日本語教育論集 世界の日本語教育 第2号 要旨

機能動詞「ナル」の発揮する受動表現的特性について:
「世話になる」、「~ヨウニナッテイル」など

【PDF:550KB】
沢田 奈保子(大阪大学 大学院文学研究科(日本学専攻))

本稿は、機能動詞「ナル」の発揮する“受動表現的特性”を、語彙論、統語論と連動する運用論の立場から指摘し、中・上級指導用マニュアルの文法記述の充実に寄与することを目的としたものである。
「世話になる」、「御馳走になる」は、機能動詞「ナル」が、「スル」と対を成し、自他対立と語彙的受動態を特徴づける連語である。また、授受の補助動詞を伴わずに「感謝」という発話行為と直接に結束するという、その運用上の振る舞いの特徴から、受動表現の一種「モラウ受益文」に通 じる求心的方向性と伝達的特性を備えていることが指摘される。
「このカードを差し込むと、ドアがあくようになっている。」などの例文に見られる文末の分析形式の「~ヨウニナッテイル」は、統語的には目的を表す「ヨウニ」と同様の補文を埋め込む包摂力を持ち、“状態変化”という実質的な意味を失った機能動詞「ナル」と「テイル」の結合が、「スル+テアル」との対立に支えられて一つの“表現のシステム”を作り出し、より背景化の進んだ、受動的・状況中心的表現効果 をもたらしている、属性記述タイプの修辞的な表現類型であると認定される。

日本語の助詞における正用順序
(【PDF:461KB】)
八木 公子(埼玉大学 大学院政策科学研究科非常勤講師)

アメリカの大学での日本語を外国語、または第二言語として学習する者のデータ(作文)を用いて、日本語の助詞の正用順序を抽出しようと試みた。
学習者の作文のなかに使われた助詞すべてが集計されたが、それぞれの助詞についてその正しい使われ率の母平均値の信頼区間を推定し、95%の信頼度でその区間幅が20%以下の助詞を抽出すると、「が(格)、が(接続)、から(接続)、を、は、に、の」が残った。これら7つの助詞間における正用順序を考察した。
その結果、この7つのなかに異なる正用のレベルを保有する助詞グループが少なくとも3つあることがわかった。正用のレベルが最も高いのは、「が(接続)、から(接続)」、次が、「に、は」、最後が「が(格)」である。「の」は最初の、または二番目のグループに入り、「を」は二番目、または三番目のグループに属するようだ。(p< .05)
これは、正用順序(デュレイとバートによれば、『習得順序』)は線状ではなく、むしろ非常に近い正用のレベルを共有するいくつかの文法項目が集まったグループの群だというデュレイとバート(1975)の研究結果 と一致する。「が(格)、は、を」の3つの助詞間の正用順序は「は→を→が」のようであり、この結果 は土井(1987)の結果と一致する。この3つの助詞については、それぞれの機能別 に誤用を分析した。

文体の教育を目指して: 日本語のダ体とデス・マス体の混用を中心に
【PDF:894KB】
泉子 K. メイナード(ラットガース大学 準教授)

従来日本語の文体にはダ体、デアル体、デス・マス体があり、その同一文章内の混用は避けるべきであるとされている。しかし文体の混用は意外に多く見られるものであることから、この論文では特にダ体とデス・マス体の混用に焦点をあてている。
結論として、混用文章の中のダ体は話者が(1)感情をそのまま表現する時、(2)物語の中で眼前描写 する時、(3)情報を後景化して伝える時、(4)相手を他者としてではなく自分にごく近しい者として見る時などに使われることが明らかになった。
このことから日本語教育においては、学生に常に文末一貫の原則を強いるのは不十分であることがわかった。特に中、上級においては、文末形式を動詞の語尾変化としてとらえるだけでなく、談話上の機能を含む広い視野から文末表現をとらえることが大切である。
言語の研究と言語教育は、ともすると別々の分野として関連付けられずに論じられがちだが、両者の密接な関連こそが、日本語学、日本語教育には常に必要である点を強調している。

夫婦の呼称にみる日本語敬語の方向
【PDF:956KB】
奈倉 俊江(名古屋学院大学 国際交流センター日本語非常勤講師)

ヨーロッパ諸言語でTとVの二人称代名詞の使われ方は、様々な変遷の後、非相互から相互に移行したといわれる。呼称の使い分け原理は、使い手の相手に対する評価を明示することから、敬語(ポライトネス)に対するイデオロギーをも反映している。
日本語の敬語について、その規範が中心の論議が多い。実際に公の領域、例えば組織の中では年齢、地位 や身内か否かといった要因が個人の言語様式を決定する。しかし、プライベートな領域で、個人がどのようなイデオロギーの下に言語活動をしているのか明らかでない。
本論文では、現在、非相互的に用いられている日本語敬語が相互的に使われる可能性があるのか否かを調べることとする。イデオロギーはプライベートな領域でこそ明らかになるという前提で、日本人夫婦の呼びかけの言葉をバロメーターとして選んだ。
主要職業4グループから150組の夫婦の名前、代名詞と親族名の使い方を集めたデータを元に、グループ別 、男女別に表われた違いや特色を分析した。また、高度に洗練されているといわれる日本語の敬語や特色ある呼称体系、そして日本社会についても考察してみた。

