日本語教育論集 世界の日本語教育 第11号 要旨

コミュニケーション能力の向上を目指して: 討論会を通してその可能性を探る
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新井 芳子(東呉大學非常勤講師)

台湾の私立東呉大學の日本語学科の会話授業において、コミュニケーション能力向上の可能性を探ってみた。コミュニケーション能力の向上は 「読解」 「伝達」 「理解」 「討論」 の 4 つの側面と深く関わっている。本稿で論述する討論会では、学習者があるテーマについて、要約あるいは大意を把握したものを発表し、クラスで討論し合い、いかなる結論を出すかに力を注いだ。 筆者はこの一連の過程において、 次の 4 つの提案をし、その実践の分析を試みた。

  1. (1)コミュニケーション能力の向上には読解力と要約力を養う必要がある。
  2. (2)コミュニケーション能力の向上には談話構成能力と伝達能力が求められる。
  3. (3)コミュニケーション能力を向上させるにはまず人の話を聞くことから始めなければならない。そのためには、聞き取りと理解力を養わなければならない。
  4. (4)コミュニケーションはお互いが理解し合える場を作りあげる。

40 回に及ぶ討論会を通して、提案はその妥当性が認められた。それはペア・ワークによる事前の周到な準備がそれを可能にしたと言える。
また、台湾人は日本人ほどあいづちを打たないが、 外国語(日本語)によるコミュニケーションにおいては、聞き手の 「あいづち」 や 「うなずき」 「微笑み」 が、話し手の精神的緊張感を和らげていることが、 提案の分析以外に観察された。それは自己の発話に自信の持てない学習者ほど顕著に現れていた。

台湾人日本語教師の母語使用に関する基礎的研究: 会話授業の分析を通して
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顔 幸月(広島大学大学院教育学研究科博士後期課程)

本研究は、日本語教育における母語使用の可能性と限界を探ってゆくための基礎的研究として、台湾人日本語教師の母語使用の実態を明らかにし、実際の教授行動を分析的かつ包括的に捉えた 「母語使用カテゴリー」 を作成するものである。具体的には、 台湾の大学の日本語学科において台湾人教師が担当している 2 年生前期の会話授業を対象に授業観察を行ない、分析した。
結果、母語が多く使用されていた教授行動の上位 6 位は、「言語構造の日中対照比較」、「教師の説明や指示の翻訳」、「リラックスした雰囲気作り」、「日本文化の説明」、「文法の説明」 及び 「理解度の確認のための質問」 であった。この中で特に興味深い点は、 翻訳行動が 「学習内容に関する翻訳」 だけではなく、 「教師の説明や指示の翻訳」 でも見られた点である。このような使用は先行研究ではあまり指摘されていないものであり、学習者にとって望ましいものかどうか、さらなる調査が必要である。また、「リラックスした雰囲気作り」 では、母語を時々使用するという台湾人教師の自己判断(顔 1999)と母語が多く使用されていたという本研究の結果とはややずれが見られた。台湾人教師が自分の母語使用について意識していない部分があることが、この理由の 1 つと思われる。授業中どのように学習者の母語を活かして、学習者がリラックスして教室活動に参加できるような雰囲気を作るのかを、教師側は意識的に捉える必要がある。

外国人日本語学習者の日本語発音不安尺度作成の試み: タイ人大学生の場合
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小河原 義朗(国立国語研究所日本語教育部門研究員)

本研究は、教師が事前に外国人日本語学習者の発音不安を把握するために用いることのできるような 「日本語発音不安尺度」 の開発を試みることを目的とする。
発音不安について聞く58項目からなる質問紙を作成し、タイの大学で日本語を学習する来日経験のない学部学生 357名を対象に質問紙調査を実施した。
因子分析の結果、「発音学習スキルの欠如」 「日本でのクラス場面における他者評価」 「日本でのクラス場面における発音学習スキルの欠如」 「他者評価」 「自他比較」 の5因子が抽出され、発音不安が生じる場面は、現在のタイでのクラス場面と、日本でのクラスを想像した場面の大きく2つに分類された。不安要因としては、場面による影響はあまり見られず、 発音学習・改善のためのスキルがないことによる 「発音学習スキルの欠如」、他の学習者による評価や存在を意識することによる 「他者評価」 「自他比較」 に起因する発音不安を抱いていることが示唆された。
そして、各因子項目から 6項目ずつを選定し、タイ国内版 3下位尺度 18項目、日本国内版 2下位尺度12項目からなる尺度案を提示した。下位尺度の信頼性、下位尺度間の相関、学習歴・発話量・自己評価得点との関係などを検討した結果、この尺度が十分使用に耐えることが示された。

