JF便り 日本研究・知的交流編 16号(2) ―2009年12月

開催報告(2)
国際シンポジウム 「未来の子ども、子どもの未来:
経済危機下の子どもをめぐる政策と、市民社会の役割」

セッション2: 親と市民社会の役割の変化

モデレーターの佐藤氏 の写真
モデレーターの佐藤氏

モデレーター:佐藤実千秋 朝日新聞社編集局紙面委員

安藤哲也 (NPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事):
「笑っている父親が社会を変える~パパにシチズンシップが生まれるとき」

安藤氏の写真
安藤氏

過去数年の間、NPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事であり、会社員という立場も経験している安藤氏は、若い父親達を支援するという目的をもつファザーリング・ジャパンの活動を紹介し、その取り組みが家庭にとっていかに有益であるかを説明しました。彼らのプロジェクトはセミナー、ワークショップ、および討議セッションを含み、そこに参加する父親たちは、自分の家庭でどのような役割が期待されているのかについて理解するとともに、同時に、自分自身の父親としての心配ごとや問題意識を扱うようになっていると話しました。長時間労働が妻や子どもとの時間を持てなくさせているという一般的な主張に対し、安藤氏は反論し、自身の管理職としての業務効率化の例を挙げつつ、効率的な仕事が余暇時間を増やすための鍵となると述べました。この試みは男性と妻との関係を改善し、家族の結びつきを強化することができると紹介し、これらの目標を実施するためには政府、企業、社会環境の変革が必要であるが、何にもまして家庭における個々人の態度こそが大切であるということを指摘しました。

ハインツ・ヒルガース(ドイツ子ども保護全国連盟会長、ドルマーゲン市前市長):
「子どもの貧困に関する取り組みー市民社会の視点

ヒルガース氏の写真
ヒルガース氏

ドイツにおける子どもの貧困の現状についての情報と、ドイツ子ども保護全国連盟についての簡潔な報告に続き、ヒルガース氏がドルマーゲン市で始めた「できるだけ早期に:統合計画」と題された事業の紹介が行われました。この事業の目的は特に子どもを持つ家庭の支援でした。ヒルガース氏は短い紹介映像を上映し、ドルマーゲン市において若年で、かつ往々にして過度の負担を感じている家庭がどのような支援を得られるかを示しました。ヒルガース氏は、市民の自立支援に関しては、グッド・プラクティス(良い事例)の重要性を強調し、単なる法律改正よりも大きな効果が得られることがあると説明しました。

アクセル・クライン(ドイツ‐日本研究所専任研究員):
「日本とドイツにおける家族政策―比較研究」

クライン氏 の写真
クライン氏

クライン氏は、日本の政策はドイツに比べて子どもの福祉を目的とすることが少ないのではないか意見を表明しました。その理由として彼は、出生率という課題が日本では選挙の際に扱う政策課題になりにくいのではないかという考えを述べました。また、政治家自身が個人的に少子化やワークライフバランスの課題に影響を受けた経験が少ないことも、この話題をいっそう政治課題から遠ざけているのではないかと述べました。ドイツで見られるような、福祉協会、教会、連邦憲法裁判所などが政治に影響力を及ぼすことも日本では少ないのではないか、結果として政治的意思決定への圧力が不十分なのではないか、と述べました。クライン氏は日本における政権交代の結果としてこれらの現状が変わる可能性があると希望を述べました。

パネルディスカッション: 未来のためにできることとは

モデレーター:佐藤実千秋 朝日新聞社編集局紙面委員
パネリスト:安藤哲也氏、白波瀬佐和子氏、前田正子氏、ハインツ・ヒルガース氏、
マルティナ・ポイカー氏、アンチェ・リヒター=コルワインツ氏

パネル討論の様子の写真 パネル討論の様子

会場から、子どもや若者よりも、高齢者に向けた政策に重点を置く選挙キャンペーンについて質問が投じられました。これに対してヒルガース氏は、そのような傾向はドイツでも数名の政治家の態度として確かにあるとしつつ、実は高齢者たち自身は子どもたちの将来を大切に考える人が大半なので、実際は、高齢者と子どもたちとは原則として味方同士であるとみなされるべきである、との考えを述べました。また別の質問では、会場から、日本の父親達はより効率的な働き方を学ぶ必要があり、その結果としての短い労働時間が、孤立に悩む母親たちにとって大きな救いになるのではないかという意見が出されました。安藤氏はこれに答え、実際には、多くの父親たちが、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)の乱れ、すなわち本人の希望以上に「ワーク」部分が膨らんでしまっている現状に悩んでいることを紹介しつつ、しかしながら、父親という存在はかけがえのない役割であることを理解しきれず、仕事に高い優先順位をつける父親たちの存在も指摘しました。一方で、学生や20代の男性には家庭志向が見られ、男性の意識も変化の過程にあることを紹介し、今後に期待が持てるとしました。ほかにも、有意義な質疑応答が繰り広げられ、会場にはまだ質問の挙手もありましたが、終了時刻をもって閉会となりました。

終了後も、参加者はラウンジに残り、パネリストらと更なる意見交換が続けられました。

終了後懇談の様子の写真
終了後懇談の様子

会場参加者の45%にあたる23人からアンケートを回収しました。回答者の半数以上(65%)が、出席理由として「テーマに関心があった」を挙げており、具体的には「子育て支援」「市民社会の役割」「ドイツの家族政策」「父親の子育て」などが挙げられました。(テーマ以外の理由としては、講演者に関心、欧州(ドイツ)・日本の事業に興味、など。)満足度については、回答者の73%にあたる16名が「とても満足」、23%にあたる5名が「まあ満足」を選択肢、あわせると96%が満足したとの回答であり、理由としては、「具体的な事例、ドイツの政策に触れることが出来、アイデアが湧いた」「子どもの貧困という問題について、日本における問題が明確になった。今後の活動に役立てたい」などがありました。「やや不満」は1名でした。

日独共通課題、という視点から浮き彫りになった、経済危機下における子どもを取り巻く状況と、政策や市民社会に求められる役割。今後も、国際交流を通じて、日本と諸外国との課題を浮き彫りにし、新たな知見を探る試みを続けてゆきたいと考えています。

I(アイ)女のしんぶんの写真

*当シンポジウムの報告記事が「 I(アイ)女のしんぶん」 2010年1月31日第1002号4面に掲載されました。

日本研究・知的交流部
欧州・中東・アフリカチーム
(担当:後藤愛)

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