イルホム劇場[ウズベキスタン] プーシキン原作『コーランに倣いて』

イルホム劇場[ウズベキスタン] プーシキン原作『コーランに倣(なら)いて』のタイトル画像

この作品の記録映像が国際交流基金で上映されます(2011年3月26日)
国際交流基金招へい・制作 現代演劇作品記録上映シリーズ 
記録映像で見るアジア現代演劇―― 1990年代から2000年代
へ」

マルク・ヴァイル氏の逝去について(2007年9月12日)

イルホム劇場の演出家マルク・ヴァイル氏によるレクチャー(2006年10月、
会場:国際交流基金(ジャパンファウンデーション))の記録が、
TIF(東京国際芸術祭)のWebサイトTIFポケットブック」に掲載されました。

松本公演をご覧になった河野孝氏(日経新聞文化部)によるレビューが、
TIF(東京国際芸術祭)のWebサイト「劇評通信」に掲載されました。

Blog公式Blogでは、ご覧になった方のコメントを掲載しています。

1.はじめに / 2.公演日程 / 3.イルホム劇場 /
4.プーシキン原作「コーランに倣いて」 / 5.演出 / 6.音楽 / 7.お問い合わせ


1.はじめに

寛容、あるいは歓待-いま、中央アジアの<闘う演劇>が問いかける
ジャパンファウンデーションは、日本における初めての中央アジア現代演劇の紹介として、ウズベキスタンのロシア語劇団「イルホム劇場」を招へいします。同劇団は、ペレストロイカ前の旧ソ連で「不同意の演劇」と呼ばれ、ソ連解体後の中央アジア演劇界を牽引する存在として、世界の注目を集めています。
上演作品は、ロシアの文豪プーシキンがイスラムの聖典コーランに触発されて書き、ソ連解体後の見直しの中で再評価された同名の長編詩を題材としています。2年の熟考を経て作品が完成したのは2001年8月、奇しくも9.11事件の直前でした。
ビデオ・アート、伝統音楽をベースにしたロック調のライブ演奏が強烈な印象を残します。シンポジウム、本公演で弾き語り演奏を行うミュージシャンのコンサートも開催します。

概要
原作 アレクサンドル・プーシキン
演出 マルク・ヴァイル
作曲 アルチョム・キム
振付 オリムジョン・ベクナザロフ
美術 ヴァシーリー・ウリエフ
衣装 タラス・ヴォリコフ
ビデオアート ドミトリー・コロプキン

上演時間約1時間40分。ロシア語上演、日本語字幕付。英文解説配布予定。

2.公演日程

長野公演
日時: 2007年3月3日 土曜日 14時 公演
3月4日 日曜日 14時 公演
終演後、ポスト・パフォーマンス・トークあり。マルク・ヴァイル(イルホム劇場演出家)、串田和美(まつもと市民芸術館芸術監督)予定。
会場: まつもと市民芸術館 実験劇場
料金:     全席指定(税込) 3,000円
共催: まつもと市民芸術館
東京公演・コンサート (東京国際芸術祭(TIF) 参加)
日時: 2007年3月8日 木曜日 19時 公演
3月9日 金曜日 19時 公演
終演後、ポスト・パフォーマンス・トークあり。マルク・ヴァイル、宇山智彦(北海道大学スラブ研究センター教授)予定。
3月10日 土曜日 14時30分 公演
16時30分 シンポジウム(入場無料、要申込)
「ソ連解体後の中央アジアにおける新しい文化をめぐって」
マルク・ヴァイル、貝澤哉(早稲田大学教授)、内野儀(東京大学教授)、鵜飼哲(一橋大学教授)、鴻英良(演劇評論家)予定。
3月11日 日曜日 14時30分 本公演で弾き語りのミュージシャンによるライブ
*ミュージシャンの変更について
ラフシャン・ナマゾフに替わり、シャフカット・マチヤクボフとミラズィム・ミルジャリロフが日替わりで出演いたします。
会場: パークタワーホール(新宿)アクセス
料金: (全席自由・日時指定・税込)
[公演] 一般4,000円、学生2,000円
[コンサート] 一般3,000円、学生2,000円
[セット券(公演+コンサート)] 一般5,000円、学生3,000円
チケット取扱: 電子チケットぴあ Tel:0570-02-9999 (Pコード374-127)
ぷれいす Tel:03-5468-8113
東京国際芸術祭(TIF)
*セット券については、ぷれいす及び東京国際芸術祭(TIF)にて取り扱います。
共催: NPO法人アートネットワーク・ジャパン