中間言語の化石化と第二言語習得のメカニズム
【PDF:615KB】
森山 新(世宗大学校日語日文学科専任講師)

本研究は第二言語習得過程に見られる中間言語の化石化現象を分析することを通じて、第二言語習得のメカニズムを明らかにしようとしたものである。 研究は韓国語母語話者の日本語学習者を被験者として、共起する格助詞に化石化が起こりやすい、可能動詞、「上手・下手」、「好き・嫌い」、動詞のタイ形に共起する格助詞を縦断的に調査して行なった。
その結果、可能動詞や動詞タイ形では、ヲ格共起が長引き、化石化が起きやすいのに対して、「上手・下手」、「好き・嫌い」 では化石化が起こりにくく、 比較的容易にヲ格共起はガ格共起へ移行した。
化石化を引き起こす原因としては、認知的な要因が考えられる。認知的な要因とは第一言語と第二言語の認知的なスキーマの違いであるが、とりわけ他動的スキーマと自動的スキーマの違いは第二言語習得にあたってスキーマの転換を難しくし、習得を遅らせている。スキーマの転換には第一言語と第二言語との間に類似性を見いだすことが役に立つものと推察される。

詫びの手紙文における情報の展開構造: 中級日本語学習者と日本語母語話者の対照分析
【PDF:594KB】
西村 史子(ワイカト大学東アジア学科講師)、
鹿嶋 恵(三重大学留学生センター講師)

中級日本語学習者の書いた文章が持つ不自然さ、日本語母語話者との違いを文章の展開構造に着目し分析した。用いたデータは、学習者 58 名、母語話者 51 名によって書かれた日本語の詫びの手紙文の本文部分である。予めデータ提供者には課題として、東京在住の先生に長い間本を借りたままで近々上京の予定があるのでその折に返すという内容の手紙を書くように具体的に指示した。分析の結果次の 3 点が明らかとなった。1.学習者は設定課題で示された内容をその通りに日本語に置き換える傾向にあったが、母語話者は状況を自分なりに解釈し、情報の提示順序を入れ替えて文章を構成する場合が見られた。結果として母語話者には豊富なバリエーションが見られた。2. 新しい情報を導入する際の表示標識(例えば 「さて」 など)の使用実態を見ると、学習者は画一的であるが、母語話者は様々で複合した型も見られた。3.本未返却の理由を書くに際して、両データにはその書き方に異なりが見られた。これらの原因としては学習者に、1) 状況を解釈し適切に構成していこうとする姿勢の不足、2) 情報の深刻さや内容の変わり目を察知し、各状況にあった表示標識を用いるための構文及び文化的な知識の不足、3) 日本語において詫びたり、理由を述べたりするための社会言語学的な知識の不足、4) 母語である英語からの影響、が示唆された。

上・超級日本語学習者における発話分析: 発話内容領域との関わりから
【PDF:863KB】
荻原 稚佳子(早稲田大学国際教育センター非常勤講師)、
齊藤 眞理子(文化女子大学教授)、増田 眞佐子(中央大学国際交流センター講師)、
米田 由喜代(大阪大学留学生センター非常勤講師)、
伊藤 とく美(学校法人岩谷学園 横浜簿記テクノビジネス専門学校教育マネージャー)

本研究は、上・超級日本語学習者の発話の特徴を明らかにすることを目指し、ACTFL (全米外国語教育協会)から日本語の OPI テスト(口頭面接テスト)のテスター認定を受けた試験官が行なったものである。OPI テストの録音テープから、超級、上級の上・中・下の各々の典型的なものを選んで分析対象とし、母語話者とも比較した。
まず、話題の種類と述べ方から発話内容領域という概念を設け、それを3つの領域---I.身近な具体的事実を直接的に言う、II.個人的一般的関心事の具体的事実を詳述する、III.抽象的内容を論じる--- に分けた。各被験者の発話について、この発話内容領域を軸として、試験官の要求への対応・発話の構成・談話の形・文法能力(語彙の広がり、誤用、言い直し、接続表現)を分析した結果、上・超級話者の各レベルの発話の特徴を具体的に示した。
また、上級から超級への移行の過程が明らかになった。全分析項目において、なだらかな発達がみられるわけではなく、発話の構成・抽象的表現の使用・言い直し・接続表現・誤用などの項目では、上級と超級で大きい違いがみられた。また、発話内容領域によっても、レベル差が大きく現れる項目が異なっていた。これらの結果から、いくつかの分析項目では、ACTFL-OPI の基準で示されているレベル変化とは異なる、大きく変化する段階があることも分かった。
さらに今回行なった母語話者との比較から、超級話者のほうが母語話者より論理的に話したり、和語を多く使用することが認められた。

