第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2012 日本参加

第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2012

国際交流基金 (ジャパンファウンデーション) は、12/1~12/31まで、ダッカ市のバングラデシュ・シルパカラ・アカデミーで開催される現代美術の国際展「第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2012」において、日本公式参加の主催者として日本の作家2名を紹介します。

第15回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ2012において、
小泉明郎氏が最優秀賞を受賞しました。

小泉氏の受賞コメントなどはこちら【PDF:269KB】

全体概要

会期 2012年12月1日 土曜日 から 2012年12月31日 月曜日
主催・会場 バングラデシュ・シルパカラ・アカデミー

バングラデシュビエンナーレ 1981年にアジア14カ国の参加を得て開始されたアジアで最も歴史ある現代美術の国際展の1つです。主催するのは、バングラデシュ文化省所属の国立美術・舞台アカデミー「バングラデシュ・シルパカラ・アカデミー」です。ビエンナーレはこれまでほぼ2年ごとに開催されています。前回の第14回では、アジア以外の地域も含む27の国・地域からの参加がありました。

日本参加の概要

キュレーター 飯田志保子 (いいだ しほこ)
出品作家 UJINO (宇治野宗輝) (うじの むねてる)小泉明郎 (こいずみ めいろう)
主催 国際交流基金 (ジャパン・ファウンデーション)

国際交流基金は、バングラデシュ政府の要請を受け、初回から継続してビエンナーレに参加して、日本人作家の作品を紹介してきました。第15回目となる今回は、飯田志保子氏を日本公式参加キュレーターにお迎えして、UJINO氏 (宇治野宗輝氏) 、小泉明郎氏の2名の作家の作品を紹介します。様々な素材を組み合わせた彫刻的音響機器の制作で知られるUJINO氏は、9月にダッカにおいて実施した事前調査を元に、地元の素材等を応用した新作インスタレーションTRIODE TO JOYを現地制作します。一方、映像インスタレーションのアーティストとして知られる小泉氏は、*Theatre Dreams of A Beautiful Afternoon *(2010-2011) を出品します。

UJINO (宇治野宗輝) The Rotators - The Savage's Plastic Ikebana Sessionの写真 UJINO (宇治野宗輝)
The Rotators - The Savage's Plastic Ikebana Session
2007
Household electric appliances and mixed media
Dimensions variable
Photo by Masanori Ikeda
Courtesy of YAMAMOTO GENDAI
UJINO (宇治野宗輝) THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARDの写真 UJINO (宇治野宗輝)
THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD
2010
Nissan Cedric, wood furniture, household electric
appliances and mixed media
Dimensions variable
Courtesy of YAMAMOTO GENDAI

小泉明郎"Theatre Dreams of a Beautiful Afternoon"の写真
小泉明郎
"Theatre Dreams of a Beautiful Afternoon"
2 channel HD video installation
Duration of video: 10min30sec
2010- 2011

アーティスト選定コンセプト

本ビエンナーレ開催地の首都ダッカは、人口過密を筆頭に、労働環境、都市機能、教育文化に必要なインフラの未整備といった諸問題に直面しながらも、東西のマーケットのハブとしてさまざまな業種の店が軒を並べ、人々の活き活きとした生活の営みが行われている活気に満ちた都市である。一方、現代の日本は、効率主義によって経済成長を果たし、利便性に満ちた生活を手に入れた先進国の行き詰まりの姿を呈している。
先進国の行く末を按ずるより自国の発展を望む人々のエネルギーに満ちたダッカの地で、アジアの他の参加国の作品とならんで現代の日本のアーティストの作品が展示される。そうした圧倒的な対比のなかで本ビエンナーレの参加に臨むにあたり、私はUJINO、小泉明郎、両氏の展示によって、特に昨年の東日本大震災以降顕著になった、現代の日本社会が抱える極限状態・「テンション」の一角を提示することを意図した。選定にあたり、ダッカの都市のインフラや展示の諸条件等をふまえながら、具体的に念頭においたのは以下の点である。

