行えるようにしました。さらに当地の邦人教師を中心に月に一度勉強会を開き、授業や教材に関する相談、行事の運営についての意見交換などを行っています。また、トムスクやイルクーツクの大会には審査委員長として赴き、クラスノヤルスクにも立ち寄るなどして、遠方地域の教師とも積極的に交流を図りました。
昨年10月には、センターが中心となって「西シベリア日本語教育協会」が正式に法人組織として発足しました。これに伴い、例年当地のみで行われていた「日本語コンクール」が、新たに「第一回西シベリア地域日本語弁論大会」となって5月に開催されました。この大会にはトムスク、クラスノヤルスクだけではなく、イルクーツク、ヤクーツクからも学生が出場し、教師が審査員として協力してくださいました。最も近いトムスクでもバスで片道4時間、イルクーツクは電車で30時間以上、ヤクーツクは飛行機しか手段がない地域です。費用面でも時間的にも一度に会することは決して簡単なことではありません。日頃の地道な関係作りと、教師達の教育に懸ける熱い思いによってなしえた大会といえるでしょう。
さらに、2006年度は初めて日本語能力試験が実施され、今、ノボシビルスクの日本語教育は大きな転換期を迎えています。拡大を続けるネットワークを維持し発展させていくために、今後も人との触れ合いを大切にして活動していきたいと思います。

