「具体」の中心作家、白髪一雄・元永定正の米国初回顧展を開催

国際交流基金(ジャパン・ファウンデーション)はダラス美術館(米国テキサス州)との共催で、具体美術協会(「具体」)を代表する2人の作家、白髪一雄と元永定正の活動を紹介する「アクションと未知の間で―白髪一雄と元永定正」展を開催します。

近年アメリカにおいて日本の戦後美術に注目が集まる中、特に「具体」は1950年代後半に美術批評家のミシェル・タピエによって紹介されたことを契機に、たびたび展覧会で取り上げられてきましたが、本展は白髪一雄と元永定正の画業を「具体」の活動のみならず、創作初期から晩年にいたる約60点の作品で振り返るものです。

比類ない個性を持つ2人の作品の身体性と造形性のオリジナリティを紹介しながら、戦後の日本美術におけるその先駆的な仕事を顧み、検証します。

  • 白髪一雄《天捷星没羽箭》の画像

    白髪一雄《天捷星没羽箭》
    1960年 油彩・キャンバス
    ラチョフスキー・コレクション

  • 元永定正《赤と黄色と》の画像

    元永定正《赤と黄色と》
    1963年 油性合成樹脂塗料・小石・キャンバス
    三重県立美術館

「をちこちMagazine」に、ガブリエル・リッター氏による寄稿を掲載しました。

展覧会概要

会期 2015年2月8日(日曜日)~7月19日(日曜日)
[開館時間] 火・水・金・土曜日 11時~17時、木曜日 11時~21時
※第3金曜日は24時まで開館、月曜日休み
会場 ダラス美術館
主催 独立行政法人国際交流基金、ダラス美術館
キュレーター 河﨑晃一(甲南女子大学教授)、
ガブリエル・リッター(ダラス美術館アシスタント・キュレーター)
特別協力 公益財団法人石橋財団石橋財団ロゴ
協力 日本貨物航空株式会社日本貨物航空株式会社の画像

キュレーター・ステートメント

近年、戦後日本の美術は、世界的に注目されてきている。中でも1954年に兵庫県芦屋で創立された具体美術協会は、国内外での回顧展の開催や美術マーケットにおいて突出した評価を得ている。しかし、具体が最初に海外に紹介されたのは、1957年にフランスの美術評論家ミシェル・タピエが具体の活動を見るために来日したことに歴史はさかのぼる。58年には、ニューヨーク、マーサ・ジャクソン・ギャラリーで具体展が開催され、翌年には、トリノでも開催されている。そして、61年末には、元永定正がマーサ・ジャクソン・ギャラリーで、62年1月には、白髪一雄がパリ、スタドラー画廊でそれぞれ個展を開催した。いずれも画廊との契約を結び、その後1、2年の間ほぼ毎月作品を送り続けた。また60年代の具体の展覧会歴を顧みると、毎年ヨーロッパ各地での展覧会に具体作家の出品歴を見ることができる。

今回の展覧会は、具体の中心的メンバーであった白髪一雄、元永定正の具体以前、解散後の作品を含めた回顧形式をとる。2人は、具体の創立メンバーではないが、初期の具体展からすべての展覧会に出品し、具体の中では初めてひとりの画家として海外の画廊で認められたと言えよう。

2013年2月に開催されたグッゲンハイム美術館での具体の展覧会では、元永定正の《作品(水)》は張り巡らされ、強いインパクトを人々に与えたことは記憶に新しい。そのおおらかな自由な表現こそ具体本来のものであり、思想がないとも言われてきた作品に潜む、内面から抽出されてきたものである。一見、無意識に描かれている抽象作品のように思えるが、2人の作品は、意識的なコントロールのもとに描かれている。それは、戦後10年を経て生まれた具体美術協会に参加した作家たちに共通する自由を得たことを実感する世代の表現である。

河﨑 晃一

戦後日本の最も名高い2人の画家、白髪一雄と元永定正は、それぞれの長きにわたる独自の仕事にもかかわらず、具体美術協会の代名詞のように受け取られてきた。具体は、グローバル美術史がその領域を広げるなか、抽象表現主義ないしアンフォルメルの一端として、あるいはパフォーマンス・アートの先駆けとして位置づけられてきた。最近の研究はこのグループと世界的美術運動の関連をさらに明らかにしようとしている。しかし、国境を越える具体の活動をグローバル・アートの物語に書き加える気運の傍らで、具体に名を連ねた60名近くの美術家の各々の物語が見失われてきてはいないだろうか。

今回の展覧会「アクションと未知の間で―白髪一雄と元永定正」展は、この2人のアーティストの仕事を、具体のメンバーとしてではなく、何よりも彼ら自身のものとして見直すことを目指している。

