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授業のヒント
歌を使った中・上級の教室活動
目的
・歌を通してより豊かな日本語の力を養い、同時に日本の文化・社会について学ぶ
学習者のタイプ
・中級、上級
クラスの人数
・何人でも
準備するもの
・歌、歌詞、画像・動画、歌詞を朗読したもの

 『日本語教育通信』第33号の「授業のヒント」で、「日本語で歌いましょう」というテーマを取り上げたことがあります。そこでは授業で歌を使っていろいろなことを教えることができるということを紹介しました。発音、語彙、文法、表現、読解、日本事情などです。授業でどのように歌を使ったらいいかの具体例や参考図書もあげられています。

 一方、歌は1つのレアリア・生教材でもあります。『日本語教育通信』第62号の「日本語の教え方イロハ〜レアリア・生教材」に書いてあるように、レアリア・生教材を授業に使うことによって、学習者の動機づけや実際の言語使用の体験になるばかりでなく、日本の文化や社会に関する情報も提供できます。

 そこで、今回は1つの歌を取り上げ、その歌を使って実際にどのように授業ができるのか、どのような活動をしたらいいかを具体的に紹介したいと思います。

◆取り上げる教材

 教材の例として取り上げるものは、「コブクロ」という男性2人のグループが2004年に発表した『永遠にともに』という歌です。ちょっと古くなりましたが、とてもヒットした歌で、今もよく歌われています。歌詞は以下のサイトなどで見ることができます。

音楽ポータルサイト うたまっぷ.com (2010/03/27参照)
http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=B07837

小渕健太郎(作詞・作曲・ボーカル)と黒田俊介(ボーカル)の頭の2字を取って「コブクロ」。名前のつけ方、名前をカタカナで表記している点、略した語が4拍以内である点も説明してあげるといいかもしれませんね(パソコン、エアコン、留守電、あけおめなどのように)。
◆聞く前に

 歌をすぐ聞かせるのではなく、学習者が持っている知識や情報、経験などを引き出してから聞かせましょう。いろいろ方法がありますが、歌の題名からどんな内容の歌かを想像して言ってもらうのが簡単です。「みなさんは『永遠にともに』という題名からどんな内容を想像しますか?」と学習者にたずねてみてください。答えがすぐに返ってこないときは、「『永遠にともに』とは誰と誰が永遠になんですか?」と具体的に聞いてみるのもいいでしょう。友達同士、恋人同士、結婚相手、夫婦、親子、兄弟、先生と学生…自由に言わせてから、さらに具体的に歌の内容を想像させて言わせます。「コブクロ」の写真・画像、あるいは2人が歌っているところの動画を音を消して見せるのもいいかもしれません。写真・画像はインターネットで検索すればいろいろなものが出てくると思います。例えば次のような画像です。これはカラオケでも使われています。

Music-PV Style (2010/03/27参照)
http://musicmovie.blog48.fc2.com/blog-entry-105.html

 聞く前の作業では教師は答えを言ったり解説したりするのではなく、学習者に歌を聞きたいという気持ちを起こさせること、いろいろなことに思いをめぐらさせることがポイントです。こうすることによって内容の理解が深まったり独自の解釈が生まれてきます。

◆歌を聞く

 いよいよ歌を聞かせます。何回か聞かせながら、歌の理解を深めていきます。1回目は何を歌っている歌なのかが分かれば十分、予想が当たった外れた程度でいいでしょう。この歌は、結婚式の行われる中で新郎の立場から愛を歌った歌なのですが、そのことを確認します。次に、もう一度聞かせてもう少し細かな部分の聞き取りができているかどうか質問します。例えば、「この2人はどこで結婚式をあげていますか?」(答えは「始まりの鐘が今響き渡る」とあるので教会です)のような質問です。「『特別なことはない ただ いつもより少し シャンと(「ちゃんと」の意)した服を着ているだけ 君はとても綺麗だよ』とありますが、花嫁はどんな服を着ていると思いますか?」のような正解のない質問も想像力・日本語力を高めるのにいいと思います。

歌のイメージのイラスト
◆表現・文法など

 歌には、日常ではあまり使わない語彙が使われることがあるので、「かけがえのない」や「木漏れ日」などに注目させるのも、歌ならではの活動です。その他にも、「踏み出す」「響き渡る」「ぶつかり合う」「降り注ぐ」などの複合動詞も、中上級の学習者の学習ポイントになります。その部分を空欄にした歌詞を見せ、歌を聞いて書き取らせることも1つの方法です。

 文法などに注目させることもできますが、中上級のレベルでは「だ体」に慣れることや「そんな出逢いだからこそ」の「こそ」の用法でしょうか。

 また、歌詞を配って表記のことについて触れることもできます。『永遠にともに』では題名の「永遠」を「とわ」と読ませています。こうしたことは歌ではよくあることです。この歌に出てくる「運命」は「うんめい」ですが他の歌では「さだめ」と読ませたり、「瞬間」を「とき」と読ませたりすることがあるという補足説明をしてもいいでしょう(他の例としては、「時間」を「とき」、「都会」を「まち」など)。漢語と和語では響きやイメージが異なることを紹介し、その違いを意識させたり感じられるようにしてあげましょう。一方、「おもいで」が「想い出」、「であい」が「出逢い」と表記されていますが、「思い出」「出会い」とどうニュアンスが違うかについて触れることもできます。さらに、「抱き」を「だき」ではなく「いだき」と読ませているのはニュアンスの違いだけではなく、リフレイン中の他の言葉に合わせるために3拍にそろえていることに注意を向けさせることも大事です。