3.イルホム劇場

イルホム劇場の写真

イルホム劇場は、演出家マルク・ヴァイルによって、1976年にソヴィエト連邦(当時)のタシケントに創立されたロシア語劇団です。当時、タシケントはモスクワ、レニングラード、キエフに次ぐソ連第4の都市で、且つ、モスクワと並ぶ演劇の中心地でした。
「インスピレーション」を意味するイルホムの名を冠したこの小さな劇団は、ソ連における初の独立劇団として歴史を刻み始めました。現在の劇団員はロシア系を中心に、ウズベク系、ウイグル系、朝鮮系と様々で、東西の十字路であったタシケントの歴史を感じさせます。

劇団創立当時のソ連はブレジネフの「停滞の時代」で、厳しい検閲のもと、ソルジェニーツィンをはじめとする多くの優れた作家の追放・亡命が相次いだ時期でした(ちなみに、発禁になった「ガン病棟」はタシケントが舞台です)。

その中にあって、独立劇団の誕生はおよそ考え得ない「事件」でしたが、政府お仕着せの演劇に飽き足らない俳優たちが、自由を求めて、国営劇場の公演がはねた後、夜遅くにイルホム劇場に参集して自分たちの芝居を演じ、それを知る多くの観客が夜毎イルホムに集まりました。こうして、イルホムの名は、タシケントのみならず、ソ連全土に知られました。
80年代後半に入り、ゴルバチョフによるペレストロイカ、引き続き91年には、ソ連解体と同時にウズベキスタン共和国成立を見ますが、イルホム劇場を取り巻く演劇の歴史は、これら一連の政治体制の変化の断章でもありました。

タシケント市内中心部に劇場を構えるイルホム劇場は、毎年9月から翌年6月までをシーズンとし、ほぼ毎晩、新作・旧作の上演を続けるほか、イタリア、オランダ、ドイツ、ロシア、フランス、アメリカなど、これまで15カ国にほぼ毎年ツアーを行なっています。
2006年も、5月にモーツァルト生誕250年を記念してウィーンで行なわれた「Verhoellモーツァルト・イヤー」フェスティバルで、「マシュラブの飛行」(同時期に生きた有名なスーフィー詩人マシュラブとモーツァルトを遭遇させて描いたマルチ・メディア作品)を初演、7月にはロンドンのバービカン劇場で「白く白く黒いコウノトリ」(19世紀末のタシケントを舞台にした、少年の同性愛とイスラーム社会の軋轢を描いた作品)を上演しました。

海外との交流も盛んで、1993年には“Theatre: East-West”と題する国際演劇フェスティバルを敢行。日本からは転形劇場「水の駅」が参加しました。その時にタシケントを訪れた故・渡辺浩子氏(元新国立劇場芸術監督)は、イルホム劇場の作品「幸福な乞食たち」について、「次々とエピソードが繰り広げられるのだが、舞台は一瞬にして流れを変え、あふれ、雄弁に語りかけてくる。ほとんどテキストがあるとは思えない即興性、それでいて芯のところに演劇の伝統がしっかり根付いている」と評しています。

4.プーシキン原作「コーランに倣いて」

コーランに倣いての画像1

ロシア近代文学の父と称されるアレクサンドル・セルゲエヴィチ・プーシキン(1799-1837)の同名の詩を題材とする作品。ソ連からの独立の機運が高まった時、タシケント市内にあったゴーゴリやゴーリキーなどロシア文学者の像はことごとく破壊されましたが、プーシキンの像だけはそれを免れました。

プーシキンはモスクワの名門貴族の出ではありますが、母方の先祖はエチオピアに辿り、「そのアフリカン・ルーツゆえに、一種のエニグマとみなされていた」(マルク・ヴァイル)からだと言います。プーシキンには、非ロシア世界を扱った作品がいくつかあり、コーランに触発されて書いたこの詩もその一つです。

