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授受表現(2)

 前回の「授受表現(1)」では、「(て)あげる」と「(て)くれる」の使い分けについて、応用的な部分を見てきました。今回も応用的な部分をもう少し考えます。

2.恩恵・利益の授受から感謝・尊敬の表現へ

 次の会話の状況を想像してください。
 ある日あなたは、友達の林さんが持っているCDを貸してほしいと思ったので、林さんにお願いしました。そして、そのことを他の友達(森さん)に話しました。

(1)
あなた
:CD貸してくれる?
 林
:いいよ。 どうぞ。
あなた
:ありがとう。
 
・・・・・・
あなた
:森さん、林さんにCD貸してもらったよ。
 森
:ああ、よかったね。

 ここで用いられる「貸してくれる」「貸してもらう」は、実際にCDの貸し借りですね。では、次はどうでしょう。

(2)
あなた
:この漢字の読み方教えてくれる?
 林
:いいよ。 ああ、「授受表現(じゅじゅひょうげん)」だよ。
あなた
:ああ、「授受表現」ですね。
 
・・・・・・
あなた
:森さん、林さんに読み方教えてもらったよ。
 森
:ああ、よかったね。

 (2)の「教えてくれる」「教えてもらう」は、物ではなく「教える」という抽象的な事柄のやり取りになっています。抽象的な事柄ではあるけれど、そこには「教えること」のやりもらい、恩恵・利益の授受が存在しています。
 では、次の(3)の会話はどうでしょうか。
 ある日、あなたと林さんは口喧嘩をしました。林さんはあなたの気持ちを誤解したようです。それで、後日、あなたは林さんに自分の本当の気持ちを説明しました。(3)は、自分の気持ちを説明したあとの会話です。

(3)
あなた
:私の気持ち、分かってくれた?
 林
:うん、分かったよ。
あなた
:ありがとう。
 
・・・・・・
あなた
:森さん、林さんに私の気持ち、分かってもらったよ。
 森
:ああ、よかったね。

 会話(3)に出てくる「分かってくれる」「分かってもらう」は、物のやり取りや具体的な事柄のやりもらいではありません。あなたは林さんがあなたの気持ちを理解したことに対して、恩恵・利益というより、むしろ感謝やありがたい気持ちを感じて、「林さんに私の気持ちを分かってもらった」または、「林さんは私の気持ちを分かってくれた」と表現しています。
 このように「〜てくれる」「〜てもらう」などの授受表現は、具体的な恩恵・利益のほかに感謝やありがたい気持ち、さらには相手に対する尊敬・尊重の気持ちを表すこともあります。

 次は、医者と患者の会話です。会話を注意して読んでください。

(4)
患者
:私の病気はどうでしょうか。
医者
:・・・・。
患者
:先生、どんな治療法があるんでしょうか。
医者
:大丈夫ですよ。
私は、患者さんによく説明し、病気の原因や治療法をよく分かってもらってから、今後の治療方針を決めていきたいと思っています。

 難しいところは「病気の原因や治療法をよく分かってもらってから」の部分ですね。これは構造的には、「医者が [患者 病気の原因や治療法を 分かって]もらう」なので、原因や治療法を分かるのは患者で、医者はそれによって感謝やありがたい気持ちを感じ、また、患者に対する尊敬・尊重を表しているということになります。

病院で、医者と患者が話しをしているイラスト

3.「(て)くださいvs(て)あげて/やってください」

 授受表現においては「誰が、誰のためにするのか」という「人の関係」が重要ですが、では、(5)の依頼表現(太字部分)は何人の人が関わっているかを考えてください。

(5)
:Bさん、時間ありますか。
:ええ。
:じゃ、ちょっとこれ、手伝ってください
(6)
:Bさん、時間ありますか。
:ええ。
:Cさんが忙しそうなので、手伝ってあげてください
例文(5)のAとBを表わす図 例文(6)のAとBとCを表わす図

 状況としては、図のように、(5)は 2人、(6) は3人と考えられます*1。 (5)は、話し手が相手に手伝ってほしいと頼んでいる、したがって関わっているのが「2人」に対し、(6)は「Cさんが忙しいから、Cさんを手伝ってほしい」とAさんが頼んでいる、したがって関わっているのは「3人」になります。(6)で、Aさん(話し手)が自分のこととして頼む場合は「手伝ってください」、Cさんのことを中心に考えている場合は「手伝ってあげてください」になります。もし、CさんがAさんの家族などの場合は、「手伝ってやってください」となります。
 もう一つ大切なことは、「くれる」は依頼や命令、意志、願望などの働きかけの表現はとることができません。

  • ×手伝ってくれてください。
  • ×手伝ってくれたい。
  • ×手伝ってくれろ*2

 したがって、「Cさんが忙しいので、手伝ってくれてください」などとは言えません。

 では問題です。会話が少しややこしくなっているので、気をつけてください。

【問題】次の会話を読んで、( )の中から適切なものを選んでください。 (7)
:弟さんは音楽活動のほう、どうですか。
:実は、事情があって、今度やめることになりました。
:えっ、・・そうなんですか。
:それで、ギターがいくつかあるんですが、もしよかったら、もらって(あげて/やって/くれて)くれませんか。
:そうですか。では、記念にいただきます。
男性AとBがAの弟について話しをしているイラスト

答え:やって
 この会話のやりもらい関係には、何人の人が関わっていますか。そうですね。Aさん、Bさん、そして、Bさんの弟の3人ですね。
 では、誰が誰にギターをあげたいと思っていますか。そうですね。BさんがAさんに弟のギターをあげたいと思っているのですね。
 もし、関係がAさんBさん2人だけなら、「もしよかったら、(私のギターを)もらってくれませんか」となりますが、弟が関係しているので、「もしよかったら、もらってやってくれませんか」になります*3。Bさんには、「弟のためにもらってくれたら、うれしい/ありがたい」という気持ちが入ります。

  • *1:ABCが複数の場合も考えられるが、ここでは単純化してABC一人ずつとして考える。
  • *2:一部の方言では、「(て)くれろ」という形式をとることがある。
  • *3:弟が関係している場合でも、Aさんが弟のことを自分のこととして頼む場合は、「もしよかったら、(弟のギターを)もらってくれませんか」も可能。

(市川保子/日本語国際センター客員講師)


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