非漢字系学習者のための入門期における漢字学習指導の一考察
【PDF:372KB】
アルド トリーニ(パヴィア大学 政治学部日本語科準教授)

日本語教育において概して軽視されがちな漢字教育に関する二つの問題を取り扱っている。一つは漢字の識別 に関する問題で、もう一つは漢字の書写に関する問題である。両問題とも初級学習者(時々中級学習者)のレベルに当たる。第一の問題は正しい組織化されたモデルに従って漢字(特に複雑な漢字)を読み取ることがむずかしい。第二の問題は漢字を正しい大きさに正確に書写 することができない。
以上の問題の原因は、現在存在する二つの主な文字体系(アルファベット=単音文字体系と漢字=表意文字体系)の相違にあると考えられる。この二つの文字体系の機能的な分析をし、これらの相違点がどうして、漢字習得の過程に多くの影響を与えるかということを考察する。以上触れたいくつかの点を考えると、非漢字系学習者にとって連続的、線的、系列的、一次元的、分析的な文字(アルファベット)から、包括的、平面 的、二次元的、複雑な文字(漢字)を解読するプロセスを再組織するのがむずかしいのは明白になるだろう。漢字学習過程の上で具体的に、非漢字系の学習者には、複雑な漢字を読む手助けになるパターン練習としての予備訓練が必要だと思う。
最後に以上論じた問題点に対応する練習問題のいくつかの実例を提出する。

バンコック日本語センターにおける教員研修プログラムの開発
【PDF:664KB】
生田 守(国際交流基金バンコック日本語センター主任教育担当講師)

タイ国における日本語教育は、年々規模を拡大し、各機関では学習者の増加に伴い、教員不足に悩むとともに教員のレベルアップに対する関心が高まってきた。
このような状況の中、国際交流基金バンコック日本語センターが設立され、さまざまな便宜供与が企図されているが、本稿では、研修会・コンサルティング・教師向け日本語講座等の活動状況を一瞥し、当センターで開発を企てている教員研修プログラムの実際、今後の展望について論じる。
一年に2回行なう予定の「日本語教育研修会」は、研修プログラムの中心をなすものであり、一週間にわたり集中的に講義が行なわれる。
「日本語教師のための日本語講座」は、タイ人日本語教師の日本語運用力を高め、授業を活性化させる目的で開設された。
その他、コンサルティングや各地のセミナーで吸収した問題点からのフィードバックも含め、研修会・日本語講座を通 じ、教員研修プログラムを開発していく予定である。
研修内容についても、日本語教育に関する知識をいかに実際の授業に活かすかという観点に立っての教員研修シラバスの開発が急務である。
これらの活動の結果、指導法に悩むタイ人日本語教師に躍進のきっかけを提供できればと願っている。

科学・技術者のための日本語教育:あるカリキュラム
【PDF:385KB】
田上 由紀子(筑波大学 物理学系・留学生センター講師)

筑波大学において、1985年4月以来実施されてきた、主として自然科学・工学専攻の留学生を対象とする「日本語科学用語」教育のカリキュラムについて、その作成の主眼・内容・実施状況を詳述する。このカリキュラムは、これによる日本語教育を通 じ日本の伝統文化の一端にも触れることができることを特色とする。近年、我が国を訪れる理工学関係の外国人研究者や留学生は増加する傾向にある。外国人研究者や留学生に対する有益で、系統立ったカリキュラムとはどんなものであるべきかを探る上で、作成以来既に多くの受講者に対して実施し、その間取捨選択・拡充を重ねてきたこのカリキュラムの7年の歩みは、少なからぬ 示唆を与えるものと思う。

自己研修のための授業分析法試案
【PDF:358KB】
才田 いずみ(東北大学 文学部日本語学科助教授)

日本語教師の自己研修を考えるとき、自分の授業を観察・分析し、自己の教授スタイルを客観的に把握することが出発点となるのではないかと考える。そこで、教授スタイル把握のために、Fanselow(1988)の提案する Contrasting Conversation の手法をもとにした3つの方法、1)VTRに撮った授業からの発見をもとにしたオーソドックスな方法、2)授業の教案を活用する方法、3)自己の教育観の考察から出発する方法を提案し、授業分析を通 しての自己研修について論じる。

実際使用場面での学習者のインターアクション能力について: 「ビジターセッション」場面の分析
【PDF:499KB】
村岡 英裕(モナシュ大学 日本研究科講師)

