「近くへの遠回り―日本・キューバ現代美術展」
日本現代美術のグループ展をキューバ初開催
展覧会コンセプト・作家紹介

展覧会コンセプト

展覧会タイトルのとおり、「距離」を一つのテーマに、物事・事象の近さや遠さとは何かを問うような意欲的な展覧会です。

日本では、野球や葉巻、映画「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」に登場する音楽、ルンバやサルサなどのダンスで知られるキューバですが、現代アートについては、ほとんど知られていません。しかし30年以上の歴史を持つハバナ・ビエンナーレは、世界中の美術ファンから注目を集め、キューバ人アーティストたちの驚くほど洗練された表現の数々は、普段どこか遠いイメージのあるキューバという国を身近に感じさせるものがあります。

一方で、街中を50年代のクラシックカーが現役で走り、インターネットなどの通信環境が整っていないキューバに一歩足を踏み入れると、時間がとまったような感覚にとらわれます。

本展は、文化的な成熟度によって感じる近さや古いものが形作る風景から感じる遠さの間で揺さぶられるキューバを舞台に、一様に捉えることができない遠さと近さにまつわる諸関係を見つめ直しながら、日本とキューバの現代に生きる作家たちの表現を紹介します。

参加作家(日本側)

(五十音順)

岩崎貴宏

岩崎貴宏氏の作品写真
《テクトニック・モデル(フロー)》 2017年
撮影:Keizo Kioku,
photo courtesy of the Japan Foundation
(c) Takahiro Iwasaki, courtesy of URANO

1975年広島県生まれ、広島在住。
広島市立大学芸術学研究科博士課程修了後、エジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院を修了。2017年第57回ヴェネチアビエンナーレ国際美術展での日本館展示作家に選ばれる。「アウト・オブ・ディスオーダー」シリーズや「テクトニック・モデル」シリーズなどの岩崎の制作の背景には、原爆前後で全く別風景となった「広島」の重い歴史がある。広島という「場」をベースにすることにこだわって制作を続ける岩崎は、展覧会においてはその作品のおかれる土地や建物の歴史に関わりのあるモチーフを選び、その周辺で手に入る素材と自身の生活する地で手に入る素材を混在させたインスタレーションを展開する。広島で生まれ育ったものとしての視点をもって、その場に立っていることの表明でもありつつ、立ち上がる繊細な作品群はあたりまえに見える風景を揺さぶり、見るものの心象を映し出す鏡となる。

高嶺格

高嶺格氏の作品写真1
《オーケストラズ》 2008年、展示風景
高嶺格氏の作品写真2
《取手の風景》2004年

1968年鹿児島県生まれ、秋田在住。
京都市立芸術大学の工芸科にて漆工を専攻する。在学中よりダンス、パフォーマンス、建築、ビデオ、インスタレーション、音楽など様々な領域の表現を横断しながら、テクノロジーを駆使し独自の活動を行ったアーティスト集団「Dumb Type」の活動に参加。アメリカに翻弄される姿を映し出す映像作品『God Bless America』(2002)から、目が不自由な人の案内で鑑賞する展覧会『大きな休息』(2008)にいたるまで、高嶺はある特定の表現手法を持たない。その時、その場所で共に展示に関わる人と状況に徹底的に向き合い、ユーモアを織り込みながら一から展覧会、舞台作品、映像作品を制作する。鑑賞者とのインタラクティブな関係性を構築する作品も多く、鑑賞者自身が問いのただ中へとひっぱりだされる。それらの作品に通底するのは、見えている(と思っている)ものに対する懐疑など自身の感覚に率直であろうとする態度である。

田代一倫

田代一倫氏の作品写真
《第3接触―東京》2017年

1980年福岡県生まれ、東京在住。
写真家。2006年、福岡にてアジアフォトグラファーズギャラリーの設立に携わる。2009年より新宿のphotographers' gallery に参加、2010年上京する。2011年の東日本大震災後、約二年間東北地方に通い続け、出会った人に声をかけて「被災地」としてではない、東北で生きる人たち1200人以上の撮影を行う(写真集『はまゆりの頃に 三陸、福島2011~2013年』(2013))。一方で、生活のために始めた警備のアルバイトの休憩中に同僚の警備員たちを撮り始め、そこから東京での撮影範囲が広がっていく。田代の撮影する人物は皆、しっかりとカメラを見据えている。それは、田代がカメラを介して「撮る/撮られる」という行為と「見る/見られる」という関係との間にある暴力のあり方について考え続けていることと関係している。そして、写真を見るものにも投げかけられるその眼差しは写真を撮る瞬間の静けさと衝動、そのどちらをも含む光の反射のようであり、肖像写真の切り開く他者との関係の可能性である。

