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文法を楽しく
授受表現(1)

 今回と次回は「(て)あげる/(て)もらう/(て)くれる」を中心にした授受表現(やりもらい表現)について取り上げます。「文法をやさしく」の「やりもらい(1)」「やりもらい(2)」(2002年9月・2003年1月)には詳しい説明があります。それらの説明を踏まえたうえで、「授受表現」の少し応用的な面を考えます。
 【問題】が少し難しいかもしれませんが、挑戦してみてください。

1.「(て)あげるvs(て)くれる」

 まず、「(て)あげる」と「(て)くれる」の使い分けについて考えましょう。「(て)あげる」と「(て)くれる」の基本の構造は、皆さんもご存じのように、次のようになります。

a.私(話し手)・他の人 が/は 他の人 に 〜を 〜(て)あげる
b.他の人 が/は 私(話し手)・家族など(ウチのメンバー) に 〜を 〜(て)くれる

 (ウチのメンバー:話し手のグループの者、具体的には家族や会社のメンバーなど)

 aとbの例を挙げます。

a’ 林さんはミランダさんに漢字の読み方を教えてあげた。
b’ 森さんが私にマレーシアの歌を教えてくれた。

 ここでのポイントは、他の人が「私」や「私の家族」などに何かをしてくれた時は、「(て)あげる」ではなくて「(て)くれる」を使うことです。
 では、このことを頭に置いて、次の問題を考えてください。( )内のどちらが適切でしょうか。

【問題1】
(1) 混雑した電車の中で偶然高校時代の友人に会った。少し熱があるとのことでつらそうだった。しかし、誰も気がつかず、席を譲って(あげなかった/くれなかった)。*1

 いかがですか。友人を「他の人」ととらえて、「他の人(乗客)が他の人(友人)に席を譲る」と考えると、「(譲って)あげなかった」になりますね。でも、「(譲って)くれなかった」とも言えそうですね。
 (1)で問題になることは、「友人」は「ウチのメンバー」に入るのか否かということです。友人が「ウチのメンバー」に入るなら、「乗客が友人に席を譲ってくれなかった」も適切になるからです。少し考えてみましょう。
 友人」にも段階があって、(1)のような「偶然会った高校時代の友人」から、とても大切にしている「親友」までありますね。親友なら「(て)くれる」が使えるのでしょうか。

(1)’ 混雑した電車の中で偶然親友に会った。少し熱があるとのことでつらそうだった。しかし、誰も気がつかず、席を譲ってくれなかった。

 微妙なところですね。では、「友人」より親しい(はずの)元カレ(元カノ)はどうでしょうか。

(1)’’ 混雑した電車の中で偶然元カレ(元カノ)に会った。少し熱があるとのことでつらそうだった。しかし、誰も気がつかず、席を譲ってくれなかった。

 これも微妙なところですね。

 たぶん皆さんも気づき始めているように、「(て)あげる/(て)くれる」の使い分けは、「ウチのメンバー」か否かではなく、話し手が「相手の問題を、どの程度自分の問題としてとらえているか」ということに関わっています。話し手が、熱のある友人や元カレ・元カノのことを自分のことのように心配していると、「(て)くれる」が使えることになります。
 以上のことをまとめると、問題1のポイントは次のようになります。
 「(て)あげる」と「(て)くれる」のどちらを使うかは、話し手の心情に関わる部分が大きい。

 では、問題2へ行きます。問題2も「(て)あげる」と「(て)くれる」についてです。

【問題2】
(2) その仕事は大川さんならやれる。大川さんに頼めばきっとやって(あげる/くれる)だろう。*2

 授受表現で大切なことは、「誰が、誰のためにするのか」ということです。(2)は省略があるので、分かりやすくするために会話の形にしてみましょう。

(2)’ ヨン :この仕事、誰に頼めばいいでしょう・・・。
野田 :うーん。難しい仕事だけど・・・、大川さんに頼んだらどう?
ヨン :大川さんですか。
野田 :そう、大川さんなら、きっとやって(あげる/くれる)だろう。

