ヴェネチア・ビエンナーレ 国際美術展 52回 日本館概要

記者発表のもようの写真
記者発表のもよう (2006年9月20日)
左:港千尋氏(コミッショナー)、右:岡部昌生氏(出品作家)

ヴェネチア・ビエンナーレ 国際美術展 52回 日本館概要
コミッショナー
作家
テーマ 私たちの過去に、未来はあるのか  The Dark Face of the Light
コミッショナー・
メッセージ

「時」との関係において、わたしたちの時代はひとつの矛盾に直面している。科学技術の発展によって人間は、その過去をより詳しく知り、より正確に複製し、復元し保存することが可能になった。その一方、急激なグローバリゼーションや人口急増にともなう社会の高速化と都市化によって、あるいは公害や地域紛争によって、過去はかつてない規模で消滅の危機を迎えている。同じひとつの文明が、過去を発見すると同時に、それを消そうとしている。後期資本主義社会における情報化は、記憶と物質の両面において重大な変化をもたらしており、現代人は自らの過去をどのように未来の世代へと手渡すべきかという問いを突きつけられていると言えよう。

この展覧会は、美術家岡部昌生(Masao Okabe)のライフワークであるフロッタージュ作品を中心に、人間の過去が未来へと受け継がれる可能性と条件について、美術の側から問おうとする試みである。フロッタージュの対象である宇品(Ujina)は、かつて広島の軍港であった。その駅は、日清戦争以降太平洋戦争終結まで、おびただしい量の物資と人間がアジアへ運ばれた場所であると同時に、原爆の被災地でもある。岡部昌生は9年間にわたって、このプラットホームの縁石を擦りつづけ、総数4000点におよぶ記録を残した。いまは高速道路の建設によって消えてしまった遺構であるが、美術家は紙と鉛筆というエレメンタルな記述の方法をつかい、過去を擦りとったのである。

その場所がアジアにおける日本の現在地点を考え直すうえで重要であることは、言うを待たない。日本各地で市民とともに数多くのワークショップを行い、展覧会だけでなく、擦りとられた痕跡をアエログラムという「手紙」の形式によって各地から発信してきた作家の活動は、モノの表面を擦りながら、そこに思わぬ表情を見出す楽しさを素直に伝えている。そこには過去とどう向きあうか探している現代の人間にとって、何らかのヒントがあるようにも思われる。戦後60年を経てあらたな紛争の危機のなかにある今日の世界において、ひとつの芸術表現が、「過去の分有」と「未来へ向けた対話」のための、社会的活動になるかもしれない。
ヴェネチアという、かつて諸文化が出会い交流をしてきた歴史の土地で、本展覧会は、そうした文明論的な意味をも内包しながら、建設的な対話に貢献することを願っている。
(港 千尋)

展示コンセプト 展示の中心は壁面を埋め尽くす、およそ1,400点の石のフロッタージュである。高さ5メートル、総延長82メートルの壁面は、フロッタージュ、そのネガフィルムをはさみ込んだライトボックス、植物標本が埋め込まれた鉄製のグリッドによって覆われる。会場の中心には、広島倉橋島産の被爆石が直線をなして置かれる。長さ16メートルの石列は、2005年広島市現代美術館でインスタレーションされたものであるが、それがヴェネチアの会場に運ばれることによって、テンポラリーな「歴史の場所」をつくりだす。
会場には、これに加えて市民との「ヒロシマを擦りとる1万人のワークショップ」に呼応する、アムステルダムやバルセロナなど各地の都市にすむ市民によって、自発的につくられ作家のもとに送られたフロッタージュのアエログラムを中心に、それ以降もヒロシマ、パリ、光州、根室から発信されつづけるアエログラムが痕跡のアーカイヴをして展示される。
またヴェネチア特別プログラムとして、ヴェネチアの歴史と建築を対象にしたワークショップを行ない、その成果も新作として反映される。

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