タシケントには、1400年以上も前のコーランの写本が残されていますが、イスラーム教徒が優勢を占めるタシケントの人々はアラブ語を解さず、母語たるロシア語で書かれたこの詩を、特別な思いをもって受け入れたのでした。ギリシャ正教の世界にいたプーシキンは教会冒涜的な詩をいくつも書いており、発禁処分を受けましたが、それらの詩も、ソ連解体後に見直しが始まり、この詩は特に、イスラームとロシアの関係を考える上で重要なものとして注目を集めています。

コーランに倣いての画像2

本作品の初演は2002年2月、タシケント。2年間にわたる制作の終盤で奇しくも9.11事件が勃発、イスラーム保守派からはコーランを舞台に乗せること自体を糾弾され、反イスラーム派からはテロと関連づけて批判されるという事態が起こりましたが、タシケントでは今日まで毎シーズン繰り返して上演されています。

2002年5月には、ドイツの「ルール芸術祭:レクリングハウゼン・ヨーロッパ」フェスティバルに招かれ、「世界に名だたるイルホム劇場が、またもや禁断のテーマに挑んだ。コーランとその思想に息を吹き込むと同時に、コーランの教えを独自のやり方で翻訳してみせた」と評されました。
モスクワ、米国(ロサンゼルス、アリゾナのツーソン)にも招へいされ、話題を投げかけました。

作品は、ビデオ、ライブ演奏、ダンスの融合したマルチメディア・パフォーマンスの形を取っています。一人の詩人(映画監督でもある)が映画の撮影をするという設定で、ストーリーがあるわけではなく、預言者、偽預言者、老人、女性、ナイトクラブの女、といった象徴的人物を登場させて、コーランの神学的問題や人間の原罪についてのプーシキンの詩句を読み解いていきます。

5.演出

マルク・ヴァイルの画像

マルク・ヴァイル
1952年、タシケント生まれ。
72年から75年にかけて、レニングラード(現サンクト・ペテルブルク)のゴーリキー記念(現在はトフストノーゴフ記念と改称)ボリショイ・ドラマ劇場の芸術監督ゲオルギー・トフストノーゴフ、モスクワのタガンカ劇場のユーリ・リビューモフ(2005年に「メデイア」日本公演)の下で演劇を学び、74年に国立タシケント芸術学院から歴史と芸術理論、83年に演出で修士号取得。
76年にイルホム劇場を創立し、以来、芸術監督を務め、中央アジアの演劇を牽引しています。

プーシキンの連作詩「コーランに倣いて」は、創造の自由とは何か、その手本を身をもって示しており、また、基本的には人類史全体に帰属する永遠の書物に、どうしたら先入観を持たずに向き合えるのかを模範的な形で示している。
プーシキンのテキストによって、われわれ、つまり、私と私の劇団は、つい最近まで、私の触れることのできなかった、あるいは私には閉ざされたものに思えた世界観と対話することが可能になった。
~マルク・ヴァイル「コーランに倣いて」演出ノートより

劇場を訪れる世界の演劇人のサイン
海外の演劇関係者からの信望も厚く、同劇場を訪れる世界の演劇人のサインは、劇場の壁を埋め尽くし、訪れた人の目を楽しませています。

6.音楽

作曲はアルチョム・キムとラフシャン・ナマゾフ。ミュージシャンたちによるライブ弾き語りが本作品の大きな魅力になっており、この機会にコンサートを併催いたします。

弾き語り
アルチョム・キム氏画像

アルチョム・キム
1976年、ウズベキスタン生まれ。国立音楽院在学中より非凡な才能を発揮。その作品は世界各地で演奏され、注目を集めています。代表作として、「プーシキンの生涯からの断章」、「プリペアード・ギターのためのエチュード」他。劇音楽にも才能を発揮、イルホム劇場の作品の多くを手がけるほか、モスクワの演劇界でも活躍中。
2007年1月、ジャパンファウンデーションが海外公演主催事業として実施する、イラン・ウズベキスタン・インド・日本共同制作演劇 「演じる女たち─メデイア、イオカステ、クリュタイメストラ」でも、音楽を担当しています。
2007年2月、オランダの打楽器フェスティバル<The Big Bang>にて、武満徹とならびキムの作品が演奏される予定です。

7.お問い合わせ

国際交流基金(ジャパンファウンデーション) 文化事業部 舞台芸術チーム

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