韓国人日本語学習者の作文における読解材料からの情報使用: 読解能力との関連から
【PDF:527KB】
八若 壽美子(立命館アジア大平洋大学アジア大平洋マネジメント学部常勤講師)

レポートや論文などを書く時、「読む」 ことから得た情報を活用することは不可欠なことである。日本語学習者が読解材料を使って作文を書く時、その情報の活用の仕方に読解能力は関与しているのだろうか。本研究では、読解材料を使った作文において読解材料からの情報使用が読解能力によって異なるかを明らかにするため、韓国人中級日本語学習者に 3 篇の読解材料を参考に説明文を書かせる実験を行なった。情報使用の量と 「変形のタイプ(引用・独自の説明・言いかえ・ほぼコピー・コピー)」 の使用傾向を読解能力上位群と下位群で比較した結果、読解能力によって読解材料からの情報の使用の仕方が以下のように異なることが判明した。

  1. 1.読解能力上位群は読解材料から有意に多く情報を使う。
  2. 2.読解材料からの情報の 「変形のタイプ」 の使用傾向は読解能力によって異なる。
    読解能力下位群は上位群に比べて 「コピー」 を有意に多く使い、「言いかえ」 を少なく使う。
  3. 3.読解能力上位群は適切な情報使用を有意に多く使う。

外国語としての日本語学習における口頭試験での不安感
【PDF:1,290KB】
町田 左由紀(メルボルン大学メルボルンアジア言語・社会研究部日本語プログラムコースコーディネイター)

特定状況で生じる不安感の 1 つに、試験に対する不安がある。本研究では、特に、外国語学習の手 段・評価として行なわれる口頭試験に対する不安感を考察する。日本語外国語学習の教室の場活動の 1 つとして行なわれるスピーキング・テストにおいて、この不安感が日本語学習者の実際の口頭試験にどのような影響を及ぼすかを検証し、外国語学習における不安感を位置づけ、またその与える効果を明らかにすることを目的とする。
オーストラリアの大学レベルの初級日本語学習者に被験者として参加を依頼した。a) 学習者の外国語学習に関する経験、また彼らの動機レベル、b) 外国語学習クラスにおける不安感、c) 口頭試験に対する不安感、d) 彼らが実際学習の場で感じた不安感を把握するために、被験者に対して質問紙調査を行なった。 本研究の課題は、学習者の感情的要因と口頭試験の結果との関係、および、感情要因間の関係・関連の検証・審査を行なうことである。
調査の結果を数値化して、要因毎の相関を調べた。 口頭試験の臨場での不安感は、試験の結果と非常に強いマイナスの相関関係を持つという結果がでた。 また、今回調査した感情的要因のなかでは、この臨場での不安感が試験結果の予想には、より効力があるという傾向が検証された。学習者の変数要素(性別、母国語、外国語学習歴、口頭試験の結果)による下位グループ内、及び対グループ比較においては、 不安感が動機レベルとあいまって口頭試験に影響を及ぼした様子が観察された。

議論の場におけるあいづち: 日本語母語話者と韓国人学習者の相違
【PDF:590KB】
李 善雅(名古屋大学大学院国際言語文化研究科日本言語文化専攻)

本稿では、日本語母語話者と韓国人学習者を調査対象に、議論の場に見られる同意を示すあいづちと強調の働きをするあいづちの使い方について考察した。
その結果、この二種類のあいづちの出現傾向において、日本語母語話者の場合は 「自分に同意の話し手の発話」 より 「自分に不同意の話し手の発話」 の中で出現割合が高いのに対し、韓国人学習者の場合にはこれとはまったく逆の傾向が見られた。
日本語母語話者は、話し手が聞き手の主張にとって不利になる事実、または話し手の主張を支持すると思われる事実を述べるとき、それに対して同意を示すあいづちを適切に打ったり、 または重複形あいづちを使って会話に参加する積極的な態度を示すことで、話し手が意見を述べやすい雰囲気になるよう気を配っていると思われる。
しかし、韓国人学習者は日本語母語話者とは反対に、話し手が自分の主張にとって有利になる事実を述べるとき、それに対して同意を示すあいづちと重複形あいづちを使って、自分の主張の妥当性を訴えていると思われる。
両グループの間にこのような違いが見られる理由は、韓国人学習者は日本語母語話者とは違って、議論の場において相手の意見に必要以上の同意表明をする人は、優柔不断な人であるという印象を受けやすいので、同意を示すあいづちや重複形あいづちを 「自分に不同意の話し手の発話」 に対して打つのに抵抗を感じるからだと推察される。
しかし、このような小さな食い違いが異文化間コミュニケーションの障害になる可能性は十分あると思われる。学習者に対するあいづちの教育において、 あいづちの機能に関する指導の重要性を考えさせられる。