 問題の答えは(2)も(2)'も「(て)くれる」です。しかし、授業でこの問題を取り上げた時、学習者から「(て)あげる」ではないかという質問が出ました。理由は、「他の人(大川さん)が他の人(ヨンさん)のためにするのだから」というものです。
 ここで野田さんが「(て)くれる」を選ぶ心情について考えてみましょう。
 「ヨンさんから相談を受けた。ヨンさんは仕事をやってくれる人を探しているようだ。一肌脱いであげたい*4。そうだ、大川さんを紹介しよう。」
 このように野田さんは、ヨンさんからの相談を自分のことのようにとらえ、大川さんがヨンさんのために「(やって)くれる」と言ったと考えられます。
 また、ヨンさんは野田さんの話し相手なので、「話し相手=あなた」ととらえることもできます。「あなた」は多くの場合、「ウチのメンバー」と同等と考えられるので、「(て)くれる」を用いると考えてもいいでしょう。(例:林さんがあなたにCDを貸してくれた。/森さんがあなたを水族館へ連れて行ってくれると言ってたよ。)
 問題2のポイントは次のようになります。
 話し相手の「あなた」は多くの場合、「ウチのメンバー」に入る。

 では、次に進みます。問題3を見てください。

【問題3】
(3) 市民文化祭は大成功だった。隣の市の人たちも手伝って(あげた/くれた)。*3

 (3)の答えは「(て)くれた」です。しかし、また学習者から、隣の市の人たちが別の市の人たちを手伝ってあげたのだから、「(て)あげた」ではないかという意見が出ました。ここでは話し手(私)がどの市の人間か、そして文化祭とどう関わっているのかが重要ですが、学習者には文面からそれが分からなかったようです。
 もし、話し手と直接関係のない市について話しているのであれば、通常は文頭に、「〇〇市の市民文化祭は」と、市の名前を入れるはずです。名前も入れずに「市民文化祭は」で始まっているのは、それが話し手にごく近い市の文化祭だということを示しています。
 また、関係のない市であれば、「〇〇市の市民文化祭は大成功だったようだ/そうだ/らしい。」のように、推量、または、伝聞の表現を加えるのが普通です。また、そのあとの「隣の市の人たちも手伝って「あげた/くれた」も、文末に「ようだ/そうだ/らしい」が付くほうが自然です。推量・伝聞表現がなく言い切りの形をとっているのは、話し手が文化祭を行った市の市民であるためです。
 このように、発話を聞いた時、話し手自身に関わる事柄を言っているのか、他の人のことを言っているのかは、見きわめが重要です。そして、それは文の中にヒントがあることが多いです。
 では、文化祭を行った市の人が話しているとして、(3)は「(て)あげた/(て)くれた」のどちらが正しいでしょうか。
 答えは「(て)くれた」ですね。隣の市の人たちが自分たちの市の文化祭を手伝ったのだから、「手伝ってくれた」となります。
 問題3のポイントは次のようになります。
 文や文章の流れ(文脈)から状況を考えることが重要。

 今回は授受表現で、「(て)あげる」と「(て)くれる」の使い分けについて考えました。「(て)あげる」と「(て)くれる」の使い分けの基本は、最初のa,bに示した通りですが、それに加えて、次のことも考える必要があることが分かりました。

 「(て)あげる」と「(て)くれる」のどちらを使うかは、

  • 話し手の心情に関わる部分が大きい
  • 話し相手の「あなた」は多くの場合、「ウチのメンバー」に入る。
  • 文や文章の流れ(文脈)から状況を考えることが重要。
  • *1-3 :参考文献より引用。選択肢を一部変更した。
  • *4 :「一肌脱ぐ」は、その人のために、本気になって手助けするの意味。
参考文献
  • 友松悦子・福島佐知・中村かおり(2011)『新完全マスター文法日本語能力試験N1』スリーエーネットワーク

(市川保子/日本語国際センター客員講師)


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