三瀬夏之介

三瀬夏之介氏の作品写真1
《日本の絵~小盆地宇宙~》2013年/2014年、
展示風景
展示会場:MOCA Yinchuan
撮影者:Liu Feng

1973年奈良県生まれ、山形在住。
1999年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。卒業後は高校で教員をしながら制作を続けるが、2007年に五島記念文化財団の助成を受けて1年間フィレンツェに滞在する。帰国後、2009年から東北芸術工科大学美術科日本画コースに赴任し、洋画コース教員の鴻崎正武とともに東北における美術を考えるチュートリアル活動として「東北画は可能か?」という絵画の集団制作のプロジェクトを始動し、個人制作と並行して各地で学生たちと活動を展開する。日本画の技法に依拠しつつも、アクリル絵の具などの洋画材を用い、アニメやポップカルチャーから引用するイメージを挿入したり、コラージュを多用するなど、自由で大胆な態度でスケールの大きな作品を描く。また、民俗学的な事象に興味をもちフィールドワークを重ね、日本思想家の丸山眞男による「執拗低音」という概念を援用し、日本地図や国旗をモチーフとすることで「日本」という国家について探求する。

ミヤギフトシ

ミヤギフトシ氏の作品写真
《ロマン派の音楽》2015年、
展示風景
撮影:Keizo Kioku

1981年沖縄県生まれ、東京在住。
沖縄県の離島で生まれ、15歳の時に沖縄本島の高校へ、18歳で大阪の学校に進学した。21歳の時にニューヨークへ渡る。当初はジャーナリズムを学びたいと思っていたが、ある教師との出会いをきっかけに美術の道へ。ニューヨークで約5年を過ごした後、東京へと居を移す。巨大な米軍基地が存在する沖縄で、沖縄人男性とアメリカ人男性が恋に落ちることの可能性を探るプロジェクト『American Boyfriend』(2011-)や、アメリカ兵の視点と沖縄人ピアニストの視点によって構成された『ロマン派の音楽』(2015)は、リサーチに基づきながらもフィクションが織り込まれ、虚実の境目は曖昧になっていく。ミヤギの作中に描かれる「隔たり」は絶望的な「断絶」としてではなく、隣り合い共にある「可能性」として登場する。ミヤギはキューバ出身でNYへ渡った作家フェリックス・ゴンザレス=トレスに影響を受けたと語っており、作中にトレス作品が引用されることもある。

毛利悠子

毛利悠子氏の作品写真
《コールズ》2013年~

1980年神奈川県生まれ、東京在住。
多摩美術大学美術学部情報デザイン学科卒業後、2006年東京芸術大学大学院先端芸術研究科修了。2015年に日産アートアワード グランプリ、2017年に第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。日常生活で目にする道具やおもちゃなどを、コイルや電磁石などと組み合わせ、磁力や重力、光や音など、目に見えず触れることができない力をセンシングするインスタレーションを制作する。また、都市環境や資源・エネルギーの問題などにも興味をもち、空き缶など都市の幸とでも言えるような街から出る廃棄物などを用いた《アーバン・マイニング》(2014-)や、東京の地下鉄駅で発生する水漏れを駅員が応急処置により防ぐ様子から着想を得て、マルセル・デュシャンの大ガラスのフレームを引用しつつ、水漏れと循環の仕組みを生み出した《モレモレ:与えられた落水》(2015-)などがある。

持田敦子

持田敦子氏の作品写真
《ゆかした》2014年
撮影:Ryuichi Taniura

1989年東京都生まれ、同地在住。
2013年武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業後、2018年東京藝術大学大学院先端芸術研究科修了。プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し空間の意味や質を変容させることを得意とする。《ハルカさんの部屋と金属パイプ》では、アパートの室内に単管パイプによる螺旋階段を挿入することで、プライベートな場を優美で野趣溢れる異空間へと変質させた。通常の生活ができない変質された空間でも人は生活を営み続け、さらに他者の目にさらされることになり、様々な関係性が反転される。また、《T家の転回》(2018)では、L字型の平面形をもつ家屋の中央部分を直径5mの円形に切り取り、回転する構造に変化させた。建物を回転する「縁を切る」行為を通じて切断と接続を繰り返すことで、土地と人間、そして家族と住居の関係だけでなく、回転という行為を通じて鑑賞者と作品の関係も問う。

