コラム:いよいよ通し稽古

8月20日~8月30日にベトナムのハノイで約2週間のワークショップを行いました。以下ワークショップのレポートです。

8月29日(木曜日)

コンサートの冒頭を飾るオープニングの稽古からのスタートです。

まず、一度、曲の頭から終わりまで通してみました。各国、声や太鼓を使っての個性豊かな音色とリズムがつながれていきます。ラオスチームの登場以降はベースのリズムが刻まれているタイのクリスさん(ヴォーカル)、ベトナムのミン・チーさん、のソロが続いてタイのトサポーン・タサナさんへと続きます。ラオスの終わりからクリスさんへのつながり、クリスさんの終わりからミン・チーさんへの繋ぎが曖昧だったため、頭と終わりをはっきりさせて次に繋げる稽古をしました。

続いて、久々の稽古となるコンサートを締めくくる楽曲、エンディングの稽古です。リズムキープとベースのリズムのアタック、スタッカートに鋭さがなく、ベースの太鼓チームでなんどか繰り返して稽古しました。皆、どうしてもまだスコアを見ながらの演奏となり、アイコンタクトで間やリズムを合わせる、一緒に奏でる、というところまでたどり着かずにいる状態。

大島さんからは、間違っても良いので楽譜を見ずに周囲と息を合わせること、音楽を感じることが大切、というコメントが繰り返されます。また、休憩中にタイのトサポーン・タサナさんから、個人練習の際には必ずメトロノームを使うよう、確認したほうが良いとアドバイスがありました。トサポーン・タサナさんは西洋音楽も学び、伝統音楽だけでなくジャズやロックなど幅広い音楽にも精通していて、時折、このように皆に対するアドバイスを、投げかけてくれます。トサポーン・タサナさんいわく、このWSに参加するにあたり、事前にスコアと音源が配られていたので、ベトナムに入るまでにそれを覚えてきていないなんて、信じられないと。

国によって、あるいは演奏者によってなのかもしれませんが、事前準備に掛ける時間と労力は千差万別です。

午後は、これも久々の稽古となるクリスさんの楽曲。歌うたびに歌詞を少しずつ変えているのか、途中、詰まったり声が聞こえなくなったり、クリスさんの歌がどうも安定しません。大島さんの提案で、サビの部分の後半の一部を合唱してみることにしました。歌詞はタイ語で書かれているので、タイ語が分かるタイのトサポーン・タサナさんと、ラオスのセントン・ブッサディさん、プサヴォン・サクダさんがコーラスに参加することになりました。

そして、いよいよ、オープニングからエンディングまで続けて演奏してみる、粗通しです。プロデューサーの伊藤さんからの構成案を、大島さんとスタッフでさらに練って仮案として出した曲順で、試してみることにしました。

演奏者は、曲順は何も知らず、今、ここで聞かされた、という状態です。休憩中に書かれた演目順を確認しながら、一曲終わって、皆が準備できたら次の曲、というように進めていくなかで、ミャンマーの通訳がこちらにやってきて、あの曲とあの曲の間に、ミャンマーのアカダミ・ミャンマーピ・チャウ・セインさんが弾くサイン・ワインのチューニングが必要とのコメントが。急遽、大島さんと前後の調整をして順番を入れ替え、曲は続いていきます。

カンボジアのチャンナさんの舞踊が見所のコットンダンスも、その前後で着替えが必要とのことで、急遽、前後の入れ替えが。コットンダンスを入れ替えたことで今度は日本の堀つばささんが演奏する大太鼓の後の衣装替えの時間がない、などなど、課題は残りましたが、一通り、最後まで通してみました。

少し休憩を挟んで、それぞれの不都合や懸念をヒアリング。

タイのトサポーン・タサナさんから、自分の曲の後で息が切れている中でブルネイの歌が主体の曲に参加するのは厳しい、との意見。ベトナムのマイ・リエンさんからはミャンマーのアップテンポな楽曲でトゥルン(竹製の音階楽器)を演奏した後で、ゆっくりとしたバラードの歌から始まる自分の曲に入るには少なくとも5分は必要とのこと。また、日本の堀さんと大島さんの判断で箏を無くす、ということが決まったようで、箏を使っていた楽曲はミャンマーのボ・トゥ・レインが演奏するチー・ワインで旋律をサポートする、ということでまとまりました。箏がなくなることで、ベトナムの楽曲でカンボジアのチャンナさんが担当していた金物のベース楽器を堀が演奏することになり、チャンナさんの踊りの曲の前に衣装替えの時間がとれることになりました。

まだ、曲間の転換や演奏者の出入り、舞台裏での準備や楽器、人の移動、マイクの移動、など詳細についてはこの後、リハーサル会場をハノイ音楽院の小ホールに移してシミュレーションしますが、今日、何とか一つのストーリーが見えてきて、スタッフを含め大島さんも少しほっとしたようです。

粗通しの後で、皆疲れているなか、ブルネイのスラマット・ダンガンと、ラオスのラムサラバンの集中稽古が行われました。

スラマット・ダンガンは振り付けの要素が少しあるため、どうしてもターを上げる/下げるタイミング、角度などの不揃いが気になります。そもそも、8名の演奏者それぞれが異なるリズムをたたき、一つのリズムを作っているので、ビートの刻み方がひとぞれぞれになってしまっていたので、まず、ビートの頭のカウントの確認、その後でターの持ち方たたき方、収めるときの角度など確認しました。

