●全体的状況
【沿革】
正規の教育機関での日本語教育は、1919年にワルシャワ大学においてボクダン・リヒテルが日本語講座を開設し、翌1920年に極東文化学科を開設したことに始まる。1920年代にはポーランドの歴史・文化研究のためワルシャワに来ていた梅田良忠教授が日本語教育に大きな役割を果たした。この日本語講座は第二次大戦中、一時的に中断されていたが、大戦後再開され日本の古典文学の翻訳などの研究が続けられた。そして1956年にヴィエスワフ・コタンスキ教授を主任とする体制の下、日本学科は独立した学科となった。1960年代以降は日本人講師を迎え、さらに1970年代以降は学術協定等により、教員の招聘、学生の日本留学が開始された。1970年代に入ると、ポズナンにあるアダム・ミツキェヴィッチ大学においても日本から講師を招聘して日本語講座が開設され、1987年には日本学専攻科が設立された。クラクフにあるヤギェロン大学でも東洋学科の選択科目として日本語講座が開設され、1987年には日本学専攻課程として授業を開講した。上記の三大学が現在もポーランドの日本研究、日本語教育の中心的役割を果たしている。
1993年には、国際協力事業団(JICA、現在は独立行政法人国際協力機構)によって派遣された青年海外協力隊員の日本語教師により、高校や日本語主専攻以外の大学で、一般外国語のひとつとして日本語教育が実施されるようになった。一方、1970年代に設立されたポーランド・日本協会は、ポーランド各地にいくつか支部を置き、日本文化紹介活動とともに早くから一般市民向けの日本語講座を開講した。そうした非営利団体も、民間外国語学校と共に日本語教育の一端を担っている。その後、2004年5月のポーランドEU加盟を受けて、JICAはポーランドにおけるボランティア事業の終了を決定し、2007年に最後の隊員が帰国した。EU圏の高等教育制度の統一を目指すボローニャ宣言(1999)を受け、ポーランドでも高等教育機関は、これまでの5年制(修士号取得)から、3年で学士号、2年で修士号を取得する制度に移行する方針をとっている。実施は各教育機関に任されており、日本語主専攻課程については、ワルシャワ大学は2002年に、ヤギェロン大学では2004年に導入された。そして2007年度にアダム・ミツキェヴィッチ大学が新制度に移行した。
2007年10月にはグディニア国際経済政治関係大学の国際関係学部に日本学科が開設された。また、グダンスク工科大学では、課外活動として週に1度の日本語講座が開講された。さらにポーランド日本情報工科大学に「日本文化学部」が新設され、全日制、定時制の学生が必修科目として日本語を学んでいる。また、同年9月から附属高校が開校し、そこでも選択科目としての日本語講座が開設された。他方、ポローニャ大学では、外国語講座の縮小のため日本語講座が廃止された。
2004年12月に第1回目が実施された日本語能力試験は、年を追うごとに受験者が増加している。2008年12月の受験者は348名。
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【背景】
ポーランドは1772年、1793年、1795年と三次にわたってロシア・オーストリア・ドイツによって分割され、1918年に独立するまで三国支配下に置かれていたが、19世紀末から20世紀初頭にかけて、パリからドイツ・オーストリアを経由して紹介された日本文化が、文学界、演劇界で流行した。海外に流出した浮世絵等がフェリックス・ヤシェンスキ日本美術収集家によって紹介されたり、1901年にはすでに外国の資料を基にした『日本文学史』が出版されたりしている。また、シベリア住民・アイヌ人の研究など、民俗学的関心も高まり、日露戦争もまた日本への関心を高める一因となった。戦後も古典文学や言語学等を中心に研究が続けられてきた。
こうした歴史的経緯から、ポーランドは親日的な国であると言われている。近年は日本から製造業を中心に企業の進出が相次いでいること、マンガ・アニメーションなどが紹介され人気を集めていること、また、日本への観光旅行がきかっけとなって日本語学習を始める学習者が増えていることなどが日本語教育の普及に影響を与えている。
【特徴】
高等教育機関においては、ワルシャワ大学がポーランドにおける日本学・日本研究の牽引役を果たしてきた。現在、日本語主専攻の大学では文学作品の翻訳といった文学研究、言語学を中心とした学術研究志向の日本語教育が行なわれており、研究発表の場となる学術雑誌も刊行されている。高等教育機関における日本語教育が高い水準にあることは、文部科学省の日本語・日本文化研修留学生(日研生)奨学生の試験の合格者数が、ポーランドではここ数年毎年20名前後と、非漢字圏では上位であることからも示されている。日本語主専攻の大学では、学習者の学習動機は伝統文化や文学への関心というのが主であったが、そのほかの大学や一般市民向け講座、高校などでは、アニメーションや映画等をきっかけに日本に興味を持つ学習者も多い。
