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日本では、古くから樺太と呼ばれたサハリン。天然資源に恵まれ、ロシアにおいても重要な地域と位置づけられる一方で、人々はより高い学歴、より良い暮らしを求めて、大陸へと流出してゆく。このような環境にあって、高い教育レベルを維持し続けることは、容易いことではない。
ロシアでの教師の待遇は、少しずつ改善されているとはいえ、企業のそれと比べまだまだ差がある。大学からの給与だけで生活するのは難しく、日々、家庭教師などのアルバイトをこなさなければならない。企業から、より良い待遇を提示されたときに、転職を考える教師を、誰も責めることはできないだろう。
一方、サハリン国立総合大学で日本語を専攻する学生に、「どうして日本語を勉強しようと思ったのですか」と尋ねると、決まって将来の仕事について話してくれる。しかし、成績の優秀な学生に限っては、必ずといっていいほど、日本や日本語そのものに対する興味も持っていることに気づかされる。
こうしてみると、教師についても学生についても、自らの「日本語」との関係について、経済的な期待を持っていることがわかる。しかし、その一方で、その関係をより高いレベルで自分のものにしていくためには、経済面での期待以上の、精神的な充足感を与えてくれるような何かが、鍵として必要となってくるように思われる。
このような中、日本語教師として派遣された報告者は、一週間に8コマの授業を担当する他に、以下のような業務に取り組んでいる。
・現地教師への日常業務に関する助言
・学内試験問題の作成、試験監督
・勉強会を含む現地教師会の運営
・サハリン弁論大会のサポート、学生の個別指導
・極東・東シベリア弁論大会のサポート、学生の個別指導
・ニュースレターを通じた極東他地域(ウラジオストク、ハバロフスク)との情報交換
・日本語能力試験の運営補佐
・各種留学試験の試験官
しかし、この一年間、報告者が最も気を配ってきたことは他にある。現地の教師に関しては、まず、誰もが気軽に話しかけられるような、快適な職場を維持することを第一に考えてきた。それだけが理由ではないだろうが、2005年度末まで、若手のロシア人教師が年度末になるとやめていく、という状況を繰り返していたが、今年度に関しては、希望退職するロシア人教師が出なかった。勉強会でどんなに役に立つ情報を紹介しても、1年で退職してしまうのでは意味がない。日常的に相談することが、教師としての能力向上にもつながり、また、そのような居心地のいい職場環境のあることが、教師という厳しい職業を続けてもらうための、第一の条件と考えている。
また、学生に対しては、学習動機を維持してもらうためにネイティブ教師として何ができるか、ということを常に念頭に置いて接している。「将来の仕事のため」という動機だけでは、「英語だけを勉強すれば十分」という考えに変わってしまうケースも多い。もう一方の「日本や日本語そのものへの興味」という動機につながるような内容を、授業においていかに提供するか考え、またその情報を他のネイティブ教師と共有できるよう心がけている。
ビザ取得の難しさ、週3本しかない日本への便、サブカルチャーの浸透度、日本語教育機関の数…。サハリンにとって隣の島である日本は、まだまだ近くて遠い国である。本学の卒業生たちが、将来、少しずつこの距離を縮めていってくれることを、願ってやまない。