日本語教育のさまざまな新しい試みにおいて、教室場面 を越えた教育をめざそうという傾向は目立ってきている。しかしながらそのような場面 での学習者の行動については、まだまだ知識が乏しいと言わなければならない。本稿では、そうした試みの一つである実際使用をとりあげ、その一形態であるビジターセッションでの学習者のインターアクション能力を、学習者のコメントと会話録音テープから分析した。また、それによって実際場面 の有効性と問題点とを明らかにしようとした。
この場面の活動に対する学習者の態度は肯定的であり、かつ自然な日本人とのコンタクト場面 で生じるような、学習者の能力の総合的な使用、相手の話に対するおおまかな理解の必要性などが実践的に理解され、実際場面 の日本語コースへの導入の有効性が確かめられた。ただし、コミュニケーション・ストラテジーの点からは、学習者のインターアクション能力は期待を下回った。また会話のマネージメントに関する教育が必要であることが最後に議論される。

第2言語としての日本語学習に関する縦断的事例研究
【PDF:1,193KB】
松田 由美子(新潟大学 大学院教育学研究科)、斎藤 俊一(新潟大学 大学院教育学研究科教授)

第2言語としての日本語習得過程を明らかにするための基礎研究として、韓国人の日本語学習者2名を対象に事例研究を行なった。実験者が日本語指導を兼ねて観察を行ない、学習期間約6ヵ月、計16回の観察場面 から得た学習者の発話資料に基づき、分析を試みた。
分析Iにおいて、日本語学習者の発話構造の基本的な枠組みを構成した。その結果 、学習者は、発話時点で既に持っている中間言語をよりどころとして、発話を試みるが、その際伝達を円滑に進める手段として、さまざまな方略を用いるという基本的な発話構造が明らかにされた。中間言語が形成される過程において、学習者は目標言語の構造を常に仮説設定しようとする認知方略を基礎として使用するものと想定され、また、伝達上の方略としては、目標言語をモニターしたり、対話者を利用したりする方略が認められた。
分析IIでは、格助詞使用状況を調べ、分析Iで構成した枠組みに沿って、学習者の認知過程を考察した。分析の対象とした格助詞は10種類である。この結果 、学習者に共通した使用傾向と、学習者間での個人差が明らかになった。共通 傾向は、特定の格助詞使用に見られる顕著な脱落や、他の助詞の誤選択等において認められる。これらの結果 から、分析Iで想定したように、第2言語学習者は仮説設定方略により、目標言語の言語構造に接近しつつ、かつ、効果 的な伝達を目指すという認知行動をとるものと考えられる。

テレビニュースを中心とした日本語学習用CAIシステムの開発
【PDF:466KB】
鈴木 庸子(国際基督教大学 語学科日本語教育プログラム講師)、
横田 淳子(東京外国語大学 附属日本語学校)、 高木 裕子(関西外国語大学 国際交流課)、
石本菅生、南雲弥恵子(国際基督教大学)

「テレビニュースを中心とした日本語学習用コースウェアの開発-学習内容の選択と整理-」に続いて、テレビニュースを聞けるようになるための聴解学習用CAIコースウェアを、授業設計の視点に立って開発した。実際のテレビニュースを録画したものを利用し、コースウェアの中で映像として提示した。また、単語や例文、練習問題を音声情報として、CRT画面 上の文字と同時に提示した。テレビニュースの視聴、やさしく直したニュースの聴解、単語の学習と記憶、表現の学習と練習、構文の練習を組み合わせ、数レッスンの学習によってテレビニュースが聞いてわかるようになることをめざした。

学習者の専門分野に応じた日本語教育のコースデザイン: 理論から実践へ
【PDF:990KB】
エリザベス A. マルヴィヒル(ヴィクトリア大学 (ウエリントン)日本語科講師)

学習者の専門分野に合わせた英語教育のコースを作ることは、今日ではよく行なわれている。出版社のカタログの中にもこのようなコースについて書かれたものが多く見受けられるようになった。しかし日本語教育においては、同様な目的をもつコースはあまり見受けられない。
本論文は、1988年にカンタス航空より依嘱された2つのJSP (Japanese for Specific Purpose)、すなわち「学習者に専門分野に合わせた日本語教育」について詳述したものである。このJSPの1つは同社の地上勤務社員のため、もう1つは予約課社員のために作ったコースである。どちらも言語学におけるLSP(Language for Specific Purpose)の理論とコースデザイン論をもとに開発したものであり、この2つのコースは理論を実践に生かす上での1例となるであろう。

日本語教育におけるティーチング・アシスタントの利用について
【PDF:808KB】
J.V.ネウストプニー(モナシュ大学 日本研究科主任教授)

この論文は日本語教育の枠組みの中でのティーチング・アシスタントの範囲をテーマにしている。著者はティーチング・アシスタントの利用は最も進歩的な傾向を代表し、教室場面 でも教室外場面でも広く採用されるべきだと主張している。著者はさらにティーチング・アシスタントの範囲を規定し、彼らの間のバリエーションや利用上の諸問題を論じている。ティーチング・アシスタントは資格のある教師の指導のもとで行動すべきである。また、ティーチング・アシスタントと彼らを指導する教師と、両方のために適切な研修過程が開発されなければならない。なお、この論文は、ティーチング・アシスタント利用可能なアクティビティーのリストを提供している。

複合助詞トシテをめぐって
【PDF:391KB】
戴宝玉

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