旧アジアセンター知的交流課 事業実績 1997(平成9)年度 事業について

1.アジアセンターについて

アジアは世界でも有数の多様な文化と民族が存在し、膨大な人材と資源を擁する地域として、近年のアジア経済危機を乗り越え、21世紀へ向けて今後一層の発展が期待されています。
近年アジアが体験してきた目覚ましい経済発展とそれに伴うグローバル化現象は、地域内の構造的相互依存を一層深め、互いの社会や文化に影響を及ぼすと同時に、一国だけでは解決困難な地域共通の問題を生み出しました。人々は自分たちを取り巻く文化、社会情勢のめまぐるしい変化の中で自らのアイデンティティを問い直すとともに、共に生きる隣人として域内の対話と交流を強く求めています。
このような状況の中で、国際交流基金は平成2(1990)年1月、日本にアセアン諸国の文化を紹介する窓口としてアセアン文化センターを設立しました。アセアン文化センターは美術展や映画祭、舞台公演等様々な文化事業を実施したり、一般公開のライブラリーを開設し、アジア文化の日本国内における理解を促進してきました。
そして平成7(1995)年10月、第二次世界大戦の終結50周年を契機に、アセアン文化センターはその事業領域をアセアン諸国以外のアジア地域に拡大するとともに、新たな事業領域として域内の知的交流の促進と文化振興の支援を加え、アジアセンターという新しい事業部門として生まれ変わりました。
アジアセンターの掲げる主要な目的は次の2つです。

  1. 1 アジア域内各層における対話と交流を通じて相互理解を促進すること
  2. 2 アジア地域が共通に抱える課題を解決するための国際共同作業を推進すること

アジアセンターは知的交流課と国内事業課の2つの課から構成されています。知的交流課は域内の知的交流事業と文化振興支援事業を主に担当しています。そして、国内事業課はアセアン文化センター時代の事業を受け継ぎ、主として国内においてアジア文化の理解を促進する事業を担当しています。本冊子は、そのうちの知的交流課が平成9(1997)年度に行なった事業について、実績を取りまとめたものです。
知的交流課では、上記の目的を遂行するために、自ら単独で事業を企画実施、あるいは内外の非営利・学術・文化団体と共同で事業を企画実施すると共に(企画開発事業)、日本を含むアジア地域の非営利団体が実施する事業に対し、その経費の一部を助成しています(公募助成事業)。

2.企画開発事業

自ら事業を企画実施、もしくは内外の非営利団体と共同で事業を実施する企画開発事業は大きく2つの領域に分かれます。第一は、アジア域内の対話と相互理解を促進するための「知的交流」事業、第二は、消滅の危機にさらされるアジア各地の文化財を保存・振興し、また現代社会における活性化をめざす「文化振興」事業です。この2つの領域は時として重なり合いつつ、企画立案の基本的な枠組をなしています。

まず、第一の柱である「知的交流」事業に関してですが、平成9(1997)年度は、昨年度に開始した2つの主催プログラムを継続実施しました。ひとつは、アジア各国から分野を超えて学者、文化人、芸術家、社会活動家等を日本に招聘し、ワークショップ、セミナー等の共同作業を通じて共通の問題意識や価値観の醸成を目的とする「アジア・リーダーシップ・フェロー・プログラム」(財団法人国際文化会館との共催事業)、もうひとつは近年アジア諸国で活動が活発化している国際公益団体(助成財団、事業財団、研究機関、NGO等)の実務者のネットワーク形成を目的とする「アジア国際公益団体会議」です。また、日本国内の人文・社会科学系大学院生及び非営利団体のスタッフの育成を目的とした「次世代リーダーフェローシップ」を公募事業として開始しました。平成7(1995)年度にトヨタ財団との共催で開始した「東南アジア地域研究交流プログラム(SEASREP)」は、平成9(1997)年度より参加大学を3校加え、全体で8つの大学間事業に発展しました。そのほか、地域研究の拠点機関に対する地域研究支援を継続して行ない、アジア人によるアジア研究推進のための事業に力を入れています。平成9(1997)年度における特別事業として、日本とASEAN諸国との文化交流・文化協力を多国間ベースで協議する「多国籍文化ミッション」があります。政府レベルのイニシアティブで開始され、官民合同で実施されたこの対話プロセスに対し、アジアセンターはシンガポールのナショナル・アーツ・カウンシルと共に事務局を担い、日本・ASEAN国際文化交流の現状に関する調査を行ないました。この事業は平成10(1998)年度に継続され、最終提言が同年4月にまとめられています。もうひとつの特別事業は、沖縄における国際的な知的交流事業を開始したことで、アジア太平洋地域の共通課題また沖縄がもつ文化的国際貢献の可能性等についてシンポジウムを開催しました。