本展は、2人のアーティストの美術的変遷を、それぞれの初期の抽象の実験から、具体時代の画期的作品、そして1970年代初頭に現れる新しい様式と創造の探求まで辿っていく。白髪の作品を大きく特徴づけるのは、「アクション・ペインティング」である。それは有り余る身体の躍動とその激しさから現れ、個人の自由と主体性に形を与えるものである。白髪の絵画の基本構造が「アクション」だとすれば、元永の作品に表れるのは、彼が「未知」と呼んだもの、自然の美しさや創造力を前にして抱く畏敬の念の探求との密接な結びつきである。2人は数々の力強い作品を残しているが、なかでも《泥に挑む》や《作品(水)》のような作品は、日本、ひいては世界的な戦後前衛芸術の記念碑的作品であることは明らかだろう。本展「アクションと未知の間で―白髪一雄と元永定正」は、彼らの画期的な素材の使用や、先駆的技法の開発の成果を確認し、絵画の定義を革新したこの2人のアーティストの、比類のない道のりを記念し、讃えるものである。

ガブリエル・リッター

キュレーター紹介

河﨑晃一(甲南女子大学教授)

1952年、兵庫県芦屋市生まれ。甲南大学経済学部卒業。1978年から染色による美術作品を発表。1989年芦屋市立美術博物館の開館にたずさわり、1990年から2006年まで学芸課長。その間、具体美術の展覧会、調査、資料集の発行をはじめ小出楢重、長谷川三郎、阪神間モダニズムなど地域に根ざした企画、調査を行った。2006年から2012年まで兵庫県立美術館でリーダー、館長補佐を務めた。2013年から甲南女子大学文学部メディア表現学科教授。1993年のベネチア・ビエンナーレをはじめ多くの具体の海外展にたずさわる。

ガブリエル・リッター(ダラス美術館 ナンシー&ティム・ハンリー現代美術アシスタント・キュレーター)

1980年生まれ。2012年より現職。これまで企画した展覧会に「Out of the Ordinary: New Video from Japan」(2007年、ロサンゼルス現代美術館)、「TOKYO NONSENSE」(2008年、サイオン・インスタレーション L.A.)、「Sculpture by Other Means」(2012年、ワン・アンド・Jギャラリー、ソウル)、「Never Enough: Recent Acquisitions of Contemporary Art」、「Concentrations #57: Slavs and Tatars」(2014年、ダラス美術館)、共同企画展に「六本木クロッシング2013展:アウト・オブ・ダウト―来たるべき風景のために」(2013年、森美術館)がある。

作家紹介

白髪一雄(1924~2008年)

1940年代後半に日本画を学んだ後、指で油彩画を描き始め、やがて足を使って描くダイナミックな手法を生み出す。「具体」のメンバーとして在籍中、身体存在の境界、絵画の限界を押し広げようとする試みに取り組んだ。身体全体で泥、コンクリートと格闘する「泥に挑む」(1955年)や、面をつけ、長い袖ととんがり帽子の真っ赤な衣装で演じる「超現代三番叟」(1957年)といったパフォーマンスに、その一端を見ることができる。この初期のパフォーマンスは、絵画としての最も過激な行為表現を示す一方、足で描かれた大きな油彩画が代表作として知られている。80代になってもなお精力的に足で制作を続け、仏教や民話といったテーマを通じ、偶然性とパフォーマティビティーの概念を探求した。

元永定正(1922~2011年)

独学で絵画を学んでいたが、「具体」の創設者である吉原治良との出会いによって、抽象画を知る。伝統的な「たらしこみ」技法から着想し、何層ものエナメルペイントが乾かないまま不規則な形を生み出す画法を確立した。1958年にアメリカを巡回した「具体」展に出品。1960年にマーサ・ジャクソン・ギャラリーと契約してからは、アメリカでの展開が始まった。1966年、ジャパン・ソサエティーの招待により、ニューヨークで1年間のレジデンス・プログラムに参加。滞在中にエアブラシを使った制作を開始し、作風は大きく変化した。色彩と輪郭を伴い明らかな形を成す作品は、形を持たない作品に新たな意味を与えることとなった。帰国後はシルク・スクリーンと絵本の制作を行い、最も著名な現代作家として人気を博したが、美術史家による後年の作品への取り組みはまだ行われていない。

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 米州チーム
担当:岡部、山田
電話:03-5369-6061 ファックス:03-5369-6038
Eメール:Miki_Okabe@jpf.go.jp、Etsuko_Yamada@jpf.go.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角@マークに変更してください)

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