誤用分析にもとづく 「ながら」 と 「ミョンソ」 の比較: 始点の用法と述語の持続性を中心に
【PDF:555KB】
鄭 惠先、坂口 昌子(大阪府立大学大学院人間文化研究科博士後期課程)

本論は韓国人の作文の誤用例と、韓国語と日本語の対訳本を資料として、韓国語の 「ミョンソ」 と日本語の 「ながら」 の相違を明らかにしたものである。
まず、従来 「同時進行」 と 「逆接」 と言われていた日本語の 「ながら」 の用法に加え、韓国語の 「」 には 「始点」 と 「相応性」 の用法があることを明らかにした。
次に、両言語が等しく持っている 「同時進行」 の用法の場合、述語との共起について考察し、出来事の持続性に違いがあることを明らかにした。共起制限のある述語に関しては、従属節の持続性・主節の持続性・従属節の背景性という 3 点を日韓語の 「ながら」 と 「ミョンソ」 の違いとして明らかにした。
以上の結果を表にすると、以下のとおりである。


始点 相応・不相応性 同時進行
相応的 不相応的 主節 従属節
逆説 不相応 持続性 瞬間性 持続性 瞬間性 背景性
ながら
ミョンソ

受容動詞の文法化: ドイツ語における bekommen 受け身と日本語におけるモラウ使役の対照研究
【PDF:433KB】
仁科 陽江(エアフルト大学日本語専任講師)

日本語とドイツ語の両言語において、受容動詞 (「もらう」)は、他の動詞の非定形とともに受益の意味を表す。この出発点を同じくする構成原理はそれぞれ異なる方向に文法化し、対照的なカテゴリーを確立する。ドイツ語の受容動詞 bekommen を用いた受益構文が、受益の意味を越えて受け身文へと文法化し、既存する werden 受け身に加わる統語論的なサブカテゴリー、 すなわち与格受け身を形成するのに対し、日本語のモラウ構文はあくまで受益の意味を保持しつつ使役文に文法化し、既存する使役構文に加わる意味論的なサブカテゴリー、すなわち受益使役を形成する。両者の違いは、受容動詞によって前面に押し出された 「受け手」 の意図と役割の違いが、構文解釈において異なる意味的貢献を果たすことによる。尚、これらサブカテゴリーの形成や構文の多義性は共時的な文法化現象を説明するものである。

副詞(的機能を持つ表現)の意味分析:
思わず、無意識に、我知らず、知らず知らず、いつの間にか、いつしか

【PDF:1,115KB】
李 澤熊(名古屋大学大学院国際言語文化研究科博士後期課程)

本稿は、副詞(的機能を持つ表現) 「思わず、無意識に、我知らず、知らず知らず、いつの間にか、いつしか」 の 6 語の個別の意味と相互の意味関係(類似点・相違点)を明らかにすることを目指したものである。分析の結果を簡単にまとめると以下のようになる。

  1. 1.「『無意識に』 行なう行為」 の場合の 「意識」 には、様々なレベルがある。
  2. 2.「思わず」 は 〈ある刺激〉 による 〈瞬間的・条件反射的行為〉 としてとらえられる場合に用いられる。
  3. 3.「知らず知らず」 は、話し手がある行為をする(あるいは、話し手のおかれたある状況が変化する)際、〈ある行為(状況)から別の行為(状況)に移る〉 までの 「プロセス」 とでもいうべきものがあると考えられ、ある程度時間がかかると思われる場合に用いられる。
  4. 4.「我知らず」 は 「思わず」 と 「知らず知らず」 より広い意味領域を持っている。
  5. 5.「いつの間にか」 と 「いつしか」 はそれぞれ 「ある事柄の変化の結果」 に注目して述べる場合と 「ある事柄の変化のはじまり」 に注目して述べる場合に用いられる。