ラムサラバンは、コーラス部分の変更の確認を中心に、2~3度繰り返され、本日の稽古が終了しました。

8月30日(金曜日)

昨日、これまで練習してきた14曲すべてを通して演奏してみて、プログラム全体のバランスを考慮し、楽器編成やリズムパターンなど幾つか変更箇所が出てきました。大島さんは、変更箇所を反映した楽譜を作り直し、朝、そのパート譜をプリントアウトして演奏者に配り、合わせ稽古をしました。

ベトナムの竹の音階楽器、トゥルンが主役の楽曲では、昨日まで日本の堀さんが担当していた箏のパートは、ミャンマーの楽器で小中サイズにゴングをマレットで叩くチー・ワインで試してみることになりました。ボ・トュ・レインさんが演奏するチー・ワインのモチーフがきっかけでベトナムのマイ・リエンさんの歌が入る、歌終わりでチー・ワインのモチーフが入る、という繰り返しで、ほぼ初見での演奏でしたが、何度か繰り返すうちに歌との呼吸もあってきました。また、手の空いた堀さんは、プログラムの構成上、その曲で衣装替えをしなければいけないカンボジアのチャンナさんが担当していたチンを担当。曲のなかではリズムをキープする楽器です。

練習を繰り返す中で、ミャンマーのアカダミ・ミャンマーピ・チャウ・セインさんが演奏するサイン・ワインの音がアドリブで入ってきます。チー・ワインだけの音だと少し硬いところ、サイン・ワインの柔らかい音とのユニゾンとなるとやさしい音になり、急遽、アカダミ・ミャンマーピ・チャウ・セインさんにも加わってもらうことになりました。

午後はお昼休憩の後で、2回目の通し稽古をしました。昨日やってみて、衣装変えやチューニング、呼吸を整える時間、など考慮し、再構成されたプログラムでオープニング曲からエンディングまで通してみました。まだ、プログラムが完全に決まってないなかで、次は何の曲なのか、皆、ホワイトボードに書かれた順番を確認しながら演奏を進めています。

明日からは、ハノイ音楽院の小ホールでの舞台稽古です。休憩を挟んだ後、大島さんからのコメント、確認が必要な楽曲の部分稽古をして、その後、皆で小ホールの場所を確認しに行きました。このホールは内装工事中で、一階部分は何もない状態。水道も使えない状態で、お手洗いに行くときは一度外に出て隣の建物に行かないと行けません。それでも、実際に客席がある舞台で稽古させてもらえるのは大変ありがたいところで、本番に近い形で楽器を配置したり、出履けのシュミレーション、サウンドチェック、演奏者もスタッフも本番を想定した各種準備ができる、というところで舞台稽古はとても重要な役割を果たします。

8月31日(土曜日)

演奏者は午後1時入り、スタッフは9時から楽器と音響機器、その他物品の引越し作業です。ハノイ音楽院の中の同じ敷地内とはいえ、屋根つながりではない教室からホールへの引越し。ハノイの音響チームの方で4~5名、楽器や備品の移動のために5名ほどのお手伝いのかたがいらっしゃって、皆、汗だくになりながらの作業となりました。すべての機材を小ホールに移した後、お昼休憩の間に大雨が。引越し作業中は幸い、天候にも恵まれましたが、危機一髪、という感じでした。

13時。演奏者がホールに集まりました。まず、残りの数日をより充実した内容にするため、WS中は演奏者も通訳の皆さんもステージ上、および客席内では携帯電話やスマートフォンでの通信を禁止にする旨を、国際交流基金の玄田さんが説明しました。続いて、運び入れられらた楽器の荷解きです。ホールに移動したことにより、大幅に位置が変わったベトナムの竹楽器トゥルン、また、タイの木琴のラナートも、左右のバランスをみて上手から下手に移されました。また、ステージ中央のカンボジア+ブルネイのユスリさんによりベースのドラムチームは、日本の掘さんの提案で多少角度をつけてV字に並ぶようセッティングをしてみました。Vになることによって、奏者同士のコミュニケーションがより豊かになる、といのが狙いです。

楽器配置、ほか、音楽監督の大島さん、補佐の堀さん、ディスカッションが続きましたが、スケジュールを調整し、ブルネイのスラマット・ダンガンの稽古と、その後でオープニングの各国の登場について確認をすることになりました。スラマット・ダンガン稽古では、カンボジアのチャンナさんが振り付けのパートを指導。カンボジアでは舞踊と音楽は密接な関係にあり、チャンナさんは演奏者である上に舞踊の先生でもあります。ハドラチームはそれぞれ、ターの角度、姿勢などチャンナさんのアドバイスを活かしつつ、一つの楽曲としての完成度を高めていきました。もちろん、会場ごとに条件は異なりますが、小ホールに移り、演奏者は、客席登場、階段の位置、もしかしたらこうなるかも、という状況を想定した上での、”今回は”という状況を体験できたのでは、とても重要なことでした。

その後は今日、先ほど日本から到着した音響の新田さんを向え、各国、各楽器のサウンドチェックを行い、サウンドチェック終了次第、それぞれ、ホテルに戻りしました。そんな中、タイのトサポーン・タサナさんはこの後ここで稽古ができるか、と聞いてきて。もちろんできる、と伝えたところ日本の堀さんとのデュオが練習したかったようで、サウンドチェックの後で20分ほど、彼らは稽古を続けていました。とても熱心です。

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 アジア・大洋州チーム
担当 : 玄田・松永
電話 : 03-5369-6062

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