  • 日本の近代化と、その文化・社会における欧米文化ならびにアジアの影響に対する批評的なまなざしによって、現代の日本を歴史的・文化的側面から検証しているアーティスト。
  • 日本性、日本のナショナリズムに対する、緊張状態とユーモアの両方を持ち併せている作品。
  • コミュニケーションにおける緊張感、意思疎通の困難さや感情の機微を表出している作品。

小泉明郎は、しばしばある状況がエスカレートしていくパフォーマンスを映像化することで、政治的・文化的・生理的に居心地の悪さを感じた時の人の心理状態を露わにする。うち、今回の出品作*Theatre Dreams of A Beautiful Afternoon *(2010-2011) では、都市社会に住まう人々のテンションが日常のなかで振り切れてしまう瞬間を役者が演じ、その光景を突如目撃する人々の反応を映し出す。
一方、物質文明のリサーチをテーマに、自動車やバイクの部品、ターンテーブル、アンプ、スピーカー、ケーブル、家具などを組み合わせた自作の彫刻的音響機器を作成してきたUJINOは、リキシャの幌など現地の素材を応用した新作キネティック音響彫刻TRIODE TO JOYを現地制作する。人の気配を漂わせるオブジェ三体を中心とした本インスタレーションには、テクノロジーとオーガニックな生活様式が融合するダッカでUJINOが感じた近未来のヴィジョン――均一化された物質文明の価値観からの離脱、旧来のサウンドとテクノロジーの復興――が投影されている。

これら二名のアーティストの作品による緊張感と脱力感、精緻さと豪快さ、シリアスさとキッチュさが相乗効果を成し、一元化され得ない現代の日本のさまざまなテンションが、バングラデシュの人々に楽しみとともにクリティカルなメッセージとして伝わることを期待したい。

飯田志保子

作家紹介

UJINO (宇治野宗輝)   (うじの むねてる、1964年東京生まれ、東京在住)

UJINOは90年代より、装飾されたトラック、いわゆるデコトラに多用される電飾や、電動ドリルなど、本来楽器とは関係のない電気製品を用い、「LOVEARM (ラブアーム) 」シリーズをはじめとするサウンドスカルプチャーを制作し、数々のライブパフォーマンスを披露してきた。また、サウンドスカルプチャーの発展形として2004年から取り組んでいるプロジェクト「The Rotators」では、ごく一般的なターンテーブルを改造し、細工を施したレコード盤を載せたコントロールユニットである「ローテーターヘッド」と、それに接続された一連のモーター駆動の家電製品による自動リズム演奏装置を制作している。使用される家電製品はヘアドライヤーからジューサー、電動ドリルなど多岐にわたり、これらがダイニングテーブルなどの上に配置され、さらに電球や家庭用ランプなどの照明が全体を飾る。これらのパーツは既に製品として成熟し世界各国で入手可能なものであり、海外で作品を発表する際は、ほとんどのものが現地で調達されている。この「The Rotator」シリーズは、宇治野によるパフォーマンスとともに高い評価を得て、宇治野の海外での活動のきっかけとなった。
こうした宇治野の作品には、未来派の芸術家・音楽家であるルイージ・ルッソロや、工業製品とジャンクに埋め尽くされはじめた社会を人間にとっての新たな環境ととらえ、工業化社会における自然主義的な視点で時代のリアリティを見いだそうとした、ネオダダのような影響を見いだすことができるかもしれない。しかし、その後工業化社会の成熟とともに到来し、世界をかつてない規模で席巻していったのは狂乱の大量消費社会であった。その時代の最中に育った宇治野による作品は、20世紀を総括しながら、21世紀に入った今ではすでに崩壊を迎えている消費文化において産み落とされ、完成した数々の製品をつなぎあわせ、戦後日本でアメリカ文化の多大なる影響下に育った作家独自の視点で「大量消費社会の自然主義」ともいえる世界観を批評的に構築していくものである。

小泉明郎  (こいずみ めいろう、1976年群馬生まれ、横浜在住)