怒りの直接表出表現 「ハラガタツ、アタマニクル、ムカツク」 の意味分析
【PDF:589KB】
馬場 典子(名古屋大学大学院国際言語文化研究科博士後期課程)

怒りを表す表現の中でも 「ハラガタツ、アタマニクル、ムカツク」 は基本形単独で怒りを直接表出でき、また補語を取る場合も基本形で表せるという共通点を持つ。本稿ではこの 3 語(句)を共時的に分析し、各語(句)の意味・用法の類似点・相違点を明らかにすることを目的とした。そして「テイル形の「報告性」」(柳沢 1994)と 「情報のなわばり理論」(神尾 1990)を援用することにより、3 語(句)が品詞上は感情形容詞と連続的であり、中でも 「ハラガタツ」 が最も感情形容詞的な性質であることを指摘した。またこれら 3 語(句)は動詞の性質上、状態動詞と連続性があることが明らかになった。さらに類義分析で 「ハラガタツ」 が怒りの対象に 「自分」 を取り、内省的な怒りを表すこと、「アタマニクル」 だけが副詞 「ついに」 と問題なく共起し、怒りの生起の瞬間に着目する表現であること、「ムカツク」 が生理的な類似性に基づくメタファー的表現であることを確認した。

現代日本語における文末表現の主観性:
ヨウダ、ソウダ、ベキダ、ツモリダ、カモシレナイ、ニチガイナイを対象に

【PDF:679KB】
杉村 泰(名古屋大学大学院国際言語文化研究科助手)

本稿は 「ヨウダ」、「ソウダ」、「ベキダ」、「ツモリダ」、「カモシレナイ」、「ニチガイナイ」 を対象に、 現代日本語における文末表現の主観性の違いについて考察したものである。従来、これらの表現は全てモダリティに分類され、命題に対する話し手の主観的態度を表すと説明されてきた。
これに対し本稿では、先行研究とは異なり 「ヨウダ」 (推量)と 「ニチガイナイ」 はモダリティとして機能するが、「ヨウ―ダ」 (比況)、「ソウ―ダ」、「ベキ―ダ」、「ツモリ―ダ」、「カモシレナイ―Φ」 は、「Φ / ダ」 を除く部分は命題として機能すると考える。その証拠として 「ヨウダ」 (推量)と 「ベキダ」 を例に説明すると、「ヨウダ」 (推量)が判断の対象とならないのに対し、「ベキダ」 は判断の対象となるということが指摘できる。

  1. (1)a. * [政府が景気対策をするヨウ]デハナイ。
    b. [政府が景気対策をするベキ]デハナイ。
  2. (2)a. * 国民は[政府が景気対策をするヨウ]かどうかを考えた。
    b. 国民は[政府は景気対策をするベキ]かどうかを考えた。

こうした事実により、本稿では 「ヨウ」 (比況)、「ソウ」、「ベキ」、「ツモリ」、「カモシレナイ―」は命題表現であることを主張する。

留学生の日本語表現と文化の影響: イメージ調査と言語表現調査から
【PDF:754KB】
山口 和代(南山大学総合政策学部総合政策学科講師)

人は他国の人々に対してさまざまなイメージを持っているが、それらは往々にしてステレオタイプ的なイメージである場合が多い。このようなイメージが形成される要因には文化、習慣、 非言語および言語行動等さまざまなものが考えられるが、その一要因として言語ストラテジーの選択の相違も見逃すわけにはいかない。本研究では中国人留学生および台湾人留学生と日本人母語話者に対して行なった記述式調査から、彼らが互いに抱いているイメージと彼らが使用する日本語表現の相違を分析し、考察を行なった。
調査の結果、中国人および台湾人留学生の日本人に対するイメージにはある種ほぼ共通したイメージがあるが、一般にほとんど同じかあるいは類似した文化を持つといわれる中国人・台湾人留学生はお互いに抱いているイメージにかなり相違があることがわかった。また、文化によって文脈の持つ意味や、 行動や言動を左右する視点に違いがあることが明らかとなり、言語表現には、まず何を重視すべきか、 何を伝えるべきかという価値観の相違が大きく影響していると考えられた。
異文化コミュニケーションにおいては意図せずして誤解を招く場合もあり、表面に現れたコミュニケーションスタイルからだけではなく、その背景に社会や文化といった要因が深く関わっているという認識を持った上で相互理解を目指すことが重要だと考える。

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