参加作家(キューバ側)

グレンダ・レオン

グレンダ・レオン氏の作品写真
Magical Found Object #5》2005年

1976年ハバナ市生まれ、同地およびマドリード在住。
Pollock-Krasner財団からの受賞のほか、多くの受賞暦を持つ。12歳のころから美術を学び始め、ハバナ大学で美術史を専攻しながら、クラシックバレエも習得。「感覚は「見える/見えない」や「音/静寂」、「刹那/永遠」といった間で揺らぎます。魔法のように、アートは変化をもたらす行為であり、それは、往々にして同時多発的なシンプルな行為に翻訳されていきます。」と自身が語るように、グレンダの作品からは憧憬と畏怖、過剰と空虚、揺れ動く感覚、乗り越えていく感覚といった、人が持つ相対する感覚を想起させる。髪の毛やガム、レコード盤などの日常のものを使いながら、映像やインスタレーションといった様々な表現方法で、コンセプチュアルな詩のように奏でていく繊細な作品に人間の力強さが宿る。

ホセ・マヌエル・メシアス

ホセ・マヌエル・メシアス氏の作品写真
Las cosas que se parecen》2012年~2014年、
展示風景

1990年ハバナ市生まれ、同地在住。
2009年サン・アレハンドロ美術学校卒業。欧米や南米で多くの展覧会に参加。2017年にはファクトリア・ハバナで「Índice de imágenes」という大規模個展を開催。主体や概念、物質の観点から、キューバにおける過去と現在のコンテクストを再解釈していくことを基盤とし、大きな絵画作品に小さなアンティークなどを併置させる。《Las cosas que se parecen》では過去と未来や美と破壊といった二律背反の関係に意識を巡らせつつ、同時に、自身が生活の中で経験する不安や驚嘆を表現していく方法を模索しながら、歴史を語るものをアーカイブしていき、キューバの現実を映し出していく。

レニエール・レイバ・ノボ

レニエール・レイバ・ノボ氏の作品写真
Stone Words. Power architectures of an inherited country》2016年、
展示風景

1983年ハバナ市生まれ、同地在住。
キューバ芸術大学院で学び、その後はリバプールビエンナーレやハバナ・ビエンナーレに参加。2017年第57回ヴェネチアビエンナーレ国際美術展でのキューバ館展示作家の一人にも選ばれた。映像や写真、インスタレーションといった様々な手法で、「歴史」と対峙する。世界史とキューバの歴史における重要な出来事を精査し、忘れ去られた出来事を歴史の流れに紡いでいく作品を制作する。キューバの歴史に向き合い同地固有の場を徹底的に調査し、そこから姿を現す作品は、近くにあっても見えていない(知られていない)存在への想像力を喚起させる。

レアンドロ・フェアル

レニエール・レイバ・ノボ氏の作品写真
¿Y alla que hora es? Chicago, La Habana, NY, Barcelona》シリーズより、2015年-2017年

1986年ハバナ市生まれ、同地在住。
キューバ芸術大学院での修了後、タニア・ブルゲラ(キューバ人作家)が運営する「Cátedra Arte de Conducta」で学ぶ。近年、スペインやキューバで個展を開催。写真家として、キューバの文化的なイメージと社会主義を背景とした革命・変動を重ね合わせることで、過去・現在・未来を結びつけ、時間の交錯する写真を撮影し展示していく。2017年に開催した「Yo no hablo con fotógrafos(私は写真と語らない)」では、パパラッチのような手法でアメリカからキューバに訪れたセレブリティを撮影し、そこに映し出されたクラッシクカーや風景の華やかさはキューバ革命前と見紛う錯覚を観客にもたらした。

※参考画像は、実際の展示作品とは異なります。

[お問い合わせ]

国際交流基金(ジャパンファウンデーション)
文化事業部 事業第1チーム
担当:難波、西藤
電話:03-5369-6061
Eメール:arts1@jpf.go.jp
(メールを送る際は、全角@マークを半角@マークに変更してください。)

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