第二の柱、「文化振興支援」事業の一環として、世田谷美術館との共催により国際シンポジウム「21世紀における文化展示の構築をめざして」を開催しました。美術館や博物館における展示は他の文化の表象に深く関わっており、「西欧近代」の視点から「異文化」を紹介する展示への省察を踏まえ学芸員、研究者らによる討論を行ないました。また、古文書の修復と保存及びその研究事業にも力を入れており、平成9(1997)年度はミャンマー、インドネシア、中国、ベトナム、マレーシアに調査団を派遣して、各国の古文書保存環境と修復の現状について調査を行ないました。また、昨年度に引き続きアンコールワットの修復・保存活動の重要性を日本人に訴えるために、シンポジウム「クメール様式の建築と美術一バイヨンの修復と今後の課題」を開催しました。

3.公募助成事業

アジアセンター知的交流課は、その主要目的に合致する国際的な共同作業に対し、経費の一部を助成しています。共同作業の形態としては、共同研究・調査、ワークショップ、会議、研修、記録保存、活字・映像媒体による研究成果の発表・出版等が対象となります。
平成9(1997)年度も多数の助成申請が寄せられ、その中から94件の事業に対し、230,092,755円の助成を行ないました。それぞれの事業の事業実施機関、事業名、事業概要は11頁からの事業実績一覧をご参照ください。ここでは、公募助成事業の5つの重点分野に従い、助成事業の傾向を概観します。この5つの重点分野はあくまでも助成対象事業の理念、目的を整理するためのものであり、事業によっては複数の分野にまたがる場合もあります。

(1)多様性の理解と共生に資する取り組み

知的交流課では、欧米諸国のアジア研究、アジア文化理解に比して遅れているアジア域内の相互理解を促進するため、アジア人によるアジア研究、近隣国研究の振興を支援しています。平成9(1997)年度は、シンガポール東南アジア研究所による「マレーの部族社会:歴史的、文化的、社会的視点からの研究」の出版フェーズや、チュラロンコン大学アジア研究所の「経済と政治:東南アジア国家の歴史及び現代研究」、国際モンゴル学連合による「国際モンゴル学者大会」、「ジェンダーの視点から見た東南アジア初期近代史」等、アジア地域全体の歴史的経験や将来像ならびに一国の社会・文化を国際的な視点で研究する研究事業に助成を行ないました。

この重点分野における助成対象事業は学問的なアジア研究に限りません。アジア域内の地域社会や市民社会同士の交流の現状を探り、今後の交流の深化に資するための調査事業として、日本国際交流センターによる「アジア太平洋地域のグラスルーツの国際交流・協力調査研究プロジェクト」、NGO活動推進センターによる「日本とアジアの拠点NGO間のネットワーク作りに関する調査研究」を助成しました。そのほか、学術情報センターによる「アジア・スーパーハイウエイ上のアジア情報」、東洋文庫附置ユネスコ東アジア文化研究センターが実施する「コンピュータ通信による東洋学関連情報ネットワーク形成」等、電子媒体や通信を通じた日本とアジア諸国の学術情報交流の促進事業に助成しました。

(2)域内共通課題解決のための取り組み

アジア地域が共通に抱える課題を解決するために進められる国際的な共同作業に対し、支援をしています。平成9(1997)年度は、特に環境問題、グローバル化と経済発展、また朝鮮半島情勢などをテーマとする事業が多く寄せられました。
環境問題については、環境教育と教員教育をテーマとする「持続可能な環境のための学習:環境教育を通じた教員教育の革新(豪州グリフィス大学)」、若手の環境問題研究者の研修と研究奨励を行なう「若手ベトナム研究者の文化・環境研究奨励プロジェクト(ハノイ国家大学)」、大都市の環境問題をテーマとする日中共同研究「アジア地域大都市の環境保全の促進(中国上海交通大学)」、中国エリート層の環境意識を実証的に調査する「高度経済成長国中国の環境政策:中国エリート層の環境意識調査と世代の変化(北京大学)」等研究機関を中心とするプロジェクトのほか、ナショナル・トラスト運動を推進する「アジア・オセアニア地域におけるナショナルトラスト:21世紀への夢と課題(実行委員会)」、生物多様性保護に関する専門家会議「アジアの生物・文化的多様性と保護地域に関するワークショップ(東アジア国立公園保護地域会議日本組織委員会)」等、より実践的な課題をめぐる対話にも助成を行ないました。