主な個展は、「Defect in Vision」Annet Gelink Gallery」(蘭アムステルダム) (2012) 、「Broken Hero, Beautiful Afternoon」シドニーアートスペース (2011) 、「MAMプロジェクト」森美術館 (東京) (2009) 、「The Corner of Bitter and SweetOpen Satellite, Bellevue (米国ワシントン) (2009) 等。近年のグループ展参加は、「Omnilogue: Journey to the West」ラリットカラアカデミー (ニューデリー) (2012) 、「インビジブル・メモリー」原美術館 (東京) (2011) , FACTリバプール・ビエンナーレ (英国) (2010) 、韓国メディア・シティ・ソウル (2010)、あいちトリエンナーレ (2010) 、「六本木クロッシング2010:Can There Be Art?」森美術館 (東京) (2010) 等がある。
小泉明郎の映像作品は、観客が思わず引き込まれるような展開で人間の心理を直感的に表出する。俳優との対話や自身によるパフォーマンスを通じて、小泉は俳優を操るのと同様に観客も揺るがし、心理的に不安定で曖昧な状況を作り出す。作品は大抵、調和した状態か、あるいは普通の日常生活の設定から始まるが、その後徐々に緊張が高まり、日常から苦痛へと状況が操られる。部分的に演出され、一部即興で行われる小泉作品のパフォーマンスは、ある事態が制御不能になり、人を戸惑わせ、社会規範を壊し、感情的な自制を超える時に焦点を当て、その瞬間を拡大する。小泉はこうしたパフォーマンスを基にした映像作品によって、特に近作では日本の第二次世界大戦の歴史をテーマに、ナショナリズムの歴史と言説に見られる倫理的葛藤や自己矛盾についてのさまざまな解釈を提示してきた。また、2011年の東日本大震災に対する人々の社会的・心理的な反応について、小泉ならではの表現言語と方法論によって探求し始めている。

キュレーター

飯田志保子  (いいだ しほこ 1975年東京生まれ、名古屋在住)

1998年多摩美術大学卒業。東京オペラシティアートギャラリー・キュレーター (1998年~2009年) 、クイーンズランド州立美術館 (ブリスベン、豪) 客員キュレーター (2009年~2011年) 、韓国国立現代美術館 (ソウル、韓国) インターナショナル・フェローシップ・リサーチャー (2011年) 等を歴任。現在、インディペンデント・キュレーターとして活動。あいちトリエンナーレ2013キュレーター。

主な担当企画展:

東京オペラシティアートギャラリー

「アートがあれば Why not live for Art?」 (2004年) 、「ヴォルフガング・ティルマンス:Freischwimmer」 (2004年) 、「野又穫:カンヴァスに立つ建築」 (2004年) 、「シュテファン・バルケンホール:木の彫刻とレリーフ」 (2005年 / 国立国際美術館、シュプレンゲル・ミュージアム・ハノーファーとの共同企画) 、「トレース・エレメンツ―日豪の写真メディアにおける精神と記憶」 (パフォーマンス・スペース、シドニーとの共同企画。2008年東京展 / 2009年シドニー展) 、「鴻池智子:インタートラベラー」 (2009年)

オペラシティ以外:

Rapt! 20 contemporary artists from Japan」 (2005-06年 / 国際交流基金主催、オーストラリア複数会場。共同企画) 、「Oriental Metaphor」 (2006-07年 / Alternative Space LOOP主催、ソウル。日本側キュレーターとして参加) 等、「第1回開渡ビエンナーレ――I have A Dream」 (2008年 / 開渡美術館・台北国立美術大学共催。ジュン=グウェン・ハツシバ担当キュレーター) 、「Omnilogue (オムニログ) : Journey to the West」 (2012年 / ラリット・カラ・アカデミー ギャラリー1 &2、ニューデリー、インド。国際交流基金主催、共同企画) 、「Identity VIII - 差異の肯定、異質さを抱擁せよ――アイデンティティとパフォーマンス」 (2012年 / nca | nichido contemporary art、東京)

[お問い合わせ]

展示に関するお問合せ
国際交流基金 文化事業部アジア大洋州チーム
担当:武田(英)
〒160-0004 東京都新宿区四谷4-4-1
電話: 03-5369-6062 ファックス: 03-5369-6038
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