国内上映事業 アラブ映画祭2007 シンポジウム アラブ映画は一枚岩ではない 遥かな日本

「アラブ映画祭2007」

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アラブ映画祭2007 「アラブ映画シンポジウム」採録

アラブ映画は一枚岩ではない
アラブ映画シンポジウムの写真
2007年3月11日、赤坂・OAGホールにて

  • ゲスト:
  • アブドゥッラー・アル=ムヘイセン(サウジアラビア/『沈黙の影』監督)
    ナーセル・カミール(チュニジア/『バーバ・アジーズ』監督)
    アハセイン・ビンゼラーリ(アルジェリア/『インターネットの扉』主演)
    佐野光子
  • 司会:
  • 石坂健治(国際交流基金)
  • 通訳:
  • ナジーブ・エルカシュ

遥かな日本

司会: 話題をがらっと変えますが、カミールさんは日本文化にお詳しいので、日本というものについて伺ってみたいと思います。映画や文学などを通じて、日本とはどのようにお付き合いいただいたのでしょう。
カミール: 日本映画は、溝口健二と黒澤明の作品を見ました。黒澤も好きですが、一番好きな監督は溝口健二です。最初に見たとき私は15歳でしたから、おそらくそんなによく理解していなかったかもしれません。私にとって溝口の美学は圧倒的な力を持っています。極めた美にはこの世とは違う世界とつなげる力があります。  その後、だいぶ後になって再び見た時はもっとよく理解できたと思います。なぜかというと、もう日本の文学も読んでいましたから。川端康成、谷崎潤一郎、夏目漱石などの作品もよく読みます。あまりにも遠いところの話だからこそ、身近に感じます。

俳句の翻訳も読みました。フランスでは歌舞伎のような日本の伝統芸能を見ることもできましたし、尺八などといった伝統的な音楽演奏も聞く機会もありました。様々なものを見ることができましたし、日本の芸術がフランスの20世紀の絵画に与えた影響も知っています。本当にたくさんの交流の機会がありましたので、語り始めるときりがないです。
司会: 『インターネットの扉』の中に、“日本人”と名付けられた羊が出てきます。“非常に勇敢だ”という意味の名前だそうですが、ビンゼラーリさんと日本との関わりはいかがでしょう。
ビンゼラーリ: あの羊は“闘羊”で、他の羊と戦う羊です。非常に強い無敵の羊で、日本の電気製品のように壊れない、ということでこの名前になったのだと思います(笑)。私たちの国では諺みたいなもので、「日本製品であれば目を閉じて買っても大丈夫」なんて言うことがあります。日本製品は絶対問題のない製品、そして日本人のイメージも真面目でとにかく非常に良いイメージがあります。
アル=ムヘイセン: 一般的にアラブ圏では、日本人は好かれています。日本は第二次世界大戦後、短期間で急激な発展を遂げました。日本文明が前向きであることには非常に憧れを感じます。そして20世紀にわたって、日本人の人類に対する貢献は素晴らしいと思います。他国への支援などでも、お互いに人間的な価値観を持ったらまさに無敵であると思います。アラブ人にとって良い見本ですし、私たちもそういう存在になりたいですね。つまり奪う存在ではなく、与える存在になりたいと思います。
司会: 日本人として襟を正さなくてはと思いました。では日本映画は、中東諸国でどんな作品が見られているのでしょう。
佐野:

佐野光子 私のいるレバノンは在留邦人が60人以下ということもあり、日本関連のイベントは活発ではありません。もっとも活発なのは、ジャパンファウンデーションの事務所があるカイロで、毎週木曜日とか決まった曜日に日本のクラシック映画がアラビア語の字幕付きで上映されています。また「カイロ子供映画祭」というのが何年か前にあり、オープニング作の『千と千尋の神隠し』(01)は、その後レバノンの会社が配給して一般公開されています。

先日、私も参加したのですが、ヨルダンのアンマンでおそらく初めての試みである「日本映画週間」が開催され、オープニングとして北野武監督の『HANA-BI』(98)が上映されました。120人くらいの観客が来ており、簡単なあらすじや背景を説明した後に見ていただいたのですが、暴力シーンに辟易された方が多いという印象を受けました。それと心中ですね。日本人もモラルとしては心中を正当化しませんが、「曽根崎心中」などを通し、心中というテーマをアートの形式として受け入れてきた経緯があるので、それほど抵抗はない、と説明したのですが、上映後に、日本人はああいうものを好むのか、という質問が長く続き、やはり心中というテーマはショッキングだったようです。

では、私からアル=ムヘイセン監督にお聞きしたいのですが、最近アラブの新聞を見ますと、監督の『沈黙の影』の他にも、サウジアラビアの若い監督が短編映画やドキュメンタリー映画を撮っていて、映画祭などで上映されています。今後サウジアラビアで映画産業が成り立つ可能性は、監督個人から見ていかがでしょう。

アル=ムヘイセン: 近いうちに産業が成り立つというのは、非常に難しい。インフラ整備などは長い時間がかかると思いますが、とりあえずその道を私たちは歩き始めています。今の世の中では映像は非常に重要な位置を占めているので、これから良い方向に行くのを期待していますが、すぐに産業に結びつくのは難しいでしょう。

サウジアラビアでの映画作りはまだ「産業」とは呼べないので、「映画的な体験・実験」と呼びたいと思います。しっかりした映画作りではないけれども、近づいてきています。それは日本のテクノロジーのおかげです。最近は日本が出した質の高いデジタルカメラのおかげでそういった実験ができるようになりました。
司会: 日本製のデジタル・ハード機材についてですが、06年の東京国際映画祭でジャパンファウンデーションは、「マレーシア映画新潮」という特集を共催しましたが、そのとき全く同じ話が出ました。つまり低予算のデジタル製品が出てきたおかげで、マレーシアでもニューウェーヴが起こっているのですが、日本の機材が一役買っている、という話でした。地域を越え、そういう面で日本が出てくるのですね。

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