また、経済分野では「内なる国際化:グローバル化に対するアジア各国の対応の比較分析(ソウル大学)」、「アジアにおける経済発展戦略とその教訓(スリランカ政策研究所)」等グローバル化をめぐる研究事業や、「黄金成長圏:インド、バングラデシュ、ネパール、ブータンの相互協力地域モデル(インド:アラーハーバード平和安全開発協会)」などの地域協力に関する事業、オルタナティブな貿易のあり方を探り実践をめざす「フェアトレード・ワークショップ:グローバル経済における東南アジアの工芸品(シンガポール:エンジェンダー)」等の助成対象事業がありました。
安全保障の分野では、朝鮮半島をめぐる共同研究や対話事業が多く「東アジアの安全保障と日米韓関係の展望(韓国:アジア太平洋政策研究院)」、「日中韓三極フォーラム(日本国際問題研究所)」、「統一後の朝鮮半島:統一朝鮮をとりまく国際情勢判断(国際経済政策調査会)」に助成を行ないました。

また、より広い視野から安全保障をとらえる事業として国際シンポジウム「アジア太平洋地域におけるヒューマン・セキュリティ(明治学院大学国際平和研究所)」に助成を行ないました。

(3)社会の平等と開放に資する取り組み

社会主義経済から市場経済への移行期にある諸国に対する制度的基盤の整備、女性の社会参加促進等、社会の平等と開放を押し進める事業を支援しています。「中国、ベトナム、モンゴルにおける市場経済の導入に伴う民事法制の変化に関する研究(上智大学法学部)」や、「メコン地域の法律家のための商業関連法に関するワークショップ(メコン地域法律センター)」等の法整備支援事業、また研修の機会の少ないカンボジア、ラオス、ベトナムのジャーナリストを対象とした、「ラジオ・ジャーナリズムの研修(インドシナ・メディア記念財団)」を助成しました。

(4)有形・無形の文化財の保存、記録、公開に資する取り組み

急速な社会変動に伴い、変質、消失の危機にさらされているアジア地域の文化財の保存や、伝統文化の担い手の育成を図る事業を支援しています。平成9(1997)年度の助成事業が取り組んだ文化財保存の分野は、建築物(「建築記録に関するハワイ大学との共同プログラム(カンボジア王立芸術大学)」、「ベトナム・フエ明命帝陵右従祠修復事業報告会(日本大学理工学部アジア木造建築研究会)」)、音楽と舞踊(「カンボジアのシェムリアップ州村落における民族伝統文化財の基礎的調査(上智大学アジア文化研究所)」、「雅楽(ニャーニャック)科の復興(フエ芸術大学)」)、言語(「ラオス国内におけるラオス諸言語調査(ラオス情報文化省ラオス文化研究所)」)、歴史的文書・資料(「ミャンマー古文書保存修復(ミャンマー伝統的写本保存委員会)」、「セント・ペテルスブルグ蔵敦煌文書保存支援(東洋文庫)」、「ベトナム国における歴史的文書史料の修復保存総合調査(東京修復保存センター)」)、遺跡(「アンコール時代窯跡保存・公開マスタープラン作成プロジェクト(上智大学アジア文化研究所)」)等多岐にわたります。また、博物館支援にも力を入れており、「モンゴル博物館ワークショップ(モンゴル文化遺産センター)」への助成を行ないました。

(5)伝統文化を現代に生かすための取り組み

上記(4)の文化遺産の保存と並んで、伝統文化を単に保存するだけではなく、現代に生かすためのプロジェクトを支援しています。クメール民話を児童向けにリライトして絵本、紙芝居にし、伝統民話の復興と教育の両方を促進する「カンボジア王国における図書館活動を通じた伝統文化の復興・振興促進と教育環境の改善事業(曹洞宗ボランティア会)」、現代文学者へのインタビューをビデオシリーズとして記録作成し、教育用ブックレットとあわせる「インドネシア主要文学者の映像記録化(ロンタール財団)」等に助成をしました。
また、伝統音楽、伝統芸術を音楽教育の現場でどのように取り入れていくのかを考える「教育におけるアジアの音楽と舞踊(南洋理工大学国立教育研究所)」の出版フェーズ等に助成を行ないました。

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