●最新動向
トルンにあるコペルニクス大学では、1993年より、選択外国語として日本語教育を実施してきたが、2008年度から、3年制(学士課程)の日本学科を開設した。また10月にはウッジ国際大学においても主専攻の日本学科が開設された。
日本語能力試験は2008年度より実施機関が大使館からポーランド日本情報工科大学に変わった。12月にワルシャワの高校を試験会場として実施された試験では、受験者が348名で、前回の263名に比べると85名の大幅な増加となった。1,2級の受験者はほぼ横ばいだが、3,4級受験者の伸びが著しい。
●教育段階別の状況
【初等・中等教育】
小学校および中学校では、日本語教育はほとんど実施されていない。高校では、1993年以来、青年海外協力隊員日本語教師によって日本語教育が行なわれてきた機関もあるが、隊員撤退後に中止された学校もある。また、いくつかの高校では、民間団体によって派遣されたボランティア日本語教師に講座が引き継がれている。日本語講座は、自由選択科目、あるいは課外活動として開講されており、文化紹介的要素が強いようである。
【高等教育】
ワルシャワ大学、ヤギェロン大学、アダム・ミツキェヴィッチ大学の日本学科が中心である。これら主専攻の大学では、主に日本研究のための日本語教育が行なわれてきた。その他、ワルシャワ経済大学、コペルニクス大学、ウッジ工科大学、ポーランド日本情報工科大学、ブロツワフ工科大学等、外国語の選択科目として日本語コースが設置されている。
【学校教育以外】
一般市民向け日本語講座がクラクフの日本美術技術博物館京都クラクフ基金日本語学校、ワルシャワの日本学基金、財団さくら、各地のポーランド日本協会、民間の外国語学校等で実施されており、学習者も高校生・大学生を中心に幅広い層が学んでいる。
●教育制度
【教育制度】
6-3-3制であり、小学校および中学校の9年間が義務教育である。
初等教育:小学校が6年間(7〜12歳)、
中等教育:中学校が3年間(13〜15歳)、高校が3年間(16〜18歳)、
高等教育:5年間(19〜23歳)で修士修了の制度から、3年で学士、2年で修士修了の制度へ移行している大学もある。工科系大学は4年制のところもあり、また、医科系は6,7年制のところもある。
【教育行政】
初等、中等、高等教育機関は国民教育省の管轄下にあるが、芸術大学、音楽大学は文化省の管轄下にある。
●言語事情
国民の97%がポーランド人(西スラブ族)、そのほかロシア人、ウクライナ人などが3%を構成する。公用語はポーランド語(スラブ語派)である。
●外国語教育
小学校3年生より英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ロシア語、イタリア語のうち1カ国語を選択することになっているが、小学校1年生から教える学校もあり、学校によって若干異なる。
中学校および高校では、上記言語から2カ国語を選択する。どの言語が選択科目にあるかはどの語学教師がいるかによるので、学校によって異なっている。なお、2004年より、大学入試の選考は、マトゥーラと呼ばれる高校卒業資格認定試験の得点で行なうという制度に変わった。高校で日本語が正式科目の選択外国語となっていないため、高校生は卒業資格認定試験でも日本語を選択することができない。
大学では1〜3カ国語の外国語を履修する。日本語主専攻の学生は、日本の近隣国の言語を1つ履修することが必須となっており、学生は韓国語や中国語を日本語とともに履修している。
外国語の中での日本語の人気
高等教育機関では、非ヨーロッパ言語の中では日本語の人気は高いと言える。入学試験では、日本語主専攻の学科に出願者が集中する傾向はここ数年変わらず、入試倍率は20倍前後となるなど、日本学科は学内指折りの人気学科である。また、近年、選択科目として日本語講座を開講する大学が増えていることから、ほかの専攻を持つ学生の間でも、日本語の人気は高まっていると思われる。
大学入試での日本語の扱い
大学入試で日本語は扱われていない。
●教材
【初等・中等教育】
高校の教科書は『みんなの日本語初級』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『がんばれ日本語』、自主教材等である。
【高等教育】
日本語主専攻の大学では『初級日本語』『中級日本語』東京外国語大学留学生日本語教育センター(凡人社)、『ニューアプローチ中級日本語[基礎編]』小柳昇(語文研究社)、『ニューアプローチ中上級日本語[完成編]』小柳昇(語文研究社)、『テーマ別上級で学ぶ日本語』松田浩志ほか(研究社)などが使用されている。そのほかの大学では、『みんなの日本語』(前出)、『初級日本語げんき』坂野永理ほか(ジャパンタイムズ)のほか、適宜副教材が使用されている。