◆聞いた後で

 学んだ表現を定着させるために、話したり書いたりする活動を中心に行います。また、日本文化や日本事情について説明したり考えさせたりすることもできます。いろいろな活動が考えられますので、箇条書きにしてみます。

・感想
 中上級の場合は、思ったことをただ並べて言わせたり書かせたりするのではなく、どうしてそのような感想を持ったかを、なるべくくわしくわかりやすく説明できるように指導しましょう。

・気に入った言葉や表現の発表
 気に入った言葉や表現は心に残りますし、自分のものになります。お互いに発表することで、自分のだけではなく友達の発表した言葉も印象に残るでしょう。感想と同じように理由とともに言わせるのが効果的です。

・使いたい言葉・表現を使っての短文作り
 気に入った言葉や覚えた言葉・表現を使ってみたいと思う学習者は多いと思います。そんな人達には短文を作って発表してもらうといいでしょう。短文作りは、文が正しいかどうかだけではなく、どんな時、どのような場面で、誰に使うかなどもチェックしなければならないのでノンネイティブの先生にとっては難しい作業だと感じられるかもしれませんが、とても大事な活動ですのでできれば取り入れてみてください。

・替え歌作り
 替え歌を作ることは歌の理解はもちろんのこと、日本語力・創造力を磨くよい練習です。ただ、全部作るのはとても難しいです。この歌だったら、リフレインの部分の「共に」の後に続く言葉を自分で考えて言ってもらうのがいいでしょう。はじめは条件をつけず自由に「共に料理を作り」、「共にペットと遊び」、「共に友達と語らい」などと作らせた後、条件をつけて3拍の言葉に限らせます。「共に夢見」、「共に旅し」などというようにです。

・朗読の練習
 歌を歌うのが好きな学習者はすぐに覚えて歌いたがるでしょう。そういう学習者は教師が何も言わなくても表情や身振りをつけたりして感情豊かに歌ってくれるでしょう。けれども、中には発音に問題があるためにせっかくの熱唱がちょっと残念に思われたりすることがあります。声に出して歌うだけでなく、歌詞の「朗読」を通して発音に注意を向けさせるのもいい練習になります。朗読なら歌を歌うのが嫌いな学習者でも積極的に取り組めます。もし、身近にネイティブの人がいたら、テープやCDに録音してもらうといいでしょう。1回目はゆっくり、2回目には普通のスピードで読んでもらったものを聞かせて、何回も練習させましょう。*

* ネイティブの人に録音してもらえない場合は、以下のサイトにアクセスしてみてください。
わいわい日本語(YYnihongo)」 2010/03/27参照

・日本文化・日本事情
 日本文化や日本事情についても扱うことができます。テーマとしては、結婚、結婚式、歌謡曲(J-POP)などが考えられます。例えば、「生まれた時は神社、結婚する時は教会、死んだ時は仏式」という日本人の宗教観について発展させ、それについて調べたり、ディスカッションしたりするのもいいでしょう。また、結婚パーティー(披露宴)でお祝いとしてよく歌われている歌について扱ってもおもしろいかもしれません。長渕剛の「乾杯」、安室奈美恵の「Can you celebrate」、そしてこの曲、さらには最近歌われている一青窈の「ハナミズキ」などがあります。それぞれの歌の内容の比較や、その歌が披露宴でよく歌われた時代背景について考えてもいいでしょう。また、この歌を歌ったコブクロは2005年に「蕾」という歌でレコード大賞を取りその年の大晦日の「NHK紅白歌合戦」に初出場したのですが、「レコード大賞」や「NHK紅白歌合戦」について説明するのもいいかもしれません。

 以上、この歌を使ってどのような活動をしたらいいかを具体的に書いてみましたが、こうした使い方のいくつかは他の歌にも応用することができます。みなさんも是非授業で歌を使ってみてください。ただ、この歌のように様々な活動が可能になる歌を見つけるのは、そんなに簡単ではありません。筆者が授業で歌を使う時は、歌自体は全部聞かせますが、何かに焦点を当てて、例えば、表現や文法だったり、その後のディスカッションの題材にするためなど、目的を絞って使うことが多いです。ワンポイント的な使い方でも十分効果があります。いい授業案・活動案ができたら是非送ってください。楽しみにしています。

【参考情報】
『日本語教育通信』第33号の「参考文献」で紹介されているものを除く。

  • Peter Tse, Seigo Nakazawa.(1995)”Sing Japanese, 1st ed., cassette tape”. Kodansha International/Distributed in the U.S. by Kodansha America, 1995.:歌手の紹介、1行ごとの英訳、語彙力・漢字力アップの項、文法の説明・練習の項などで構成。カセットテープあり。
  • M.J.アイナン,金子栄美(2002)『Learning language through lyrics, 歌って上達日本語会話v. 1.』凡人社、 M.J.アイナン、片岡パトリシア A.(2004)『Learning language through lyrics, 歌って上達日本語会話v. 2.』凡人社歌詞(ローマ字翻字を含む)、英訳、語彙表、文法説明などに加えアーティストのプロフィールとディスグラフィーを掲載。CDなし。
  • 寺内弘子(2001)『歌から学ぶ日本語』アルク文法を教えるための歌とその活動例。CD付。
  • 濱田美和(2003)「日本語学習者のための日本の歌」『2002-2003年度日本学術振興会科学研究費補助金(若手研究(B))「日本語学習を支援するための音楽教材の開発」報告書』日本語の童謡、唱歌、童歌等を難易度順に8つのレベルに分類。語彙表(英訳付)、楽譜、CD付。
  • 吉田千寿子(2006)『日本語で歌おう!』アスク語彙・文型・文化などを教えることを主目的に編集。オリジナルの歌があるのが特色。CD付。

(白井桂・来嶋洋美/日本語国際センター専任講師)

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