【学校教育以外】
『みんなの日本語』(前出)、『初級日本語げんき』(前出)、『JAPANESE FOR BUSY PEOPLE』国際日本語普及協会(講談社インターナショナル)等の教材が使用されているが、機関により異なる。
●マルチメディア・コンピューター
コンピュータ環境は、大学や学科によって大きく異なっているようである。一般的に、一部の情報工科大学等を除き、日本語授業に積極的に活用されてはいないようである。
●資格要件
【初等・中等教育】
初等教育では調査の限りでは日本語教育が行なわれていないため、資格に関しても不明である。中等教育では、ポーランド人教師は、日本語主専攻の大学を卒業した修士号取得者が従事している(非常勤)。資格は修士号取得が前提となっていると思われるが、日本人教師については、修士号までは求められていないようである。ただし、これは、中等教育機関での日本人日本語教師が、かつては青年海外協力隊員であったり、民間ボランティア団体からの派遣者であったりすることで、一定の資格を有している人材であると機関側が了解しているとも推測できる。
【高等教育】
一般的には修士号を取得していることが望ましいが、非常勤講師であれば、学士号の資格で採用されている例も散見する。しかしながら、常勤講師であれば修士号以上取得者であることはほぼ必須条件であろう。ポーランド人教師に対しては、講師募集に際して、修士号以上の取得に加えて、日本への留学経験があることを条件とした機関もあった。助教授以上には、博士号取得が条件である。
【学校教育以外】
学校教育以外でも、修士号取得者が望ましいと思われるが、学士の資格で採用される例も散見している。教育機関での経験が考慮されることもある。また、高校や大学の日本語教師が学校教育以外の機関を兼任しているケースも多い。
●日本語教師養成機関(プログラム)
日本語教師養成を行なっている機関、プログラムはない。
●教師研修
国内においては特に日本語教師を対象とした研修制度は存在しない。訪日研修としては、国際交流基金の日本語教師研修が活用されてきた。また、国際交流基金パリ日本文化会館およびアルザス欧州日本学研究所が主催するアルザスでの「欧州日本語教師研修会」が研修の機会となっている。
●日本語教育関係のネットワークの状況
2006年12月、ポーランド日本語教師会が、正式に発足した。組織としては、「ポーランド日本研究協会」(学会・非営利法人)のセクションの1つという位置づけである。
母体となった日本語教師会メーリングリストは、2003年10月に作成され、ポーランド国内の日本語教育関係者および大使館関係者約30名が参加し、各種連絡、情報交換に利用されてきた。その後はメーリングリストのメンバーが中心となって自主的に勉強会を開いたり、日本語能力試験に際しては運営面で協力したりしてきた。2006年3月の第27回ポーランド日本語弁論大会からは、共催者として大会に関わり、2007年には、審査基準の見直しを行なった。2009年5月現在、会員数は63名(うちポーランド在住者約50名)である。
●最新動向
2008年7月上旬にアルザスで行われた欧州日本語教師研修会に、教師会会員2名が参加した。引き続き、2009年度も2名の会員が参加の予定。
★教師会・学会一覧へ
●国際交流基金からの派遣(2009年4月1日現在)
日本語教育専門家
日本語教育指導助手
| 日本美術技術博物館京都クラクフ基金日本語学校 |
1名 |
★「世界の日本語教育の現場から」のページへ
●その他からの派遣
2001年頃より民間ボランティア派遣団体 ICEA(International Cross-cultural Exchange Association) より、数名から10名程度、原則1年の契約で派遣されている。2009年現在の派遣先機関は、ワルシャワ商科大学(2名)、ブロツワフ経済大学(2名)、ウッジ工科大学(1名)、ウッジ第二高校(1名)、タルノフスキグゥリェ日本語講座(1名)、レグニッツア空手連盟(1名)である。
2009年より青年海外協力協会(JOCA)の日本文化発信プログラムで6名のボランティアが派遣されることになった。派遣先は、ポーランド日本情報工科大学(ワルシャワ)、ミコワイ・コペルニクス大学(トルン)、ヤギェロン大学(クラクフ)、梅田良忠記念日本文化教育センター(ウッジ)、ポーランド日本協会虹の会(デンブノ)、プウォツクの子どもたち(プウォツク)。

共通の評価基準や試験は存在しない。
高校卒業資格認定試験においても、日本語は選択できない。
日本語能力試験は、1級や2級は、日本語主専攻の学生の目標に、3級や4級は、市民講座や民間の学校で学ぶ学習者の目標になっているようである。